第14話 友人の招待

 アリシアは翌日の休日を学生時代の友達と、次の週の休日をシャアルと

過ごすことに決めた。ニコラの予想通り、アリシアは友達に話を聞いて欲しいと

連絡したのだ。幼馴染のシャロンが外で話すのも何だからと家に招待してくれた。


シャロンとシャロンの兄シモンも小さな頃から

ヌヴェル家の子供たちと良く遊んだ。

シャロン達は鷹属で活発な遊びが好きだった。

シャロンは女の子なのに木登りも騎士の決闘ごっこも、率先してやりたがった。

当然、アリシアも皆と遊びたくて入ろうとすると、兄の他にシモンが

アリシアが怪我をしないように、良く守ってくれたものだ。


屋敷に到着すると、ロゼッタもアリシアを待っていた。

彼女は学校で仲良くなった友達だ。穏やかで本を読むのが好きだったので

アリシアと話が合い、良く色々な本について話したのだ。

3人は手ぐすね引いて、アリシアを待っていた。


良い香りのお茶と可愛いお菓子が並ぶと、さっそくシャロンが

好奇心丸出しにしてアリシアに問いかけた。

「アリー!!まさかあなたが友達の中で一番に求婚されるなんて…!!

一体どうなってるの?!今日は全部話してもらうわよ」

目がギラギラしていて、ちょっとコワい……。


「シャロン……そんなんじゃアリーが話す気がなくなっちゃうよ」

「そうよ、シャロン。もっと落ち着いて」

シモンとロゼッタがシャロンをたしなめた。

ロゼッタが嬉しそうに話す。

「アリー、でもよかったら話を聞きたいわ。あと何か相談したい事って何なの?」

アリシアは観念して、事の経緯を恥ずかしそうにモジモジしながら話した。


その話を聞いたシャロンとシモンは口をアングリと開け、ボソッと言った。

「王宮内でのウワサ……、本当だったんだ……」

ロゼッタだけは、小説のようなシャアルの告白に

「……すっ……素敵……!!」

と身悶えしている。今度はロゼッタの目がキラキラし出していた。


「で?アリーは何に困っているの?」

シモンは尋ねた。

「やっぱり困っているように見えるのね」

アリシアは苦笑して話し出した。

「そうね、困ってる……?とも少し違っていて……

まず、どうしたら良いのか分からないの」

「辺境伯はアリーの気持ちを待つと言っているんだろう?」

「ええ、そうみたい。ね、皆は番つがいの話は知っていたんでしょう?」

「アリシアは全く興味がなかったものね〜。

我が家は両親が話してくれたの。私、こんな感じだけどつがいの話には

憧れがあるのよ」

念願の騎士の部門に入隊したシャロンが答える。

「あこがれ……?」

「そう、あこがれ。話してくれた両親が、とても幸せそうだから

自然と憧れを持ったんだろうと思うんだ」

「シモンも?」

「そう、僕も。男女問わず、自分の運命の人を見つけることに

憧れを持っていると思うよ」


「ロゼッタは?」

「私も同じ感じ。ただ、私は本が好きだから

皆よりロマンチックに考えちゃうかも」

ちょっと照れ笑いしながらロゼッタは言った。

シモンは首を傾げながらアリシアに

「僕達は、良くも悪くも運命の人を見つけたら、どうなるか分かる。

でもアリシアは?今まで気になる人とかいなかったの?」

「気になる人?いなかったわ。だって、初めて会う人に

私と握手するときはそっとして下さいって挨拶することで精一杯だったんだもの。

つねにニコラとお兄様達と皆と学校生活が送れて、楽しくてしようがなかった。

古文書も閲覧できたし、そのことに夢中だったの」

皆、アリシアらしいと、ため息まじりの笑いももらした。

「そうよね、それでこそアリーよ」

ロゼッタがホッとしたように笑った。

「アリーが求婚されても、変わらず元のアリーのままで私は嬉しいわ」

「そういえばそうね。私も嬉しいかもっ」

シャロンが顔を見合わせてフフッと笑った。


シモンがアリシアに説明する。

「アリー、獣族は恋に落ちると豹変するんだ。なにせ運命の人だからね。

冷静ではいられない。辺境伯は28歳くらいだっけ?

君のことを、やっと見つけたと思っていると思うよ」

「……そういえば、やっと見つけたっておっしゃっていたわ……」

「そうだろうね。でもね、アリー。ご両親のおっしゃった通り、

そこで何年も待ちますって言えるのはすごい事だと僕も思うよ」

「……そうなのね、やっぱりすごい事なのね。」


ちょっと心配になったシャロンが、場を明るくするように

「アリー、そんなに難しく考えなくても良いんじゃない?

確かにアリーはビックリしてる。でもアリーがデヴォン辺境伯を

好きだと思うようになるのか、それともならないのか。

単純にそれだけだと思うの。」


ロゼッタが強く頷いた。

「そうね、良いこと言うわシャロン!!これからよ、アリー。

デヴォン辺境伯はお互いを知ることが大切ってお話になったんでしょう?

だったら、これからたくさんお話して、考えれば良いわよ」


シモンが優しくアリーに

「さすが仲間、良いアイディアだ。ニコラも来られなくて

残念だったと思うよ。アイツ、もはやアリーの保護者だからね」

楽しそうに笑っていた。


アリシアは、そんな友人達を見て明らかにホッとしていた。

良かった、悩んでもおかしくないんだ。時間をかけて答えを探しても

良いのかもしれない。

「ありがとう、皆。私、一つだけ決めているの。シャアル様に誠実でいようって。

もし私の出した答えがシャアル様を傷つけたとしても、ウソはつかないって」


皆、断られる可能性のあるシャアルに複雑な思いをしながらも、

アリーは間違っていないと思った。

種族に関係なく、やっぱりウソはいけないと思う。


ただ、その場合……国防に関わるかも……。


シモンがそんな考えを振り払い、

「そうだね、アリー。少しずつ考えれば良いよ」

「ただ……」

アリシアが急に真っ赤になった。

「ただ?」

「明日からの仕事、平常心でできるかしら?

シャアル様に普通に振る舞えるか、自信がないの……」

ロゼッタが弾けたように笑い出した。

「いやね、アリー。そのままでいいのよ。恥ずかしがるアリーも

真剣に仕事するアリーも、色々なアリーを見ていただけばいいじゃない?」

「そうなの?!そうなのかしら……?」

シモンとシャロンもロゼッタの意見に賛成した。

「そうだよ、アリー」

「そのままのアリーを見ていただけば?デヴォン辺境伯は経験豊かな方だもん。

向こうがなんとかしてくれるよ」


その後は、さんざん皆にからかわれ、ふくれたり、照れたり、

でも友人に幸せになってほしいと思われるのは幸せだった。

アリシアは来た時よりも、ずっと気楽な気持ちになり、

明日への勇気が湧いてきたのだった。

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