第81話 お母さん! ただいま!(4)
赤く焼けただれた世界に、呆然と立ち尽くす一人の男がいた。
その手には、ソフトクリームが二つ。
しかし、熱のためなのか、ソフトクリームは原型をとどめず、ぼてぼてと溶け落ちていた。
「一体、何が起きたんだ……」
チャイ子に頼まれソフトクリームを買いにいったホストが戻ってきたのであった。
「なんでもう死んでいるんだよ! まだ、お前、ソフトクリーム食べてないだろ!」
男の悲痛な叫び声が聞こえた。
――何も聞こえない! 何も聞こえない!
優子とプアールはそそくさと足を速める。
きゃぁぁぁぁ! 人殺し!
遠くから、どこぞのご婦人の悲鳴が聞こえてきた。
「俺じゃない! 俺の毒が入ったソフトクリームは、まだ食ってないんだ! だから俺じゃない!」
そうである。このホストはチャイ子の命を狙っていたのであった。
ホストは、保険金が入る入ると口だけで、いっこうに金を持ってこないチャイ子に嫌気がさしていた。口を開ければ、幸せになりたいと眠たいことを言うばかり。お前の幸せなんぞどうでもいいわい! お前のせいで俺はホストクラブのオーナーである京さんに追われる日々だ。さっさとチャイ子を片付けて、京さんに詫び入れて出直すんだ。
そう考えたホストは一計を案じた。ネズミ―ランドで殺してしまおう。夢の国で幸せに眠るように死ぬことができれば本望だろうと。そこでソフトクリームの中に毒薬を仕込んだのである。
えっ!?
――もしかして、アイツ、アイちゃんの母親を殺そうとしていた?
足を止める優子とプアール
振り返り、全力でホストに駆け寄った。
「コイツでーす! こいつがこの人を毒殺しました!」
優子とプアールはホストの手を取り叫んだ。
かけつけた警察に連行されていくホスト。
「俺はただ自由になりたかっただけなんだ」
ホストは、がっくり肩を落としながらつぶやいた。
「こいつは、お金があるって言っても口ばっかり……全くの無一文。その上に、夢の国で夢の世界に行きましょうって言う始末。俺は、まだ生きたかったんだ」
お巡りさんは、ホストの手に手錠をかけた。
ホストは天を見上げて叫んだ。
「お母ぁさーーーーん!」
「ただいま! 5時35分! 殺人の容疑であなたを逮捕します!」
しかし、この世界の警察も真面目である。
辺り一面火の海の状態で、毒殺犯一人を逮捕していくとは。
その目の前には、この地獄の世界を作り出した張本人の変態魔王、もとい変態勇者がいるというのに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます