「年下が好き」と呟いたら「留年したら付き合ってくれるの?」と言った幼馴染みと幸せになる

しゆの

第1話

「年下って健気で可愛いな」


 自室のベッドで寝転びながら、小宮隆二こみやりゅうじはラノベを読んでいる。

 後輩がメインヒロインのラノベで、先輩って呼んで健気に甘えてくる姿がとても可愛い。

 隆二の趣味は年下がメインヒロインのラノベを読むこと。

 だから年下がメインで出てくるラノベであれば、とりあえず片っ端から手を出す。

 読んで面白いと思ったラノベは続編を買うという感じだ。

 年下がヒロインのラノベはかなりあるので、結構出費がかさむが。

 一応、つまらなかったらすぐに古本屋に売りに行ってお金に替え、最小限の出費で抑えている。


「前から思ってたけど隆二くんはロリコンなの?」


 白い目でこちらを見ている幼馴染みの白石瑞葉しらいしみずは

 せっかくの綺麗な瞳が台無しだ。


「一つか二つ下が好きだからってロリコン認定はどうかと思うが」


 高校生が小学生を好きと言えばロリコンだと言われてもおかしくないが、後輩が好きだと言った程度でロリコン認定されればかなりの人がロリコンになる。

 年下好きの男は多いだろう。

 隆二は年上か年下のどちらが好きかと聞かれたら年下好きと答える。

 今は高校生一年生なので、後輩はいなくて若干悲しい。

 少なくとも後半年ほど待つ必要がある。


「隆二くんは年下が好きなの?」


 何故か不機嫌そうな声で質問してきた。


「そうだな。年下が好き」


 目の前に同い年の絶世の美少女がいるのに、年下が好きと答えるのは隆二だけだろう。

 普通だったら多少好みと違っても同級生などと答えてしまいそうだ。

 それほどまでに一緒にいる少女──白石瑞葉は美しくて可愛らしい少女。

 肩ほどまであるサラサラとした亜麻色の髪、長いまつ毛に琥珀色の大きな瞳、透けるような白い肌は誰もが見惚れるほどの美少女だ。

 容姿端麗の上に性格も良いし成績優秀、運動神経抜群と非の打ち所がない瑞葉を好きな男子が多いだろう。

 ただ、瑞葉が告白されたって話をほとんど聞いたことがない。

 恐らく隆二がずっと一緒にいるからだ。

 瑞葉は学校で友達に「毎日ように隆二くんの家にいるよ」と言ったことがあったため、周りからは付き合っていると認識されているのだろう。

 実際は付き合っていないが。

 親同士が知り合いでいつでも来ていい言われているため、瑞葉は小宮家に毎日のように入り浸っている。


「そっか。なら……留年したら付き合ってくれるの?」

「……はい?」


 決して聞き取れなかったわけでなく、瑞葉の言葉に耳を疑ってしまったから聞き返してしまっただけ。

 本当に聞き間違いでなければ留年したら付き合ってくれるの? と言ったはずだ。


「だから……留年して、後輩になったら私と付き合ってくれるの?」

「ちょっと意味がわからないんだが……留年したいのか?」

「うん」


 頭の中がこんがらがってしまい、まともに思考が出来ない。

 故意に留年しようする人なんて聞いたことないし、する人だってしたいと思ってしてるわけではないだろう。

 なのに瑞葉は留年したらという言葉を口にした。

 つまりは故意に留年しようとしているのだ。


「俺と付き合うために?」

「うん。だって隆二くんの好きな年下になれないけど、留年したら後輩になれるもん。そうすれば私のことを異性として見てくれるかなって思って……」


 斬新な告白で、留年しようとしてまで付き合いたいと言ってくるなんて思わなかった。

 好かれるのは素直に嬉しいことだが、いくら相手が年下好きと言ったからって普通は留年しようと思わない。

 留年しても年下になれるわけがないからだ。

 でも、瑞葉にとっては留年してでも付き合いたいと思うくらいに隆二のことが好きなのだろ。


「もう幼馴染みの関係では我慢出来ないよ。隆二くんは私を病気から救ってくれたヒーローだもん」


 うっすらと涙を浮かべた瑞葉が抱きついてくる。

 急性骨髄性白血病……瑞葉が過去になったことがある病気だ。

 血液のガンとも言われ、比較的若い人がかかりやすい。

 そんな病気に十歳の瑞葉の身体は蝕まれ、余命宣告までされてしまったほどだ。

 抗がん剤ではそこまで効果がなく、完治させるには骨髄移植が必要だった。

 骨髄移植をするにはHLAが一致する必要があり、一致する確率はきょうだい間で二十五パーセント、両親で一パーセントしかない。

 瑞葉にきょうだいはいなので、両親のHLAが調べられたが一致することがなかった。

 ドナーが中々見つからない中、偶然にも隆二と瑞葉のHLAが一致したのだ。

 大切な幼馴染みを助けられるのならと隆二は瑞葉に骨髄を提供した。(本来未成年者が骨髄を提供することはないですが、フィクションなので気にしないことにしましょう)

