第13話 両親の愛情

 父と母は、本を片手に何か話しているようだ。

「お父様、お母様、遅くなりました。

まだお時間は大丈夫ですか?」


母は顔を上げ、にっこりと微笑んだ。

「大丈夫よ、アリー。そこに座ったら?

何か私たちに聞きたい事があるんですって?」

「そっ……そうなの。あの……」

アリシアはモジモジと膝の上でストールをいじりながら

少し赤くなった。

「あの……今日、シャアル様に、こ……告白されました……」

ボソボソと話し始める。

アリシアには、父はへの字口、母はにっこりとしている様子に

気がつく余裕はなかった。


「まあ、そうなの。それで?」

母が、アリシアが話やすように少し促した。

「私……、ビックリしてしまって……。その……、

こんな経験した事がなくて……。学校でお友達が番つがいについて

話していた気がするんだけど、私は関係ないだろうって

真剣に話を聞いていなかったの……」

「そうねぇ、私達も、あなたには変に種族を意識して欲しくなかったから

話さなかったものね」

「シャアル様は、お父様とお母様につがいについて

尋ねてみてくださいって」

「そう。シャアル様は、とても的確な方法を思いつかれたのね」

母の言葉にアリシアはきょとんとした。

「あのね、アリー。私達にとって番はキラキラと輝いて見えるの。

光の粉をまとっているように。それは、いつどこで誰に起こるか分からず、

ある日、突然舞い降りてくるプレゼントのようなものよ。

でも一生 番に会えない者もいるし、

若くして出会う者もいるの」

「……魔法?」

「魔法とも少し違うんだけど……そうね……特別な恋の魔法のようなものね」

「お父様?お父様にも見えるの?」

カルロスは可愛い娘に急に起きている大人への階段を想い、

少し淋しそうな顔をした。

「そうだよ、アリー。私が初めてリリーを見た時、

リリーは金色の光の中にいた。番を見つけた瞬間を体験したんだ。

今でもリリーは光の中にいるように見えるよ」

「お母様も?」

「フフッ、確かに私も同じ経験をしたけど、カルロスと知り合って

少し遅れてその経験をしたの。ちょっぴりのズレはあったわ」

「そんな事もあるの?番同志だったら、

一緒に経験するのではないの?」


「そうねぇ、それこそ番の数だけエピソードがあるから

何とも言えないわ。ただ同じタイミングで経験する

番もいることは確かよ」

「そう……、それはどんな感じなのかしら……?

その、目に見える姿ではなくて心の中の感じ方は?」

「アリー、それは とても暖かくて幸せな気持ちになるんだよ。

自分に奇跡が起きたとね。」

カルロスはリリアーヌを見つめて微笑んだ。

「そう……それはきっと素敵な経験ね……。

私、その経験は出来ないのね。ちょっぴり残念だわ」

アリシアは少し肩をすくめた。


「アリー」

母が優しく声をかける。

「確かに、あなたは同じ経験をしないと思うわ。

でもね、恋に落ちた時は人族も分かると思うわよ」

「どうやって?」

「私達も恋をすると、心をキュッとつかまれたように感じたり、

暖かな気持ちが湧き上がってきたり、恥ずかしくなったりするの。

人族も恋をしたいと思う相手には、同じような気持ちを持つと思うのよ」

「そうね……そうなのかも……」

とまどう娘にカルロスは優しく言った。

「アリー、慌てずに落ち着いて自分の心を見てごらん?

自分の心の中に、恋する相手への気持ちが必ず隠れているはずだ。

同情や、相手への申し訳なさで、その恋をしていないのであれば

それは番を見つけたと同じことになると思うよ」


『……自分の心の中……』


「私、まだ混乱していると思うの。とてもビックリしたし、慌ててしまったから。」

「そうね、ゆっくりとした時間が必要だと思うわ。

デヴォン辺境伯は、あなたが自分の気持ちを話してくれるまで

何年でも待つとおっしゃっているの。ね、カルロス?」

「そうなんだ……彼は仕事が早くてね……もうデートの申し込みをして行ったよ。

返事はアリーに任せるけどね。断っても良いんだよ、アリー」

「もう、カルロスってば……。アリー、確かにお断りしても良いけど、

よく考えてね。番を見つけたのに何年も待つなんて

普通、できることではないのよ」

「……そうなの?」

「えぇ、たいていの番はお互いの気持ちが分かるのも早いし

別に長い期間、考える必要がないのよ。

そこを待つとおっしゃって下さった優しさは、分かっておくべきだと思うわ」

「……ええ、ええ お母様。私……、でもシャアル様の事を何も知らないの。

だから……だから、お出かけしてみようと思うわ」

「そうね、ではそうなさい。こちらからお返事しておくから、

後はあちらからお誘いがあるでしょう」

「アリー?本当に断って良いんだよ?イヤなら、いつでも言いなさい」

「カルロス……。まだそんな事を言って……。

良いわ、アリーもう寝ましょう?お返事はしておくから心配しないで」

「はい。お父様、お母様ありがとう」

「えぇ、おやすみなさい。また明日の朝ね」


アリーは部屋に戻り、両親の話を頭に描いた。

金色の粉……降ってきたら、さぞ美しいだろう。

自分の心の中にも降れば良いのに……。

どうやったら自分の心の中が覗けるかしら……?


とりとめもなく想いをはせ、疲れて夢の中に落ちていくのだった。

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