第22話 アリシアの決意

 シャアルに魔法の稽古をしてもらった後、

食事や湯浴みを済ませたアリシアは、

今までの自分を振り返っていた。


『私、何てワガママだったんだろう。

自分自身を守る方法も思いつかないのに、

外に出たいとばかり言っていた……』


恥ずかしくて、ベットにもぐりこんだ。

さらに自分がイヤになるのは、

魔法を失敗したくらいで、恥ずかしくて

シャアルの前で泣いてしまった事だった。

シャアルが腕を広げて名前を呼んでくれた時、

色々な心の痛みから助けて欲しかったのだ。


『ダメだわ。こんな事をしていてはダメ。甘えだわ。』

後悔して、涙がポロポロ出てくる。


その時、ふとシャアルに言われた言葉が浮かぶ。


ーー同じ間違いをしないと思うこと。それだけで人は成長できるーー


アリシアは、ガバッと起き上がり、涙を拭って

ベットから降りた。

そして机の上にあった本を一冊、床に置いた。

イメージして……イメージして……魔力を小さくして

……サッと手を動かす。


まだまだ大きい……。もう一度。


アリシアは何度も何度も、繰り返した。

なかなかうまくいかない。

そんな時もシャアルの言葉が頭に浮かぶ。


ーー何度も何度も精査して……ーー


あきらめる訳にはいかない。自分が望んだ事なのだ。

本当の意味で自立しなければ。

自由でいたいなら責任を果たさなければならない。


アリシアは、何度も何度も繰り返し、魔法をかけた。

だいぶ結界を小さくできた時、今日はここまでにしようと

ベットに入った。アリシアの本業は古文書の解読だ。

そちらまで影響が出て、さらに自分が未熟だと思うことは

避けたかった。

疲れていたアリシアはアッと言う間に眠りに落ちていった。



次の日、アリシアを迎えに来たシャアルは、おやっと思った。

多少落ち込んでいるアリシアを予想していたので

そこは想定内だ。

でもいつも通り、恥ずかしそうにする愛らしさの中に

凛とした強さが潜んでいるように見えたのだ。


シャアルは移動の間、いつものように自分の膝の上で

アリシアの手を愛でながら、静かにアリシアを見ていた。

アリシアは大抵はモジモジして、頰を少し赤らめているのだが、

今日は心ここに在らずといった感じで、景色に視線をやっていた。

その静けさの中に、アリシアが無邪気だけではいけないことを

感じ取ったように思った。

シャアルは複雑な想いだった。できればあのまま、無邪気で愛らしい

アリシアのままで いさせてやりたかった。

アリシアに原因があるわけではないのだ。

あのクセになりそうな愛らしさのままでいてくれたら……。

今なら、アリシアの父や兄の気持ちがよく分かる。

愛しさと心配のあまり、自分の手の中に閉じ込めてしまいたくなる。

でもアリシアのつがいとして、そんな事はしたくない。

アリシアが自分を尊重してくれるように、自分もアリシアを尊重したい。


アリシアの瞳はいつもよりもずっと落ち着いていた。

黒い瞳は、とても神秘的に、そしていつもよりも

ずっと大人びて見えた。

シャアルは優しくアリシアの指を撫で続けた。

「アリー……」

自分の名前が、優しくアリシアの耳に届いた。

アリシアはいつもと違い、ゆっくりとシャアルを見た。

「はい、シャアル様」

「アリー……、焦ってはいけないよ」

「……はい……」

「アリー、忘れないで。いつも君を見ているよ。

いつでも君のそばにいる。愛しているよ、アリー。

私だけでなく、君を大切に想う人たちの事も思い出して」

アリシアは、ゆっくりと うなずいた。

「……はい、シャアル様……」


その日のアリシアは、静けさの中に さらに強さを秘めていった。

同僚たちには、少し疲れが出たようだと説明し、

黙々と自分の仕事をこなしていく。

同僚相手に、少し冗談を言ったりもしたが、

いつものハツラツさはなかった。


コナーが、シャアルを見る。彼にしては強く訴える眼差しだった。

シャアルもコナーを見る。そして、みんなが驚愕する事になるのだが、

今日の昼休憩はアリシアは同僚の皆と、自分はコナーと食事をしてみたいと

申し出たのだった。


コナーは何か想うところがあったらしく、

彼らしく静かに言った。

「もちろん、辺境伯。アリシアの護衛はどうするの?

ああ、彼女の兄にもう頼んであるんだね。

そうだね、とはいえ一緒の空間にいた方が良いね。

では食堂にしよう。

アリシアもそれでいいのかな?

文献の事もあって、辺境伯に聞いてみたいことが

山ほどあるんだ。どうかな?」

アリシアはみんなが話す機会があったほうが、

今後のためにとても良いと想うと答え、

シャアルのアイディアは、皆に喜ばれる事になる。


コナーは表情も変えずに考え込んでいた。

そして、これが内密に自分の所へ来た話と別件とは思えなかった。


『この辺で、お互いに腹を割っておくことが必要だよねぇ』


コナーは未知の物に関わるかもしれないと覚悟しながら、

アリシアにニッコリと微笑んだのだった。

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