 移植が上手くいき、今のところ瑞葉は白血病を再発していない。


「ほら、隆二くんが私を助けてくれた証だよ」


 ブラウスのボタン外し、まだ残っている注射痕を見せてくれる。

 きちんと移植出来ているか確認した時の跡だろう。


「私は隆二くんと同じ血が流れてるんだよ。これって運命だよね」


 骨髄移植をすれば提供者と同じ血液型になり、血液細胞の染色体、DNAまでドナー由来のもに変わる。

 助けてくてたことから気になり、同じ血が流れてると思ったら好きになったのだろう。


「同じ血が流れていても結婚って出来るのか?」


 骨髄移植の患者と提供者が結婚出来るか法律上わからない。

 血液のDNAが同じになってしまっているし、大丈夫なのかは調べる必要がある。


「そこは……きっと大丈夫だよ。戸籍上は血の繋がりないんだし。私は隆二くん以外の人なんて嫌だ。私の体はDNAまで隆二くんと同じ……」

「血液のだけな」


 血液細胞は全く同じになっていると言っていいが、他はもちろん違う。

 全てが同じというのであれば、髪の色まで同じになっていないおかしい。

 隆二が黒で瑞葉は亜麻色と違っている。


「そこは水を差さないでよ」


 不満げに瑞葉は「むう~……」と頬を膨らます。


「とにかく、私は隆二くんで出来ていると言っても過言ではないよ。小学生の頃に私は隆二くんに汚されてしまったの」

「意味深な言い方だな」

「それから隆二くんが好きで好きでしょうがないの。付き合えるなら留年することに躊躇はないよ」


 普通は躊躇するところだ。

 とても真剣な瞳見れば嘘を言っていないのは一目瞭然。

 隆二が留年したら付き合うと言えば、瑞葉は何の躊躇いもなく留年するだろう。

 テストで学年一桁の順位は最下位まで落ち、授業だってサボるかもしれない。


「留年しなくていい」

「何でよ? 留年しても私とじゃ付き合えないの? 同じ血だからキスもエッチなことも出来ない?」


 我慢出来なくなったのか、瑞葉の瞳から大粒の涙が溢れ出す。

 留年しなくていい言われ、フラれたと思ったのだろう。

 でも、隆二は付き合えないと言ってはいない。


「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ……隆二くんと付き合えないなんて、生きていけないよ……」

「瑞葉……」

「お願い……何でもするから……隆二くんの望むこと、どんなプレイでもするから、私をずっと側に置い、て……」


 最後の力を絞り出すだすような、とても弱々しい声になる。

 確かに隆二がいなかったら瑞葉はもう亡くなっていたかもしいれない。

 だから側にいてくれないと生きていけないくらい好きになったのもわかる。


「大丈夫だから。結婚出来るのか? て聞いた時点で俺の気持ちを察してほしい」

「……え?」

「俺──小宮隆二は……白石瑞葉のことが好きだ」


 一目惚れだった。

 小さい頃に会ってすぐに好きになり、ずっと瑞葉の側にいるようになった。

 瑞葉が病気で死ぬかもしれないと聞いた時は何度も泣いてしまったほどだ。

 だから瑞葉を助けられた時は嬉しかったし、今も再発しないように祈り続けている。

 定期的に検査をしているし、再発する心配はあまりないだろう。


「本当……に?」

「ああ。だから泣くなって」


 指で涙を拭ってあげるが、それでも止まることはない。


「ごめん、ね。嬉しすぎて……」


 自分でも涙を拭う瑞葉であるが止まる気配がなく、よっぽど嬉しいことなのだろう。

 ずっと想い続けていた人と付き合えたのだし嬉し泣きしても仕方ない。


「ちなみに俺が年下好きなのは二次元の話なので」

「それは、紛わらしいよ」

「ごめん。お詫びをあげる」

「え? んん……」


 お詫びとは隆二のファーストキス。

 お互いの唇を重ね合い、何度も何度もキスをする。

 柔らかくて温かい瑞葉の唇は病みつきになってしいまいそうで、止めるタイミング見つからない。

 いっぱいキスをした隆二は、永遠に瑞葉といる約束をした。

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