第17話 初めてのデート

皆の心配をよそに、シャアルは周りから驚愕されるほど、

冷静にふるまった。何故それが可能だったのか。

シャアルにとっては、簡単な解決策があった。

自分が暴発するかもと心配している友達がいると、

アリシアに自分の特徴を話したのだ。

そして、そうならない為にアリシアに約束を懇願した。

1日1回、抱きしめさせてほしいと。

シャアルはアリシアの心も欲しかった。

それには何より、時間とお互いの話を重ねる事だ。

しかし獣族としての本能が、もうそれだけでは

我慢できそうになかった。

アリシアは真っ赤になり、しばらくモジモジした後

こくんとうなずいた。

これでシャアルは、アリシアの心を待っていられると

己を納得させたのだ。今のところ……。


昼休憩では植物や森の話し、アリシアが料理が好きな事など、

他愛もない話をして なごやかに過ごした。

そしてシャアルにとって念願の休日が訪れたのだ。


アリシアの希望で見事な庭園を持つ、大きな公園へ

行く事になっていた。ピクニックできる広場もあるし、

庭園を眺められるレストランやカフェもある。

シャアルはアリシアの希望なら、どんな事でも叶えてやりたかった。


庭園を一目みて、アリシアはとても喜んだ。

「シャアル様、連れてきて下さってありがとう!!

あぁ、何て綺麗なの!お友達から聞いて、1度見てみたかったのです!」

アリシアが興奮するだけの事はある庭園だった。

庭師が開花時期をいっせいにそろえるように

丁寧に仕事をしたのだろう。

「たしかに、これは素晴らしい庭園になっていますね、アリー」

興奮したアリシアを嬉しそうに見つめて

シャアルは答えた。いつも通りアリシアの手を取り、

ゆっくりと歩き出す。

「ここの庭園の庭師は王宮の庭園の手入れもしているんですって」

「そうなんですね、それは初めて聞きました」

「シャアル様は植物に詳しいけど、何かお好きな花はないのですか?」

「そうですね、花は好きですが、特にこれといった花は……。

それよりも緑がすきなので、葉の生い茂る木の方が好みかもしれません」

「まあ、そうなんですね。私も葉の色が好きです。

王宮のエレベーターから見る地上の森が好きなんです。

色々な緑があるでしょう?」

「ああ、だからエレベーターに乗るときに嬉しそうな顔をするんですね?」

シャアルに、そう言われてアリシアは少し赤くなった。

「私……何だか子供っぽいですね」

恥ずかしそうに言うアリシアにシャアルは

「いいえ、子供っぽいとは思いません。

素直な気持ちは、いくつになっても大切だと思いますよ。

色々な緑……、一言で言い表わせない位、緑がありますよね。

アリーは、どんな緑が好きですか?」

「私……、あぁ……考えた事がありませんでした。

どの緑も素敵なんですもの。どうしよう、選べないわ。シャアル様は選べますか?」

「そう、確かに選ぶのは難しい……。あえて選ぶなら、

濃い緑が好きですね。森を思わせてくれるので」

アリシアは、自分のお気に入りを

シャアルが好きだと言ってくれて素直に嬉しかった。

少し緊張していた自分に笑いそうになる。


「アリー?」

その様子にシャアルは少し首をかしげた。

「ごめんなさい、シャアル様。私、実は緊張していたのです。

あの……初めてのデートだから」

最近のアリシアは、よくはにかんだような表情をする事が多かった。

その愛らしさを目にするシャアルは、その度に理性をひねり出す事になるのだ。

「アリー……、今日はお互いに敬語はやめてしまう事に挑戦しましょう?

こんなに楽しい会話なのに、敬語だと淋しく思うのです。どう?」

「は……はい。頑張ってみます……みるわ……?」

シャアルは笑い出した。

「アリー、心配しないで。緊張しているのは私もだから。

私も初めてのデートだよ」

「シャアル様も初めて?!本当に?!」

アリーは驚いてしまった。

「この歳でデートもした事がないなんて、ガッカリした?」

「……いいえ!!いいえ、ガッカリなんてしないわ。

シャアル様は色々な方にお誘いを受けると聞いていたから、

てっきりデートはなさってたと思い込んでいて……。

それにシャアル様が緊張なさるなんて想像もした事がなかったんです」

「アリー、敬語はなしにしてみよう。忘れてしまった?」

シャアルは微笑みながら、アリーを見る。

「……?! 私、敬語使いました??……つ……使ってますね……

使っていたわ……」

「ね、気をつけて。少しずつでいいから慣れてほしい。

それより、私も緊張くらいするんだよ?」

シャアルは楽しそうに笑った。

「……そうなのね、そうよね、それが普通のことだもの。

なぜシャアル様は緊張しないなんて思ったのかしら。

私から見るとだけど、とても落ち着いているように見えるの。だからだわ」

「君にそう見えて、良かったよ。私はね、つがい以外と結婚するなんて、

まっぴらだと思っていたんだ。」

「獣族の方は、番以外の人とはデートもしないの?

学校では、色々な人とデートする方もいた気がするけど……?」

「そうだね、好奇心の多い年齢ではデートを試す人もいるだろう。

私はあまり乗り気になれなくてね」

「そうなのね。シャアル様は私よりたくさんの事を

経験していらっしゃると思い込んでいたから、

私と一緒に初めての事があってホッとしたわ」

柔らかく笑ったアリシアに、シャアルはまた

不意をつかれた。


『本当にアリーときたら……困ったな……

自覚なしに可愛らしい事を……』


シャアルは、まるで修行のようだと思いながら、

デートの出だしが順調だった事に

ホッとしたのだった。


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