第25話 シャアルの工夫

 アリシアは仕事と自分の魔法の研鑽の両立に

次第に慣れていった。それぞれで集中し、

上手に休憩を取る。

社会へ出る大人になるための第一歩だ。


シャアルは欲張らず、アリシアの身を守るためだけの

準備を優先させていった。まず、昼休憩は

自分だけでなく、アリシアの同僚も織り交ぜ、

全員で行動したり、シャアルと一緒に食事する者を

入れ替えたり固定しないようにした。

まだ、事が動いていないうちに

早く色々な状態を作っておきたかったのだ。

自分が離れている時に、どんなに遠いところからでも

アリシアを守れるよう、想定を重ねる。

こんな事ができたのは、終業後にアリシアの魔法を

見ているための時間がたっぷりとあったからだ。

そうでなければシャアルが、いかに前代未聞の冷静さを

持っていたとしても難しかっただろう。


とは言え、あまりに冷静なシャアルに

そんな事情があるとは知らない王宮内の獣族の間では

シャアルがつがいを見つけたと言う話は

ただのウワサに過ぎないのではと言う、デマまで

飛び交っていた。アリシアに余計な事が伝わっては

迷惑この上ない。時々、皆より長い昼休憩時間に

アリシアと2人っきりになり

自分が満足いくまで愛をささやくことにした。

案の定、皆 任務や業務に戻っているはずなのに、

シャアルが熱心にアリシアに愛を囁いていることは

すぐにウワサになった。


そんな日常を送っていた所に、ニコラからアリシアと2人で

お茶がしたいと連絡が入った。アリシアの部署で

静かに護衛していたシャアルはその手紙を開けたとたん、

部屋に冷気を吹き抜かせた。気がつかないのはアリシアくらいのものだ。

「なっ…何だ?!何かあったのか?!」

ルベンが思わずシャアルを振り返った。

ここ何週間かで、シャアルとアリシアの同僚は

すっかり距離がちぢまって、気安く話ができるようになっていた。

「シャアル?どうしたの?」

コナーも心配そうにしている。

シャアルは不機嫌な顔で、アリシアを見た。

「アリー、ニコラ殿下からお茶の誘いだ。私とフィル殿は

部屋の外で待機するようにと来ている」

そういったシャアルに、ルベンは大きくため息をついた。

「はあーー、何だ、いつもの事か。シャアル、ビックリするから

冷気を駆け抜けさせなくても良いだろう?!」

「すまないな、つい……」

ちっとも悪びれた様子もなく、シャアルが言った。

コナーが笑いながら、

「シャアル、悪いと思っているようには見えないよ。

アリシア、良かったね。

きっとニコラ殿下もアリシアに会いたくなったんだよ。

ほらほら、シャアル。アリシアがビックリしているよ」

シャアルはコナーにそう言われて、とろけるような笑顔で

アリシアを安心させようとした。


ルベンがため息をつく。

「……このギャップがなぁ……。いっその事、

頼むから いつも とろけていて欲しいよな……」

どちらが良いのか悩む同僚達であった。

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