第28話 人族

 アリシアとコナーは、いつものように

食堂の真ん中の席に着いた。

コナーが楽しそうに言う。

「お腹がすいたねぇ。さ、食べようか」

「はい。いただきます」

アリシアも食べはじめた。


コナーはアリシアが話しやすいように、

たくさん話しかけてくれた。

「アリシア、何か聞きたい事があるんだって?」

「そうなんです。でもプライベートな事かもしれないので、

イヤならそうおっしゃってね」

「大丈夫だよ、そんなに気にしないで

聞きたい事を聞いて?」

「ありがとう。あのね、コナーは

他の人族の方に会ったことはある?」

「あるよ。年齢も性別も色々なんだ。

しばらくは予定がないけど、ディナーの会なんてのも

あるし、お父上が許可してくださるなら一緒に行こうか?

ああ、もちろんシャアルには僕がうまく言っておくよ。

まあ、多分 外で張り付いて待ってると思うけど」

コナーは楽しそうに笑った。

「私、コナー以外の人族に会った事がないの。

運の良い人は、学校で学年違いだけど会えたりするらしいんだけど

私の時は居なかったの」

「そうなんだね、僕は学校で1人、5歳年上の人がいてね。

ずいぶんと面倒を見てもらったんだ」

「そうなのね、うらやましいわ」

「アリシアもこれから人族の知り合いを増やせば良いよ」

にこやかに、話は進んだ。


ちょうど食後のお茶になった頃、アリシアが切り出した。

「あのね、コナー。コナーは恋をした事がある?」

コナーは優しく笑いながら答えた。

「もちろんあるよ。残念ながら、かなわなかったけどね」

「ご……、ごめんなさい。聞いても嫌な気持ちにならない?!」

「ああ、気にしないで。もう何年も前の話だから」

「人族は恋をすると、どうなるの?」

コナーは楽しそうに笑った。

「僕たちはね、獣族みたいにハッキリと分かるものがない。


人によるんだ。じわじわと実感したり、一目惚れって言って

獣族のように、突然恋をしたり、自分の気持ちに気が付いた時には

もう相手にはつがいがいたり」

「それは……なってみないと分からないのね?」

「そうだね。僕はね、じわじわと実感したんだ」

「じわじわと?」

「そう。友人として付き合いがあったんだけど、

友人では物足りなくなった。

でも相手は、僕を番としては思ってくれなかった」

「友人では物足りないって、恋人とどう違うの?

その、心の中の愛情として」

「友人として付き合いがあった時も、楽しかった。

でも、もっと一緒に居たいと思ったんだ。

ずっと一緒に居たいってね。

そう思ってからは、友人としての楽しさでは

物足りなくなってしまったんだよ」

「そうなのね。コナーの次の恋は、叶うと良いわね」

「アリシアは優しいね。そうだね、僕も次の恋ができると良いなぁ」


「獣族の方から告白されたりしないの?」

「そういう時もあったよ。でも僕の気持ちがハッキリ分かるまで

相手は待てなかったんだ。それはとても辛いことだったらしい。

なかなか上手く行かないよね」

コナーは肩をすくめて見せた。

「本当ね。待てないと思う獣族の方もいるのね」

「そうだね、ほとんどの人は待つ事が大変かもね。

だから皆、シャアルの自制心を褒めたたえるんだと思うよ」

「そうね、お兄様達まで、シャアル様の事は否定しなくなったもの」

「アハハ、そうなんだ。アリシア、僕はかなわなかったけど、

でも恋は良いものだったよ?」

「そうなの?」

「うん。ドキドキしたり、何もかもが楽しかったり、

相手に近づく男に、ヤキモチを焼いたりしてハラハラしたり」


コナーは良い笑顔だった。アリシアはその表情を見て、

かなわなかったけど良い恋だったんだろうと思った。

「コナー、あなたはどうゆうタイプの女性が

好きなの?」

「タイプ?!そうだな……考えたこともなかったなぁ。

本が好きな子が良いな。内容について、色々話せる子。

特定のジャンルの本が好きでも、

相手の良いと思うものを認めてくれる子」

アリシアは柔らかく笑った。

「考えた事が無いのに、ハッキリしているのね?

外見とかは気にならないの?」

「そうだね……そう言えば気にならない」

アリシアは思い当たる友人が居る……。おせっかいかしら……?

少し迷ったが、結局こう言った。

「恋にならないかもしれないけど、本が大好きな友人が居るわ。

今度、一緒にお茶はいかが?」

「僕も?!何だか僕がアリシアに相談してるみたいだねぇ」

コナーは嬉しそうに笑った。

「未来がどうなるかなんて、分からないんだなって思ってたの。

仕事で悩んでいたはずが、もう全然違う悩みもあるんだもの。

だから、楽しんで色々な経験をするのも良いのかも!

どうかしら?」

「君の友人がイヤじゃなければ、ぜひ話したいな」

「分かったわ!!機会があれば誘うわね」

「うん。ありがたいよ。ただ……」

「ただ??」

「シャアルには説明しておいてよ」

そう言われて、アリシアは笑いながら答えた。

「ええ、もちろん。シャアル様にお話しするわ」


コナーは、意外と人族も運命の人を待つ時間は

悪く無いかもと思った。失恋は嫌だ。

悲しかったし、辛かった。

でも次を考えるチャンスはある。それは自分次第かも。

何だか、これも悪くないと思うのだった。

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