■036――大地の目覚め
「では、行ってまいります、兄さん」
ここは大森林の西の外れ。
デンはこれから念願の叡智の試練に向かおうとしていた。
「大丈夫か?無理して今行かなくていいんだぞ?」
ゲンマもクロード先輩も大丈夫だろうと太鼓判を押していたが、俺は心配で仕方がない。
「私を大事に思ってくれるのは嬉しいですけど……兄さんはその心配を自分に向けるべきですよ」
デンが苦笑しつつ言うと、周りのメンバーは激しく同意と言わんばかりに首を縦に振った。
どうしてそうなる……。
「デン君なら大丈夫だよ、それに……少しはお館様を信じようよ」
ゲンマはこっそり耳元で囁いた。
そうは言うが、あのお館様が手加減するとは思えないが……そもそも難易度を下げられるのはデンにとっては不本意だろう。
「大丈夫よ、この人そう簡単には死なないから。それは私が保証するわ」
婚約者のジュンはあっさりしたものだ。それで良いのか?
「というより、仕事がてんこ盛りなんだから、さっさと済ませて帰ってきて。あなたも先生の新作が早く読みたいって言ってたでしょ」
「うっ……それを言われるとなぁ……分かったよ。なるべく早く帰る」
そうだそうだ。早く帰ってきてお兄ちゃんの仕事手伝ってくれよ!
小市民にはマジで荷が重すぎなんだよ。助けてくれ。
□
デンを乗せた龍形態のゲンマが聖アルバ山に飛んでいくのを見送った俺たちは、モモちゃんの呼び出した騎獣に乗ってフィン王国の視察に向かった。
今回の視察の目的は、主に地方の農業地区の状況確認だ。
もはやお馴染みになったグラリフェンの乗り心地にも慣れてきた。
フィン王国の前王エンバークは大地の呪いを解くために死霊使い一族の娘ドレインを迎え入れ、結果国は内戦状態になり却って国土が荒れることになった。
戦争が終わっても大地の呪いとやらが残ったままでは、問題の抜本的解決にはならないだろう。
「魔術や呪いに関しては専門外だけど、文官が提供してくれた資料に目を通した限り、そういう問題じゃない気がするのよ、勘だけど。まずは地質を調べてからね」
ジュンはこの問題に関しては科学的にアプローチするようだ。
彼女の閃きはデンも一目置いているので任せよう。
「一応、本当に呪いのせいの可能性もあるから、そっちの調査はモジュロー君とゲンマさんに任せるわ」
「わかりました。この問題解決は今は亡きエンバーク王の悲願……一度腰を据えて取り組む必要があるでしょう」
モジュローはテラブランチで地面をついて胸を叩いた。
「でも……この辺境の小国全体に長い間呪いを掛け続けるって考えられないのよね……コスパが悪すぎるというか。ともかく調査を開始しましょう」
■
俺たちはその後、ジェームズに農業地区の調査の許可を貰い、各地を飛び回って、ジュン主導の計測やサンプル収集を手伝った。
途中、魔物や野盗の襲撃があったが、ダンジョンでレベリングした俺たちの敵ではなかった。
「いやぁああぁぁぁ!!!こないでぇええぇぇぇ!!!」
一番低レベルであるジュンの助手のフォルミカですら、金属バットの一撃でコカトリスを葬り、カスタムエンチャントのマシンガン掃射で盗賊の群れを撃退しているので過剰戦力もいい所だ。
「弾切れがないってのは流石魔法って感じで素晴らしいわ。物理攻撃でないのは心許ないけど……なーんかイマイチ撃った気がしないのよね」
ジュンはさらっと物騒なこと言ってる……この娘なんなんだよ。
■
「先生!ちゃんと林檎食べてますか?」
野営で一泊した朝、天幕から出てくると、モモちゃんが黄金林檎を手に持って迫ってきた。
ちょっと前から、政務が忙しくてキングたちにも会ってないんだよな……。
「みんな心配してましたよ!先生に食べさせてあげてって、沢山預かってきました!」
俺は輝く林檎を受け取って、噛り付いた。
うん、美味い。
最近蓄積していた疲労が薄れて、力が漲ってくる。
林檎の木の枝をドルチェアルボラに接ぎ木をすると、黄金の林檎が成る。
では、黄金林檎を実らせた木の枝を普通の林檎の木に接ぎ木するとどうなるか?
