第23話 広がっていく仲間

 昼休憩になると、フィルがアリシア達を迎えにきた。

今日は午後から非番なのだ。シャアルは、いつの間にか

フィルと打ち合わせも済ましていたようだった。

アリシアも朝よりは気分も少し明るくなり、

いつもの笑顔も増えていた。


その様子を見て、シャアルがホッとする。

コナーにポンッと肩を叩かれた。

「デヴォン辺境伯、我々も行こうか」

シャアルが、うなずいた。

「私の事はシャアルで良い。同じ歳だし、あまりかしこまらないでくれ」

「では僕もコナーと」

コナーは、ざっくばらんに話すシャアルに驚いていた。

確かに働き出してからの顔なじみだが、個人的に会う事はなかった。

つがいを見つけてからのシャアルは、コナーにとって

より一層、話しかけやすくなっていた。

恋はこんなにも人を柔らかくさせるのかと、とても驚いていた。

シャアルは口数は少ないが、皆に とても公平だった。

そして、周りに意見を通せるほど、自分にも厳しかった。


フィルは近衛兵らしく、アリシアたちを食堂の真ん中の位置に

うまく連れていっていた。端は以外に危ない。

窓や廊下からの襲撃はまぬがれられる。

シャアルは、たぶんフィルは自然にその意識が働くのだと思った。

アリシア達の位置を確認したシャアルは、食堂の奥の方の席についた。

ここからなら360度、アリシア達が見渡せる。

それを視線の端で確認したフィルがニヤッと笑った。

それを見たシャアルは、なかなか面白い人材が集まったと感心していた。


シャアルとコナーは最初、辺境について書かれた

文献について話していた。コナーは疑問に思う所について、

辺境伯の風習が関連しているのかどうかに、興味があり

色々な質問をしていた。食堂にいる人達の関心が、

シャアルとコナーから外れた時、顔だけにこやかに

少し声を落として、核心を話し出した。

「僕のところへも話が来たよ」

何の事か分かったシャアルは、うなずいた。

「そうか。コナーは困っていることはないのか?」

「困っている事……、そうだなあ……僕ね、実は

得意な方だから大丈夫なんだけど、強すぎて困ってる」

それを聞いたシャアルは、目を見開いて

静かに笑い出した。

「すまん、別に疑っている訳ではないんだ。

本当に油断も隙もないと思ってな……。

コナーは古文書の部門だからな、隠しておけ。

そのほうが、いざとなった時に役立ちやすい」

「うん……。そうするよ。僕はこの職場を気に入っているんだ。

他に移りたくはないしね」

「コナー……、隠密部門の方が向いてそうだぞ。

表情のコントロールなんて、どこで習ったんだ?」

2人の近くにいない限り、楽しく談笑しているとしか

見えなかった。

「身を守るためにはね、色々身につけなきゃいけないことがあるんだよ」

それを聞いたシャアルが、ふと表情に影をさした。

「そうか、やはり皆にはわからない苦労はつきものか」

「シャアル、苦労と思うかどうかは人によると思うよ。

種族ではないと思うんだけどな」

「そうか、すまない。君たちは守られるだけではないからな。

悪かった」

シャアルは素直に謝った。

「ごめん……、ちょっとイジワルだったね」

コナーは、悪びれた様子なく謝った。

それを見てシャアルは苦笑する。


『まったく、王宮は人材の宝庫ではないか……。

コナーのような古狸が、どのくらい潜んでいることやら……』


「実は友人から君ともっと仲良くなるように勧められてな」

「それは良い人だ」

コナーは笑った。

「アリシアのことで相談に乗って欲しいのも事実だが、

それ以外にも君本人に、興味があったんだ」

「シャアルって、時々直球でくるよねぇ。

それは断れないな」

コナーは嬉しそうに言った。

「アリシアは大丈夫?」

「大丈夫だと信じている。が、正直心配する気持ちは

止められない。そして、いざとなれば私が全て

やってしまえば良いとも思っている」

シャアルは苦笑した。

「それは随分とシンプルに、獣族の本能通りに話したね」

苦笑するシャアルに、コナーはクスクスと笑っていた。

「まだ事は動いていないんだね?」

「そうだ。このまま向こうの勢いがなくなれば

問題化はしない」

「そうなると良いねぇ」

「そうだな」

「シャアル、僕は人族のツテがある。と言っても普通の友人関係だけど」

「もし、機会があれば頼むかもしれん。ただ、今はなるべく集団で集まるのは

避けた方が良いと思っている。どこで嗅ぎ付けられるか分からん。

それに思想だけかもしれんと、かすかな希望もある」

「ホント、かすかな希望だねぇ」

コナーは笑顔とは反対に、あまり希望は持っていなそうだった。

「君と話してみたいと思っていたのに、こんなキッカケですまんな」

「シャアルらしくもないな。でも、そう思ってくれて

ありがとう」


2人は、これから親交を深めようと約束し、

食事の時間を楽しんだ。


シャアルは、以外にも簡単に うちとけられたことに

驚きながらも素直に友人が増えたことを喜んでた。

コナーもまた、自分の希望や好きなことを認めてくれる友人が増え

喜んでいた。


『やっぱり、誰とでも話してみるもんだねぇ』

これから、どのような展開になるかは分からないが、

以外に良いことも、たくさんあるかもしれない。

コナーはそう思って、現状を受け入れることにしたのだった。

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