第26話 王子の休憩

 久しぶりのアリシアとの休憩に、ニコラはとても喜んでいた。

学生の時とは違い、自分がアリシアの全てを守るわけにはいかない。

周りに沢山の味方が必要だったので、シャアルとアリシアの同僚が

アリシアを大切に思ってくれるのは、ありがたい事だった。

「アリー、ずいぶん頑張っているんだって?

きちんと息抜きはできているの?」

「大丈夫よ。少しずつだけど、時間をうまく使えるようになってると思う。

あのね、ニコラ……、私、あなたに謝らなきゃ」

「どうしたの?」

「学生の時に魔法の授業を勧めてくれたのに、

真剣に聞かなかった。ごめんなさい」

ニコラは、明るく笑った。

「何だ、そんな事か。気にしなくたって良いよ。

僕だって、足りないところだらけだ。

今、頑張っているんだから良いんだよ」

「どうやったら、後悔せずに生きていけるのかしら。

毎日、反省だらけなの」

ニコラは笑いながら言った。

「後悔や反省しない人?そんな人はいないよ。

皆、理想に向かって

毎日努力するしかないんだと思うよ。

でもそれが人生を豊かにするのかもしれない」

アリシアは、ゆっくりとお茶を飲んだ。

いつもの味。これもホッとする。


ゆっくりお茶を口にするアリシアに、ニコラは問いかけた。

「アリー、デヴォン辺境伯とは、どうなの?」

直球の質問に、アリシアは思わずむせた。

「ごめん、ごめん、大丈夫?はい、これハンカチ」

あなたからその質問をされると思わなかったから……」

アリシアは慌てて口元を吹いた。

ニコラは笑いながら、もう1度問いかけた。

「なぜ?なぜ僕が質問しないと思ったの?」

「だって、ニコラは私が話す前に、

いつでも何でも私の事は知っているじゃない……!!」

あはははとニコラは楽しそうに笑った。

「そういえば、そうだった!アリーが心配だったんだよ。

でも恋の話となるとね。気は使うだろう?」

「……あなたと恋の話をするようになるとは

思わなかったわ……しかも私の……。

この間まで、仕事ができるかどうかで相談してたのに……」

「そうだね、大人になるって意外と楽しいこともあるのかも。

僕は責任が増えることに、うんざりしていたけど

友達が幸せになる話を聞けるのは嬉しいよ?」

「そうね、ニコラの責任……ほっておいたらドンドン増えそうだわ。

あなたは番を見つけたいと思う?」

「そうだね、僕も番を見つけたいと思っているよ」

「そうなのね。何だかニコラに言われて、初めて実感したわ。

獣族にとって番は本当に特別なのね」

「そうだね、特別だね。ね、アリーは辺境伯に触れられることに

抵抗はないの?」

そう言われて、アリシアはシャアルを思い出し、

真っ赤になった。

「あ……あの……、そうね……いや……では……ないわね……」

「そうなんだね。じゃあ良かった。君が恥ずかしくて

動けないだけで、イヤがっているなら困るなと思っていたから」

「私も、最初はよく分からなかったの。だって……恥ずかしいのは

恥ずかしいんだもの……。でも最近、王宮に通うのも慣れてきたでしょう?

少しだけ考える余裕ができたの」

ニコラは優しく微笑んで、アリシアの話を聞いていた。

「私ね、恋かどうかは別にして」

「別にしちゃうんだ」

「もぉ、ニコラ、からかわないで」

「ごめん、ごめん」

「私、シャアル様の事は、尊敬しているんだわって

思った出来事があったの」

ニコラは、アリシアに新しく起きている実感をともなった経験が

あったようだとビックリした。

「私、魔法の練習を始めたころ、何度も何度も失敗したの。

お父様やお兄様だったら、そんな事はもうしなくて良い、

自分たちが守るからって言われたと思う」

「まあ、そうなるだろうね」

ニコラは苦笑いしながら答えた。

「でもシャアル様は違ったの。家族と同じように大切に

想っているって伝えてくださるのに、お父様達とは

行動が全然違うの。私が何度失敗しても、私に

練習をやめるようにはおっしゃらなかった」

「それは……、アリーそれはとてもスゴイ事だよ」

「そうなんですってね、お兄様に言われたわ。

シャアル様が私を守る方が、シャアル様にとって

ずっと簡単だって。私が試行錯誤しているのも

黙ってご覧になっていた。どうしてもダメかもって

なりそうな時に、こうしてみたら?ってアドバイス

くださるの。そうすると一回でうまくいくときもあるし、

次の試行錯誤に移るときもある。

でも私が私の為に、悩む時間をくださるの。

だから、なんて言ったら良いか……

変なんだけど、大切にしてくださってるんだなって想ったの。

変?……うまく言えないんだけど、個人を尊重してくださるところを

尊敬しているの」

ニコラは、とても嬉しそうに紅茶を飲んだ。

そしてゆっくりとアリシアを見て、嬉しそうに言った。

「辺境伯がアリーをとても大切にしてくれて嬉しいよ。

そして、アリーが彼の強い優しさを感じ取っていて、

とても誇らしい気分だ。

大丈夫、きっと君はよく考えて彼に返事ができるよ」

アリシアは、少し恥ずかしそうにした。

「これから、私の心が何を感じるのか、まだ分からないけど

シャアル様に恥ずかしくないよう、しっかり考えるわ」

「そうだね、それが良い。あ、そうだ、

これは僕からのアドバイス。君は獣族について考えたのだから、

次は人族について考えたら?コナーと話してみるのも

良いと思うな」

「プライベートな事なのに、イヤじゃないかしら?」

「イヤではないと思うよ。大丈夫だから話しかけてごらん」

「分かったわ……。やってみる」


ニコラは大切な友人が、どんどん大人への階段を登っていることに

驚きと喜びを感じていた。やっぱり閉じ込めるだけでは

本人の成長には繋がらない。でも危険からは守りたい。

バランスを取ることの大切さに、


ニコラもアイディアを出さなきゃと、考えるのだった

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