第62話 夢の国(1)
優子たちは、日が上るパイオハザーの街を後にした。
アイちゃんは優子の手を取り歩いている。
そしてもう一つの手には、母に渡すためのチョコレートが入ったビニール袋。
まだ、健気に持ち続けていたのであった。
今日のアイちゃんはおとなしい。やはり、ゾンビと言うのは日の光に弱いのであろうか。
いやいや、カエル臭いプアールがいなくなったため、かじりつくものがないのである。
ヤドンの背中には性剣セ●クス・カリ・バーが二本、×印に括りつけられていた。
下半身はブリーフ、上半身は胸におおきく『ゆうしゃ』と書かれた青きプレイとメイル。
その背中には大きなバイブが二本くくりつけられている。
もう、どこから見ても変態である。
それも超究極のド変態。この変態野郎が、かの世界最強のドラゴン、ヤカンドレル=ゴールデン=ドラゴンであるなど、だれも思うまい。
ムンネはムンネで、ヤドンの腕に巨乳を押し付け引っ付いていた。
もう、ムンネのの頭の中だけはラブラブである。
しかし、優子はそれとなくヤドンたちから距離を取った。
ラブラブにあてられたのであろうか。
いやもう、こんな変態どもと一緒に歩くのも恥ずかしい。
一緒に歩いていたら自分まで変態と思われていしまう。
そんな乙女心が距離を取らせたのであった。
さて、優子達ご一行はどこへ向かおうというのであろうか。
優子には明確な目標があった。
そう、アイちゃんを母親の元へと返すという目標が。
優子は、訳も分からず突然、このゲーム世界の中へと転移させられた。
もう、かれこれ長い間、母親の木間暮奈美子と会っていない。
母のことを思い出すたびに寂しさが込み上げてくる。
うん?
父と兄はいいのかって?
あんなろくでなしどもいようがいまいが関係ないわい!
しかし、優子にとって母は違う。その優しきぬくもりを思い出すだけで涙が浮かぶ。
あぁ、お母さんの作ってくれた焼肉、もう一度食べたいな……
焼肉って料理なんですかね……ただ、肉を焼いただけのような?
そうか、下味が大事なんですね。
プアールがいたら突っ込んでいただろう。
いや、プアールは焼肉なんて食べたことが無いから突っ込めるわけないか。ハハハのハ
えっ! うちのは、肉そのままよ! たれなんかついていたら網が焦げちゃうじゃない! 大体、洗うの私なんだから!
優子は何かに気づいたように振り向いた。
と言うことは、肉をつけて食べるタレの味ですね……お母さんのタレの味……もう、どうでもいいわ!
話戻って、優子はアイちゃんが自分と重なったのだった。
肉じゃないぞ。境遇だぞ!
離れ離れになったアイちゃんを、母のもとに返したいと切に願ったのは当然の流れだった。
アイちゃんがゾンビになったから、適当に母親に擦り付けて逃げたいとかそんなんじゃないからね。きっと……
占い師のババアが言っていた。
アイちゃんの母親はホストと共に夢の国へと旅立ったと。
アイちゃんの死を的中させた占い師である。まんざらその話も嘘では無かろう。
しかし、ホストの情報なんてどこで聞いたらいいのであろうか。
そんな時優子は一枚の紙を取り出した。
そう、その紙を優子へと差し出したのは、ときめきの彼。
優子初めての壁ドンの相手『南園寺 京』である。
優子がこの世界へと転生した初めての夜。それは、劇的な出会いであった。
また、あの人に会える。
優子の胸はときめいた。ホストに入れ込む乙女そのものである。
妄想の世界にどっぷりとつかる優子は口元がにやけていた。
一方、傍らでちちくりあうヤドンとムンネ。
傍から見たらこの一行は何なんだろうと距離を置かれた。
まぁ、何やかんやしているうちに、優子たちご一行は最初に訪れた街アッカンベエルへとたどり着いていた。
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