第4話 人の生活も悪くはないかな。

「私死ぬかもしれないのよ。」


一声目は衝撃だった。なんの不自由もなさそうで、ただそこで微笑んでいれば、それだけでよさそうな少女の発言にすぐに反応ができない。それを気に止めることも無くレイアは話を続けた。


「命を狙われているの。」


「誰に?」


「第2王子よ。私の兄にあたる人。」


さらなる衝撃が走る。

この王宮には王様、女王様、そしてその息子の第1王子と第2王子、第1王女と第2王女という家系になっている。王子様が王様を継ぐものとばかり思っていたが、この国では王女様が優先してその後を継ぐらしい。といっても、外から優秀な男性を迎え入れるというのが目的らしく、ただ女性優位の社会ではないようだ。また、継げる王女がいない場合は王子が引き継ぐ事になっているらしい。第2王子は王様の座を狙っているというわけだ。


「それなら第1王女や第1王子も狙われてる?」


「いいえ。第1王女は病に伏せてるの。若くして亡くなってしまうような重い病気ではないんだけどね。ただ公務を執り成せるような身体ではないの。まだ公にはなっていないけれど、時が来たら私が継ぐことを国民に伝えることになるわ。」


「なるほど」


「それと第1王子が引き継ぐことは出来ないの。理由は今は言えないけれど、また話すわ。とにかく狙われているのは私だけよ。」


「はぁ」


「間抜けな顔しないで。あなたを見込んでいるのよ。」


キョトンとしていたのがバレて、指摘されてしまった。


「どうして私?」


「わけはまだ言えない。隠し事ばかりでごめんなさい。でも信じて欲しいの。」


仕方がない。もう乗りかかった船だ。泥舟だろうが草舟だろうが、沈むなら沈んでしまえ船なんて!だ。


「私に出来ることってあるのかな?」


「私が来年から魔法学園に通うことは覚えていて?」


そうだ。レイア様は16歳になる年から学園に通うことになっている。それまでは専属の家庭教師に教えられていたのだが、将来のことを見据えて他人と関わる練習なんだとか。


「そこにあなたも通ってもらうわ。」


「え?」


「それも同級生としてね。」


「え!?ぇえぇぇぇえええええええ!?」


私の叫びによって、従者たちが騒ぎ出しその日はお開きとなる。あまりに慌てていたので、結局馬に戻る方法が分からず人のまま小屋に戻るとスカーレットはたいした反応も見せなかった。


その日以降、地獄の日々が始まった。


貴族としての振る舞いそして魔法や帝王学、この国の歴史についての勉強。作法や魔法については実技ありだ。


また、呪いの効果の延長ではあるが、人として維持する容姿を自身で多少変えられるようになった。高校生時代の自身を必死にイメージして、見た目の歳を近付けることだけは成功していた。レイア様にも、問題ないわ素敵よ。と、言われた。


貴族としての振る舞いを身につけることも大変だった。元々生まれてからずっと馬として生活していたのだ。その前だってただのOLだ。そんな高貴な真似簡単には出来ない。


そのうえ食事や寝る時は馬になり、座学や実技の時だけ人になりレイア様お付の家庭教師に教えられた。どうやらその家庭教師もレイア様側らしい。


「フレアーもうやめようよ。」


「貴族たるものそのような情けない声をあげるものではありませんよ。」


妙に身体にフィットした洋服を纏っているフレアと呼ばれたこの女性が、レイア様お付の家庭教師だ。


「わーん。だって女の子だし貴族でもないもん。」


「あなたね。」


「分かってるよ。レイア様の役に立ちたいもん。頑張るよ。でも休憩してる間だけは許してよぉ。」


「仕方ないわね」と、サラリと頭を撫でられた。きつそうに見えるが、実は結構優しいのだ。大人の女性ということもあり、いつも少し甘えてしまう。レイア様に見られると何故か少し不機嫌になってしまうので、2人きりの時だけだ。


「フレアはさ、いつからレイア様の話知ってたの?」


「あなたが知る半年ほど前にですよ。」


「ふーん。私よりずっと早いんだ。」


なんとなく面白くないが、「レイア王女様はあなたを出来るだけ巻き込みたくなかったんだと思いますよ。」と、言われ納得する他なかった。とはいえ、その時馬の姿とはいえレイア様が自由にできる時間を1番長く共に過ごしたのは自分だから、1番に教えてくれても良かったのにとは思ったけどね。


不貞腐れてる場合でもないので、そのレイア様が困っているのだから頑張らなきゃなと気合いを入れ直す。


「休憩おしまい。フレア続きお願いできる?」


「えぇ。」


フレアの微笑みに気恥ずかしく思いながら勉強を再開した。時々レイア様が様子を見に来ては、お菓子なんかを持ってきてくれた。


この生活も案外悪くないかもしれない。

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