第6話 盗賊!?治安わるぅ!2人は私が守る。

レイア様とフレアと合流し元OLで元馬のエレノワースが馬車に揺られ移動を開始した。物珍しく外を見ていると、フレアに声をかけられる。


「エレノワースは外の世界を見るのは初めてなんですね。」


日本の記憶があることはレイア様以外は知らない。実際こちらで王宮から出たのは初めてだったので、「うん」と頷いておいた。


今まで知らなかったが、文明は意外にも進んでいるらしくスマホほどではないが、魔力があれば使える携帯のようなものもあった。今回の移動もヒト1人であれば移動することの出来るミニカーみたいなものもあるらしいが、魔力消耗が激しく、長距離且つ大荷物の移動はまだ馬車の方が向いているそうだ。少し乗ってみたかった。


単に外国に転生したという訳ではなく、全くの知らない世界、異世界と考えてよさそうだと人の姿になってからようやく気付いたのである。


「美しいね」


街の中心にある宮殿から離れると、あまり手の加わっていない道に入る。日本で言うところの田舎道が近いのだろうが、雰囲気は全然違った。どちらかというと外国の田舎道だろうか。背の高い木が示しを合わせたように規律良くならんでいた。景観を守るためなのか道に迷わないためなのか舗装こそされていないが、それだけはずっと続いている。時々木々の隙間から青色の湖が見えてキラキラしていた。


「そうね。学園まで遠くないと行っても、今回は荷物があるから馬の休憩もあるし、途中で一泊するわよ。ちゃんと休憩してね。」


休憩しながら進んで10時間ほど経った。出発したのは午前10時頃なので、夜8時というところか、そろそろ休んだ方がいいだろう。辺りはかなり暗い。


川辺がある所で馬車を止めた。馬たちに水を飲ませ、食事を与える。また、私達も同じように休憩する。もちろん食事のメニューは別だ。かなり暗いので焚き火を灯すことで暖と明かりをとる。


その時、草むらの方からガサガサと音がした。警戒し一点を見つめると勢いよく集団が飛び出してくる。


咄嗟に隣で火を囲んでいたレイア様を庇うように立ち上がる。数は6だ。実は少し前から人が近いような気はしていたのだ。元々馬の体だったせいか、耳がよく脚力も並のものではなかった。ただ、こういった経験がなかった為に見過ごしてしまったのだ。


「悪いことは言わねぇ。金目のものを全て置いていきな。そうすれば何もしないさ。」


わぁー治安悪い。魔法が使える世でもこんな事があるのかと少々驚く。こう悪そうで強欲そうな奴が金目のものを貰ったところで引き下がるわけがない。これまでこんなにもテンプレートな悪い人に出会ったことがなく、かなり恐怖はある。しかし、それ以上にレイア様とフレアを守らなければという責任があった。


彼らの中には魔法が使える者が2人おり、その中でも体格のいい男が1人いる。そいつがリーダー核のようだ。こちらに向けて何か打つつもりなのか指を構えている。そいつを中心にこちらを囲むように仲間が立っており統率されているのか下手に動く様子はなかった。


一か八かではあるが、これはいけるかもしれない。


睨み合いが続く間、頭の中で構想を立てる。


フレアもレイア様を庇うように立っているので一撃目が当たることはないだろう。

レイア様が動こうとするのを感じ手で制する。


「エル?」


動きを止められ困惑するレイア様に小さな声で返事をした。


「大丈夫。私を信じて。」


強気に言い放ち、視線は敵に向けたままレイア様の手を一瞬だけ握って手を離した。

痺れを切らした男が短い詠唱を始め、指を振り上げたと同時にエレノワースが走り出す。恐らくこのスピードの秘密を一瞬で分かるものは居ないだろう。


緊張状態では今までいくら魔法を教えて貰ったとはいえ、大したものは出せない。その代わりに男を蹴りあげるために引いた右足に簡単な風の魔法を掛けて思いっきり蹴りあげた。肉と骨にしっかり当たる感触がした。男は変な声を上げながら蹴られた方向に5mほど転がっていく。馬の後ろ足が危険とは知っていたが、これほどの筋力だとは、と自分でも驚いた。人を蹴ったのはこれが初めてだが何本か折れたのは体感で分かってしまった。