試した結果は普通の林檎の木でも黄金林檎を実らせられるようだ。
ただモジュローの鑑定によると、品質はドルチェアルボラたちの物よりランクは落ちる。
特に、キングやクイーンのように名付けをした個体が実らせたような輝く林檎には到底及ばないらしい。
しかし、それでも量産が可能になったのは大きいことだ。
「ありがとう、モモちゃん」
「どういたしまして!あ、みんなもどうですか?」
モモちゃんは他のメンバーにも林檎を配って歩いている。
どれだけ持ってきたんだ……。
■
後日、調査結果を纏めたレポートを携えたジュンはフィン王国のジェームズが住う館の一室での会議の場で発表した。
「調べた所、全部が全部呪いって訳じゃなさそうね」
彼女は壁に掛けられたフィン王国の色分けされた地図を指揮棒で差しながら解説した。
「モジュロー君、ゲンマさんの調査によると、呪いの痕跡が見つかったのは川の周辺の一部……元々穀倉地帯で知られた地域で、記録によると三十年前から急に不作になって、今だに最盛期の収穫量に戻らないようね。地質調査では特に異常は見つけられなかったから、対処は専門家にお任せするわ」
モジュローは頷いて一礼した。
「で、他の地域だけど……前提として、聖アルバ山って昔は活火山だったようなのね。今は休眠期に入っているけど。大昔に噴火した際の火山灰がその周辺に広範囲で降り積もってる状態なのよ」
「へぇ……ローム層って奴か」
「そう。よく知ってるわね」
日本の義務教育を受けた人間なら関東ローム層という単語くらいは知っているだろう。
確か粘土質で農業、特に稲作には向かないが、畑作なら可能な筈だった。
「とりあえずは
「ふむ……参考になります」
ジェームズは神妙な顔で顎に手を当てて考えている。
恐らくだが、戦乱の絶えない地域であるため、保存が効き軍用食にしやすい小麦の生産を優先していたのだろうが、ただでさえ痩せた土地柄で連作障害がある作物を無理に作った結果、国が困窮する一因にもなったのだろう。
あと、芋より麦の方が密売で横流ししやすいという事情もあるかもしれない。
問題としては呪いよりこっちの方が闇が深いかもな。
「まずは小麦の連作をやめて芋や豆と輪作をさせること、それと並行して腐葉土を使った土壌の改良と……それに道路整備と治水事業ね。これは雇用対策にもなるから今すぐにでも取り掛かった方がいいでしょう。既にデンが計画を立ててくれているので、良かったら参考にして」
彼女は計画書の束をジェームズに渡した。
「なるほど。末端の兵士たちに仕事を与えて不満を抑えると……」
ジェームズは謙遜していたが、取り組んでみると国家事業は楽しい仕事のようで、やはり施政者に向いているようだ。
政治に関しては生き残った実弟が引き継いだ公爵家出身の奥方が付いている以上問題はないだろうし、任せて良かった。
「それにしてもジュン殿には危険な調査に加えて、綿密な計画まで立てていただけて……感謝しきれません」
うん、大手柄だな。
大地の女神として信仰の対象になってもおかしくないな。
「それは気が早いわよ。こういう農業事業は地道な活動を何十年何百年と続けていく必要があるんだから、本当に大変なのはこれからよ」
その国家事業の足がかりを短時間で仕上げたんだから、やっぱりお手柄だ。何か褒美をあげないとな。
「ジュンちゃんかっこいいー!素敵!」
モモちゃんが歓声をあげると、ジュンのクールで端正な顔がいきなり崩れて周囲にハートマークが飛び交った。
「えへへ……お姉様に褒められちゃった……褒美なんて……お姉様と二人っきりのキャンピングナイトはプライスレス……一生の思い出……うへへ……」
「えっ?ずっとミカちゃんも一緒だったよね?大丈夫???ジュンちゃん???」
決死の覚悟で付いてきたフォルミカを完全モブ扱いはあんまりだろう……と思ったが、彼女もいい加減ジュンのキャラは掴んだのか達観した眼差しで虚空を見ていた。
「……慣れました……それでも、ジュン様についてまいります!」
お、おう。がんばれや。
別れ際、モモちゃんはジェームズにもカゴに入った黄金林檎を渡した。
