第20話 獣族の意地

 ニコラと話し合った後のシャアルは落ち着いていた。

まず、その足でレモンドの所に足を運んだ。

国の中枢と意見の相違がないか、確認しておきたかったのだ。



「レモンド、悪いな」

レモンドに与えられている個室の執務室で切り出す。

「いや、こちらも君に聞きたい事もあったし、気にしないでくれ」

「あれから、情報の更新はあるのか?」

「いいや、現状維持だね。宰相閣下も問題になるには時間が

かかるだろうと思っているみたいだ」

「このまま向こうの勢いがなくなっていけば、

問題にならずに済むな」

「そうだな。今の所、実害が出ていないから手が出せない。

まったく、獣族の誇りはどこに行ったんだろうな」

あきれているレモンドに、自分の状況と引き継いだ先を教え、

何か変わった事があれば、すぐに知らせるように頼む。


すぐに別の部門等に向かい、打ち合わせを綿密にしていった。

ニコラも同じ事をしているようで、話は早い。

あっという間に体制を整えた。


そのあとは騎士団の仕事を片付け、自身の領地の報告を確認する。

こちらは何の問題もなかった。


『さて、帰るか』


そう思った時、レモンドから誘いが入った。

今日は遅くなったので、レモンドの屋敷で食事をし、

泊まっていかないかという誘いだった。

ありがたく、その誘いを受けレモンドの屋敷へ向かう。


屋敷ではレモンドの妻が出迎えてくれた。

レモンドは、とろけそうな笑顔で妻に一日の様子を尋ねていた。


『私もあんな表情でアリーを見ているのだろうな……』

少し苦笑したい気分だ。


「シャアル様、ようこそおいで下さいました。

用意ができておりますのよ。こちらへどうぞ」

レモンドの妻は、にこやかに部屋を案内した。

かなり遅い時間だったので、レモンドと2人だけの食事に

シャアルは少し気がラクになった。やはり親友の奥方とはいえ、

男同士だけの方が、話しやすい事もある。


「シャアル、アリシア殿とは、どうだ?」

「どうも、こうもない。やっとお互いの気持ちを

話し始めたばかりだ」

「君には、たくさん聞いてもらったからな。

僕も君の話を聞きたいんだ」

「そうか……。ありがたいんだが……、

アリーは獣族とは何もかも違ってな。長期戦になりそうだ」

「そうか……。君の事だから、暴発しないように策は建てたんだろう?」

「まあな……。この策で足りなくなるようなら、次の策に移るさ。

アリーにも話してある。」

「それにしても16歳だったな。話は合うのか?」

「それがな、以外にも話は合うんだ。興味のあるものが同じだったり。

アリーはあまり流行り物に惹かれる方ではないらしい」

レモンドは嬉しそうにうなずいていた。

「そうか、それは良かったな。」

「ただ……」

「ただ?」

「時々、不意に愛らしい事をするんだ。表情だったり、会話だったり。

そうすると……何というか……愛情を抑えるのが、難しくてな……」


レモンドはビックリした。まさかシャアルからつがい

どう思っているかなど、聞けると思っていなかったのだ。


『良かった。シャアルは冷静に見えるだけで、

番の魔法にちゃんとかかっている』

レモンドはからかうでもなく、嬉しそうに話を聞いていた。


「アリーは最近、何というか はにかむような表情をする。

それが、何ともまた愛らしくて……自分の時間が止まってしまうんだ」

「君の愛情が、君を冷静に見せているんだね。なあ、時々僕とも

食事をしよう。君の気持ちを出来るだけ外に出していた方が良くないかい?

ただでさえ長期戦になりそうだと言っているんだし、

溜め込むのは良くない」

シャアルは学生の頃から、どちらかと言うと頼られる方が多かった。

こんな時くらい友人に助けてもらうのも悪くはないかもしれない。

「そうか?そうだな、頼むことにしよう」

「そうだよ、そうしよう。あ、そうだ、アリシア殿の同僚に

人族がいると言っていたよな。彼とも、もっと仲良くしてみると良い。

何なら、同席するのも良いだろう?」

「……友人はありがたいものだな、レモンド」

「何だい、そんなの僕もいつも思っているよ。お互い様だろう?」

レモンドは嬉しそうに、食後酒に口をつけた。


レモンドは急に真剣な目になり

「今回の問題、獣族の誇りにかけて阻止しよう」

「そうだな、まったくどうやったら、

あんな考え方にたどり着くんだか……。アリーの事はもちろん

他の人族も守りぬかねば……」

「今の所、上官たちはカンカンだよ。誇りはないのかって言って

大変だったんだ。だから我らの心は1つだよ」

「そうだな、何としても阻止してみせよう」


2人とも静かに、でも強い意思を持って心に誓ったのだった。

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