統率力のなくなった盗賊たちは散り散りに動く。その後は、高レベルな魔法を扱えるレイア様と、体術魔法ともに人に教えられるレベルのフレアによってあっという間に片付けられた。私が出来たことは1番初めにリーダーを攻撃して隙を作ったことだけだ。リーダーの言うことを真面目に守るようなタイプなら統率者を失うことで、どうにでもなると思った。もちろんレイア様とフレアの力あってこそ。


「あなた怪我してるじゃない」


呆けていると、レイア様が心配そうにこちらに手を伸ばしてきた。


「え、あー、気付いたら痛くなってきた。」


指摘されてレイア様の手が触れる前に自身の頬を手で拭ってみるとペタリと血が着く。

どうして傷ってそこにあると気付いた瞬間から痛くなるのだろうか。

生憎、治癒魔法を使える者はいない。治癒魔法を使えるのは珍しく、もし使えるなら、それだけで将来困らないだろう。悪用されたり命が狙われたりする危険もある為そんなに欲しくもないが、今はあったらいいのになんて思った。


傷を放置しようとすると、「そんなのはダメよ」とレイア様が近くの川辺でハンカチを冷やし拭ってくれた。その後フレアに簡易的に処置をされる。その時、痛がって頬を逸らそうとしたら、膝辺りをペシりと叩かれ「もう少しだから我慢してください。」と2人に注意されてしまった。


悪人たちはレイア様派の従者によって引き取られた。元々この馬車には従者たちが付いていたのだが、レイア様がエレノワースを秘密裏に乗せるために、金貨を渡し自身がよく知る従者に代わらせた。一緒に行動していなかったのでどこにいるのかと思っていたのだが、馬車を少し離れたところから追わせていたらしい。準備がいい王女様だ。


結局襲われた場所で休むことも出来ず、馬車を移動させることにする。2人には止められたものの他の馬たちがあまり休めておらず可哀想だったので、馬の姿になり率先して馬車を引く。


レイア様には中で休んでもらい、フレアの方は心配だからと運転席の方に座ってくれた。


夜も23時を回った頃数度目の休憩をした。レイア様は高度な魔法が使えて大きな戦力ではあるが、その前に王女様である。高貴な方なのだ。こんな過ごし方に慣れているはずがない。疲れていたのかあまり良くない環境でもぐっすりと眠っていた。ある意味逞しくはあるな。


馬の姿で動き回ったのは久々でかなりいい汗をかいた。少し休んでいると、フレアが近くに寄ってくる。


「大丈夫なんですか?」


「これくらい全然大丈夫だよ。それに馬は立って眠る方が多いせいか、あまり寝ないんだ。」


「今は人じゃないですか。」


大人で妖艶な雰囲気のフレアが珍しく子供っぽい表情で笑ってる。彼女から飲み物を受け取って一気に飲み干す。身体の中心に冷たい水が通るのが感じられて気持ちいい。


「人間の姿でいる方が自然に見えるけれど、気の所為でしょうか?」


ぎくぅっとするが、これまでの訓練の賜物だね!と適当に流す。


「さっきの戦闘、瞬時に敵の統率者を判断し的確に攻撃していました。とても戦闘が初めてとは思えません。」


いや、戦闘は本当に初めてだったし、かなり緊張していた。あの判断が出来たのは日本に住んでいた頃のゲームが影響していると思う。大体は主犯を攻撃すればスムーズに行ったり、そのまま戦闘が終わったりする。ただそれだけだった。本当にたまたまゲームが好きでそれを思い出し、咄嗟にやったことが当たっただけで博打に変わりない。


「えっと、本当に初めてだったんだよ。野生の勘ってやつかな?」


納得はしていない様子だったが、それ以上言及せずに話題を別に移してくれた。


「頬は平気ですか?」


「うん。2人のおかげで、もう全然痛くないよ。ありがとう。」


「あなたも女の子なんですから、気を付けて下さい。」


フレアが呆れたように声をかけてくるが、心配しているのが伝わる。きつそうに聞こえる言葉の裏返しはいつもこちらを思いやってのことだ。


「フレアって優しいよね。」


思いつくまま伝えたのだが、照れてるのか怒っているのか分からない反応をされた。


フレアと話していると、馬車の方から音がして、寝ぼけ眼のレイア様にじゃれているところを見られた。気まずくなるかと思ったが寝ぼけていたためか何も言われることなく馬車の中に戻っていく。何がしたかったんだろう。レイア様が現れたことで落ち着いた2人は残りの道を最後の力を振り絞り進んだ。

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