03
最も研究バカな研究員は、女性だった。
けっこう綺麗な顔をしているのに勿体ない。
彼女の横顔を見ていたら、また女が、今度はニヤつきながら話しかけてきた。
「あー、わかったー。好きなの?」
「さーな。」
はっきりいって金目当ての奴らはうざったい。
仕事しないのはともかく。 邪魔はしないでほしい。
俺だって大きな貢献をしているわけではないが、掃除はしている。
彼女に話しかけてはみたいが…
どうにもずっと研究しているため、話しかけたら邪魔になってしまう。
横で見ている事くらいしかできない。
俺にも研究が手伝えたらいいのだが、あれに関してはどうにも手が出せない。
原因がまったくわからない上、近づけば何があるかわからない。危険すぎる。
もう一人いる研究バカは男だった。
かなりお喋りで、自慢げに自分の経歴を語っている。
研究バカというか ただの自慢男だな。
こいつにはなるべく関わりたくない。
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数日の研究を経ても結果を出したのは彼女だけだった。
データをとる度にセンサーを修復して、丹念にパターンを出して。
ついに逆パターンの数値を計算し、新素材の設計図を作った。
それを発注し、隔離容器の強化をした。
「この数値は絶対にいじらないでください。」
淡々と彼女が言う。
報告書は自慢ばかりしている男が勝手に書き上げて、勝手にお金を持っていった。
彼女は全く気にしていないようで、引き続きこの異常事態の原因究明を急いでいた。
俺はまた彼女の横で掃除をする。
「・・・いいの?とられてたけど、手柄。」
彼女の邪魔はしたくなかったが さすがに黙っていられなかった。
あれは全部彼女が一人で頑張った事なのに。
「別にいい。それよりも、このまま悪化するとあの子が殺される。」
隔離容器の中のあれに 彼女が視線を送った。
「あれか。いっそ処分したほうが世界のためだと思うんだけどな。」
「あれとか言わないで。あの子は人間よ。
ご両親だっていつも心配して見に来ているでしょう。」
「ごめん…。」
こんなふうに怒ったりするんだ……。
彼女は俺が反省したように見えたのか、それ以上は何も言わずにまた作業に戻った。
改善の方向に向かっていると思った研究は、全て幼児の力に消された。
幼児の力が増しているのだ。
隔離施設である第三研究室の機械が全停止した。
計算機やPC、データをとるセンサーだけではない。
照明、エアコン、ドアロックシステム、建物内の機械全てだ。
湯沸し器でさえうまく動かない。時計も歯車が磁気にあてられたのか、アナログも狂っている。
このご時世にそろばんやノート、砂時計と日時計を使うなんて…。
施設は最悪だった。
夏は蒸すし冬は極寒。
研究するにしても作業は大体別室でやらないと耐えられない。
それでも彼女はどんな日でもデータをとり、施設の傍で異常数値の補正をしていた。
時折あれに、毛布をかけたり、保冷剤をのせたり……濡れタオルで拭いてあげたりもしていた。
彼女にとってあれは、研究対象ではなく一つの命。
だが……こんな事を全て彼女にさせっぱなしでは、過労で死んでしまう。
「せめてレポートと計算くらいは別棟でやったらどうだ?
あそこなら空調が動くぞ。」
「大人でこれなんだから、ほっといたらあの子死んじゃう……。」
汗だくになりながら彼女がノートとそろばんで必死に計算していた。
今は真夏だ。
この気温で?
あの容器の中にずっと居て?
死なないのか?
空気は入るし温度調節のために保冷剤を別棟から常時供給しているが
普通の子供ならとっくに死んでいる。
彼女のほうが死にそうなのに。
やはりあれは人間ではない。
彼女には悪いが、早くあれに死んでほしいと願っている。
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