第2話 忘年会 下

米本よねもと、すまんが大阪の事務所までこれを頼む」

 そう行って大きめのブツが入った茶封筒をそいつに投げる。

 こいつは米本といい年齢は俺より二つ上の十九歳で普段は建設業をしている。身長は百八十後半で高校の時に一度同級生をナイフで刺して鑑別所かんべつしょに入っていた。

「えー、天音さんまたですか? 俺次やったらガチでムショ暮らしっすよ〜」

 初犯しょはんだから罪を軽くしてもらったところもあるのだろう。こいつは普段から警察の匂いに敏感だ。だから今回もきっと封筒の中身がなんなのかすぐに理解したのだろう。

「すまんが頼む。今日は祖父に呼ばれてるんだ。遅れたら多分日本刀で切り刻まれる」

 米本はだるそうに茶封筒を抱えると「今回だけっすよ〜」と言い残してとぼとぼと歩いていく。

 俺はかじかむ手を白い息で温めながら今から向かう場所に意識を移す。

 ここから大阪方面に向かっておよそ二十キロほど。そこは父方の祖父の家でそれはまあ立派なお屋敷なのだが如何いかんせん祖父はいつも俺に剣術を教えたがる。しかも、それが本物の真剣しんけんであるから恐ろしい。まぁ正月限定であるのだから我慢できんこともないが・・・。


 そんな時だった。俺の後ろから肩をちょんちょんと指の腹で突いてきたのは。

「剛ちゃん、久しぶりだね〜」

 振り返るとその声の主は俺の目線の少し下に居た。

 あでやかな黒髪に年齢の読みにくい童顔、さらに幼児体形も相まって本当に中学生にも見えなくもないこいつだが実は同い年の所謂いわゆる「幼馴染」というやつだ。

 名前は「金津良美かねずよしみ」といい、昔からよく遊んでいた女の子だ。

 なぜそんな普通の女子高生がこんな男臭い場所にいるかといえばそれは彼女の兄が俺と同じく月崋山の特攻隊長をしているからだ。俗にいう幹部という奴だ。

「久しぶりだなよし、元気にしてたか?」

「元気だったよう〜、剛ちゃんこそあんまり無理してない? 顔の傷また増えてるよぉ?」

 なんだか間延びした声だがこれが彼女の性格だったりする。こんな如何にもか弱そうな少女でも合気道に関していえばそんじょそこらの男より、かなり強かったりする。

 兄の付き添いで来たのだろう。彼女はこの月崋山げっかざんの中でもアイドルとして親しまれている。

 彼女と一緒にいるとピンと張りつめた空気の中に柔らかい朝日の光が入り込んできたような気持ちになるから不思議だ。

 彼女は今時珍しく、真っ黒なガラケーを取り出してぱかっと開いた。

「カシャッ・・・」

 カメラの音に気づいて顔をあげるとそこにはニコニコと微笑みながら「かっこよくなったねー」と良はまたカシャッとシャッターを切る。

「良はスマホに変えないのか?」

「私は友達もいないし、興味ないよ〜」

 良はそのおっとりした性格からあまりクラスのみんなと馴染めないことが多い。中学に入るまでは同じ小学校だったのでよく話しかけていたが中学で離れてからは連絡の数も減っていった。


「そろそろ行くわ。初詣は行くか?」

 すると彼女はニコニコした顔からより一層目の色をキラキラさせて「絶対に行く!」と答えてぴょんぴょん飛び跳ね出した。

 人生楽しそうだな・・・良は・・・

 俺は「また連絡するわ」とだけ告げて愛車にまたがる。

 良は少し名残惜しそに右手てガラケーをキュッと握ると手をブンブン振っている。 

 ふむ、やはりこのままホテルに誘うか?イヤイヤ、兄貴に殺される。

 かぶりを振り雑念を振り飛ばして俺は愛車にキーを差し込み勢いよくエンジンをかけそのまま暗闇に溶け込んだ。

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悪役キャラがフラグを折りまくって何が悪い? 八八さん @hattidesuyon

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