流石に輝く林檎ではなく、量産品の方だ。
「アースガード自治区の新しい名産品です!是非、奥さんと召し上がってください!」
「……は……はぁ……」
ジェームズは受け取った黄金林檎を眺めて、若干困り顔だ。
「……まさか……いやいや、本物ではないでしょう……立派な林檎、ありがたく頂きます」
まぁ、俄かには信じがたいよな……でもジェームズと奥方にはこれからも元気でいてほしい。
■
新生フィン王国での農業改革第一段階を終え、俺たちは自治区に戻って、束の間の休息を過ごすことにした。
立ち上げて間もないとはいえ、あまりにも慌ただしすぎた。
マジで疲れた。
しばらく何もしたくない……しかし好事魔多し、予期せぬ事態はいきなり訪れる。
オクルスが複雑な表情で一人の男をジョイスの宿屋に連れてきた。
「一応、アッシの知り合いなんですが……ちょっと判断が微妙な不審人物でして」
「……不審人物はないんじゃないかなぁ〜……ひどいなぁ、オクルス殿……」
クリーム色の髪の中肉中背の軟弱そうな見た目の、小声で囁くような口調の男で、前髪を長く伸ばして片目を隠していた。
「問答無用で縛り上げなかった事を感謝して欲しいですね」
「……ええ〜〜、それはあんまりだよぉ〜〜」
見た感じは人畜無害そうだが……。
「見た目で騙さちゃいけませんぜ。此奴は以前話した秘密結社の首領ですぜ。行方不明だったんですが、『迎えに来い』といきなり連絡をよこして……一体何を企んでる?」
「……いや〜もう限界でね〜……昔のよしみで助けてよ〜オクルス殿〜〜」
選民思想の秘密結社イフリードの元首領か……イメージと大分違うな……。
「知ってる情報は全て出します〜眷属でも何でも受け入れます〜お助けください〜」
そこで、男の腹が盛大に鳴った。
「もう、ずっとまともな食事をしてないんですぅ〜〜」
俺は男に卵雑炊を作って出すとガツガツ食い出した。
「はわ〜、このお粥、美味しいです〜」
で、なんなんだよ、お前は。
「取り合えず、自己紹介くらいして欲しいんだが……」
「はっ!……申し遅れました〜アタシはウォクスと申します〜。オクルス殿と同じく妖魔族の末裔なんですぅ〜」
「アッシと一緒にして欲しくないんですがね……」
「さっきから扱い酷いなぁ〜……アタシに会いたかったんだよねぇ?」
「情報が欲しかっただけで、距離を縮めたくは無いのですが……先に眷属にした方がいいですよ、先生。此奴はイマイチ信用できないんで……」
「えー」
「変わった子だね。本人も希望してるし、ちゃっちゃとしちゃったら?」
物珍しげに見ていたゲンマが呑気に言っている所をみると、ヤバイ奴ではなさそうだ。
俺がサインスタンプをウォクスの腕に施すと、心なしかホッとした様子だ。
その後、テルさんに閉鎖空間を設定して貰って話を聞くことになった。
「はぁー、龍族の傘下なら、彼奴らも簡単には手出し出来ないでしょうし、助かりましたぁ〜」
「どういう事なんだ?そもそも秘密結社ってなんなんだ?」
俺はずっと疑問だった点を頭の中で整理しながらウォクスに聞いた。
「はいー。まず歴史のお話ですねー。昔々、旧支配者は赤龍と黒龍の戦いを目の当たりにして終末の時が来たと恐れをなして別の大陸に逃げ出しました。でも、全てではありません。アタシやオクルス殿の先祖のようにここに踏みとどまったモノが少数ながらいましたー」
それは以前聞いたことがある。
「逃げ出した魔族たちは新天地で新たに国を作りました。そして数百年程たった頃に、この大陸に踏みとどまった同胞の子孫に現地の動向を伝えるように要請したのですー」
ここまでは普通に予想できる範囲だな。
「まー、言っても魔族の力じゃ、龍族はおろか他の支配種族にも勝てませんからね。システムは明らかにエコ贔屓してますもん、ズルイですぅ〜」
そうなんだ……ちょっとその口調イラっとしてきた。
彼は囁くような小声なのに耳の奥まで言葉が明瞭に届く不思議な声の持ち主だった。
ASMRみたいな音声でクネクネしたふざけた口調を聞き続けて、俺は少し不機嫌さを隠しきれなくなった。
