第5話 母とお別れ?え?いいの?あっさり?
もう少しで学園に入学する日がやってくる。
その前に一つ済ませることがある。以前まではレイア様の力を借りて人になったり馬になったりしていたが、訓練を経てある程度自由に変われるようになった。そして、これからは基本的に人として生活することになったのだ。スローライフとのお別れは寂しいけど小さい時から仲良くしてくれたレイア様の頼みだ。頑張るしかない。
ただ、人として生活するということは母と別れて生活することを意味していた。
「母さん、これからは別々に住むことになるんだけどいい…かな?」
馬の姿に戻り、小屋の中で母と話す。すると意外にもあっさりとした答えが返ってきた。
「構わないわよ。」
「え!?」
「だからいいわよ。って何よ変な声出して。」
「あっさりすぎやしません?」
「馬鹿ね。あんたたちの悪巧みなんて筒抜けよ。」
あーーーー。そっか。母さんも耳がいいんだった。私達の会話なんて筒抜けだったんだ。特に少女特有のソプラノなら。あれ、でも大事なことは部屋で話したから分からないはずなんだけど。
「それにね、レイア様のお願いならいいのよ。」
エレノワースの不思議そうな顔も無視して話は続けられた。出産の前後こそ気が立っていて、近づけられなかったが、以前はスカーレットの元にもレイアはよく来ていたらしい。
「そっか。ありがとう。」
すると、スカーレットがエレノワースに少し近付いた。
「あんた、本当に小さい頃から手がかからなくて、すぐ喋り出すし、大人びてて少し心配だったのよ?人が通う学園とやらに行かせるのは心配だけど、あんたが決めたことなら応援するわ。」
私は人の姿に戻って、母に抱きついた。
その後、世話をしてくれる大男もといハーデンさんにもレイア様と共に話をした。ハーデンさんは怖い人なんかじゃなくて、ずっと母と私を暖かく見守ってくれていた良い人だった。薄々悪い人ではないとは思ってたんだけどね。どうしてもごっつい容姿が邪魔をしていたのだ。
もともとレイア様以外の王族は王宮内にいる馬の数なんて覚えていなかった。レイア様専用の馬小屋にはスカーレットと私だけだったが、本来はもっと沢山いるのだ。家臣達が黒毛で金の瞳の馬が珍しく貴重なものであることは知る由もなく、あっさりと話は進んだ。
学園に入ると寮生活になる。
もうしばらくこうも出来ないのだなと母の隣で眠りについた。
「じゃあ母さん今日から離れて暮らすことになるけど、身体には気を付けてね。」
「えぇ。そう遠くもないんだから、たまには帰ってきなさい。」
「うん。ありがとう。」
母に挨拶をして、小屋を出ようとすると呼び止められた気がして振り返る。
「母さん?」
「レイア様は孤独な娘よ。あんたがしっかり側にいてやりなさい。」
レイア様はいつも人に囲まれているイメージだが母にはそう見えたようだ。「分かった」と、力強く応え今度こそ家を後にした。
ハーデンさんにもお礼を伝えると、寂しそうな顔をされたが、その顔も怖かったので適当に宥めてその場を離れる。ハーデンさんごめんと心の中で謝るもののどうしても慣れない。
準備されていた制服に着替えてレイア様の元へ向かう。
レイア様は既に制服姿で門から出ようとしているところだった。そこには王様と女王様、車椅子に座る第1王女らしき人と話をしている。フレアも近くにいるようだが、少し離れた場所に立っていた。お別れが寂しいのか女王様に抱きついている様子が伺えた。年相応な所もあるのだななんて思った。
私が合流するのは門を抜けて暫くしてからだ。それまでは身を隠しながらレイア様を追う。
特に難もなく、スムーズすぎるくらい順調にレイア様とフレアに合流する。私は元馬の癖に馬車に乗せられた。
第一の刺客が道中に現れるとも知らずに、私は窓の外をじーっと見つめていた。
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