第63話 夢の国(2)

「おお、マイハニー帰ってきてくれたんだね!」

 京は、仰々しく優子を抱きしめた。

 優子はその胸の中で顔を赤らめた。私は帰ってきたんだ。私の夢の国。安らぎの場所。

「ハニー。今日は、私の店で遊んでいくかい?」

 私の店? と言うことは『南園寺 京』の店と言う事か? あの四流のホストクラブで下っ端のちょとだけイケメンホスト京が店を持ったというのか?

 そうなのだ。京は、優子をだまして奪った8,000万円から、優子が遊んだ残りの代金900万円を店に支払うと、さっさと店をやめてしまった。そして、残りのお金をもとに自らがホストクラブを経営し始めたのだ。今では、その界隈に5店舗を開く、やり手のホストであった。最近では、イケイケホストとしてテレビにも出ている始末。人って言うのはちょっとしたことで変わるもんだ。

「あなたの願いでも、ダメなの……今はこの子のお母さんを探さないと」

「おぉ、私のハニーは、なんて優しいんだろう!」

――ちっ! ネギカモが、せっかく舞い戻ってきたというのに、このガキ。お金を使う気ナッシング!

 言葉とは裏腹に、京は心の中で舌打った。

「ねぇ、京さま。アイちゃんのお母さん知りませんか? どこぞのホスト野郎と夢の国へと旅立ったそうなのですが……」

「アイちゃんのお母さん? 名まえは?」

 そういえば、アイちゃんのお母さん、名前はなんていうんだろ?

 優子はふとアイちゃんの様子を伺った

 アアアァァ

 チョコレート菓子をガジガジとかじっている。

 ダメだ……とても、お母さんの名前をしゃべれる状態じゃない。なにか、目印になるようなものはないだろうか。

 優子は、必死に考えを巡らせた。

 そうだ! アイちゃんのお母さんは、保険金目当てでアイちゃんが死ぬと思って、アリバイ作りでホストの元へ走ったのだ。そう、その手には、生命保険の証書があるはず。

「生命保険の証書を持って、近いうちに保険金が入るのよぉって騒いでいた、年増の女いませんでした?」

「あぁ、いたいた」

えっ! もしかしてビンゴ!

「京さま! その女は今どこに?」

「逃げた」

「はい?」

「うん。担当ホストともに夜逃げした」

「どういう事でしょうか?」

「いやなに。保険金が入るからって、豪遊していた女がいたんだんけどさぁ。支払の段になって、どうやら死亡保険金が入ってなかったらしいのよ」

ふむふむ

「その女、すごい剣幕で保険会社に電話してんの。でさ、なにやら、娘がまだ死んでないんだって」

どうやら、その女で間違いないようである。

「かといって、ウチには、そんな事関係ないじゃん! だからさ、担当ホストに、お前、責任とれよって言ったんだわ」

「それで……」

「そしたら、担当ホストも夜逃げした」

「えっ? もしかして行き先知らないんですか?」

「大丈夫だって、俺もこう見えても下積み長かったじゃん。逃げるホストの気持ちよく分かるのよ。だからさ、そんな奴の行き先なんてすぐわかるよ」

「それなら!」

「俺の子飼いの黒服ちゃんが、今懸命に探しているよ。だって、見つけられなかったら、そいつらのチ●コ切っちゃうって脅したからね」

 それって、単なる脅し……下積み全く関係ないんじゃないですか。

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