「……で、実際、何が起きたんだ?」
「はわわ、睨んじゃイヤン……と、ともかく、闇に潜んで公式情報を横流しするだけの簡単なお仕事をずっと続けてきたんですけど!あっちの大陸……便宜上、魔大陸と称しますが、近年、魔大陸全土を跨いだ大きな戦争があって、そのどさくさでイフリードの元締めの国が内戦で再編成……革命っていうんですか?それでガラッと方針が変わってしまいまして……」
これも予測していた通りだな。
ヴェールの出自も関係していそうな話ではある。
「数年前に向こうから魔王国のキマリスという魔族の男がやってきて、この大陸に軍事拠点を築きたいとか言い出しましてー。泡食って思いとどまるように言ったら問答無用で追い出されましたー。まぁ、アタシは荒事は苦手なんで巻き込まれても役に立てませーん。それで、しばらくは影に潜んで暮らせて行けんたんですが、ここのところ、追っ手がこれまで以上に執拗になってきて、すっかり困り果てて……お願いしますぅ〜、何でもしますから匿ってくださいよぉ〜」
ウォクスは土下座する勢いで頭を下げてきた。
思ってたより目新しい情報がなかったな。
でも具体的な情報と敵に明らかな害意がある事を確認できたのは大きいか。
「その、キマリスってのは強いのか?」
「いやー、アタシとかその辺の冒険者よりは強いですけど……支配種族、特に龍族には軍単位でも勝てないですよー。現にこっちに来てから今まで何も出来てないんですからー」
そうだよな……というか、何を考えてるんだ?
龍族に対して対抗手段でもあるのか?
「話をした感じだと……旧支配者の王魔族を倒して気が大きくなってる風にしか見えませんでしたー。今は魔大陸の国家間の覇権争いでも劣勢みたいですしー。後に引くに引けないって印象ですー」
ん?……現在の魔大陸の情報が手に入るのか?
「えへへ……まだ結社に多少のツテがあるのと……あと大きな声では言えませんが、クオート経由でも情報を入手しておりますー」
クオート?どういうことだ?鎖国してるんじゃないのか?
「メガロクオートはこの龍大陸では鎖国状態ですが、他の地域とは転送ストレージと星の民の定期連絡船を使った貿易を盛んに行ってますー。彼らの交易網はこの世界全体に及んでいますよぉー」
ある意味、この情報が一番驚いた。
今まで閉鎖的な小国のイメージだったのが、野心溢れる貿易国家に、一瞬で塗り替えられたのだ。
「へぇー。その話、もっと詳しく聞きたいなぁー」
案の定、好奇心の強いゲンマの目が輝いた。
■
ウォクスの話を一通り聞いた後、閉鎖空間を解除すると、ダンジョンから帰ってきたヴェールが駆けつけてきた。
「あるじ様ー」
微笑みながら俺に飛びついてきた彼女を見て、ウォクスは真顔で固まった。
「その方はどなたですか?」
初対面の人間を見て首をかしげて尋ねる彼女にウォクスは、騎士のように跪いた。
「え……?」
「……今まで、従えるべき主人もなく、信仰する対象も持たず、ただ意味もなく生きてまいりました……その長く無為な時がようやく終えられそうです……どうか我が忠誠をお受け取りください……」
ウォクスはさっきまでのヘラヘラした口調が嘘みたいに消え失せ、真剣な態度でヴェールの言葉を待っている。
「ど、どうしましょう……あるじ様ー……」
当の本人はオロオロして困っているが……まぁ、いいんじゃないかな。
うちの子は魔族に人気なんだな。
「それで、どうかしたのか?」
「そう!さっき新しいスキルを覚えたので見て欲しかったのです!【おしのび】!」
彼女がスキルを唱えると、キラキラしたパーティクルに包まれ、光の粒子が消えると、彼女の特徴的な外見が変化した。
猫耳と尻尾は消えて髪は一般的な茶色、それにあの鮮やかなオッドアイも、普通の青い瞳に変わった。
要するに、見るからに希少な魔族の少女から、どこにでも居そうな美少女に変身可能になった、ということか。魔法少女とは逆だな。
でもこれで人さらいやロリコンから少しは身を守れるかもな。
「ええ、万が一、キマリスに見つかったら大変なことになりますー……人前に出る時は出来るだけ、そのお姿でいて欲しいですぅ」
これからこの自治区には有象無象の人間が押し寄せてくる。
自衛手段は多く持っていて損はないだろう。
□
領事館の子供部屋で年少の子供達の面倒を見ているモジュローに会いに行くと、アン姫が嬉しそうに駆け寄ってきたが、お忍びモードのヴェールを見た彼女は悲しそうな顔をした。
「猫さんは終わってしまったのでございまするか……?」
「あ……いえ、そういうわけでは……」
「猫さんにはもうお会いできませんのか……?」
アンは泣きそうな顔でプルプルしている。
「いえ……うーん……あああ……【おしのび解除】!」
泣きそうな幼女を前に苦悩するヴェールがスキルを解除すると、いつもの見慣れた猫耳ヴェールに戻っていた。
「猫さん……!!」
アンの顔がパッと輝き、ヴェールにしがみついた。
相当懐かれてるようだな。主に猫耳が。
「こういうのは少しづつ慣らしていくものです。大丈夫ですわ」
先輩格のクロエに励まされているが、若干複雑な表情のヴェールだった。
□
ウォクスはゲンマに未確認情報についての詳しい話と、これからの仕事について打ち合わせに入っている。
恐らくは学校の業務を手伝う事になるのだろう。
書斎に戻った俺はオクルスの定期報告を聞く事にした。
「王都の混乱は収まったのか?」
「大方は収まるところに収まった感じですかね。しかし混乱の火種は未だ燻ってます。大官僚は残留派と離脱派で完全に分裂して派閥の体は保ってない状態です」
「検閲問題はなんとかなりそうだな……肝心のカタリ家はどうした?」
「族長は未だ判断を保留してますが……残留するのはありえないでしょう。長男が眷属化を受け入れた以上、王都に留まるかどうかも怪しいところです」
栄華を誇った大官僚もあっけないものだな。
彼らが少しでも民衆の支持を得ていれば、違った未来も有った筈だが。
「他の兄弟たちはどうした?」
「次男のアウルムは自重していたソルラエダの活動を再開しました」
「ほう、禊は済ませたとか思っているのか。王都の市民の関心は他所に移ったか?」
「……まさか、家の方が崩壊寸前ですからね。溜め込んでた資金も尽きる頃でしょうし、形振り構っていられないのでしょう。元々贅沢を我慢できる連中ではありませんから。ここ最近は手下を使って王都のダンジョンでの活動に専念してます」
奴ら相当追い込まれている、ということか。
「指名手配中のアイツらはまだ隠れているのか?」
「ええ。奴らにしては良く我慢しています、しかし、そろそろ限界でしょう。流石にこれ以上王都に潜んでいるのは無理だと思いますね」
正直なところ、彼らがここまで王都のダンジョンに固執するのは、些か不可解ではある。
それほど彼らのように欲深く自尊心が肥大した者たちにとって、ダンジョンが生み出す富と栄光には離れがたいものがあるのだろう。
「まぁ、その頼みの綱のダンジョンも、もうじき色褪せる事になるのですがね」
そう、あと数日で、このプリムムダンジョンの拡張が正式に公表され、来月にはスパピアと自治区との転移門も再び開通する予定となっている。
レベリング効率では中立地帯に僅かに及ばないが、報酬では大陸内でも類を見ないほど旨味があるダンジョンだ。
しかも初心者でも低レベルからじっくり育成しながら下層に挑戦できる親切設計。
高い義援金を払わなければ入場すら出来ない上に、優しくない難易度のダンジョンと比べたら、一般の冒険者にとってどちらが魅力的かは言うまでもない話だ。
「さらに冒険者ギルドの評価システムの改革がそこに追い打ちしますからね。アイツらもタダじゃ済まないでしょう」
何も考えずにお館様や龍族を愚弄し、反省の色も見せないソルラエダの連中は大馬鹿野郎だと思っている。
しかし、そういうバカほど追い込まれると、予想外に愚かな行動を取りがちだ。
既にアイツらの命運は尽きているとはいえ、詰みの段階でも落ち着いて手を進めていかねばなるまい。
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