第51話 DEAD OR ALIVE?(2)

 どうやら、アイちゃんの母親は、アッカンベエルのホストに貢いでいたようである。

 ついにお金が尽きた母親は、占い師の老婆に大金を手に入れるためにはどうすればいいのかを占って貰ったようだ。


 老婆の占いによると、今日、オタンコナッシーにアイちゃんを行かせれば、アイちゃんは死んでしまうという占いの結果が出たとのこと。

 そこでアイちゃんに生命保険をかけておけば、ガッパガッパと大金がと言うことになったらしい!

 アイちゃんがオタンコナッシーに出かけた後、母親はアリバイ作りのため、貢いだホストともに夢の国へと旅に出かけたそうだ。

 そう、生命保険の証書を大切に持って。


 優子は、思いだす。アイちゃんの青い目にうかぶ涙。もしかして、アイちゃん……この事を知ってたのかしら。


 一方、この世界にはアホしかおらんのかと呆然としているプアールの頭を、がりがりとアイちゃんがかじっている。


 優子は、そんなアイちゃんを見てホッとした。まともな状態のアイちゃんだったらとても聞かせれるような話ではなかったのだ。

 実の母親が、保険金目当てで我が子を殺そうだなんて……

 とにかく、この町にはアイちゃんの母親はいない。それだけは分かった。


「まぁ、いいわ。サブイベントが終わったら、アイちゃんの母親を探しましょう」

「えーっ! 魔王退治はどうするんですかぁ」


「そんなことより、アイちゃんの事でしょ。母親のもとに連れて行ってあげないとかわいそうでしょ」

「というか……この状態で連れていくんですか?」


「大丈夫よ、おそらくその母親、アイちゃんの変化には気づかないわよ」

「まぁ、そうでしょうね……保険金のために、殺害しようとしていたわけですから……」


「そうよ。今度のアイちゃんは、少々のことでは死なないわよ。ゾンビだから!」

「そうですね。プラスに考えましょう! プラスに!」


 優子は、冗談ではなく本気で、そう思っていた。母の愛とは、海より深いはずなのだ。

 優子は、自分の母のことを思い出す。

 毎朝、パンを焼いておいてくれる母。焼き立てがいいと思いながらも、いつも冷えたパンを咥える自分。

 そんな些細なすれ違い。

 だけど、そんなすれ違いを埋めていくのが家族のはずなのだ。

 私も家に帰りたい。

 お母さんと叫び抱きつきたい!

 しかし、アイちゃんの母親は!

 二度とアイちゃんに手はかけさせない!

 優子は、固く誓う。


 うん?


 手をかけたのは? プアールで、ゾンビにしたのは優子さん、あなたでは……なんか事実認識違っていませんか?

 この事実は、いくら家族愛の素晴らしさを語っても埋まらないと思いますけど……


 スタスタとサブイベント会場に向かう優子たち。

 コイツ! 事実から目をそらすことを決め込んだ!

 不都合な事実にはフタをする。優子が大人の階段を一歩登った瞬間であった。




「さぁやってきました。月一恒例サブイベント! 今回のゲームは『テッドor新井さん』! 二匹のアンデッドを先にやっつけたものが勝ちです。さぁ、皆さん用意はいいですか!」

 夜も深まった広場の中心に設置された舞台の上でエムシーが大声で司会進行していた。

 夜半だというのに周囲から割れんばかりの歓声。

 これじゃ! 寝れやしないじゃないか! この街の住民たちにとって、このイベントはうるさくないのだろうか? 


 心配御無用! イベント会場に設定されたこの街の住民たちは、只今、megazon主催のネットショップセミナーの泊まり込み合宿で監禁中なのだ。

 このセミナーが終わったころには、心がなくなり、マシンのようにmegazonショップへと商品を登録しまくるのである。

 そう、家の中にあるものすべてを売りつくす。

 何も残らない家の中で不気味な笑い声だけがこだまする。


 うるものや~ うるものや~ 


 そう、megazonショップに登録して売るものを探し、徘徊するのである。

 まさに洗脳!

 だがmegazonにとっては、楽に販売アイテム数が増加ができた上に、格安で売れるのである。

 もう、なんせ飛ぶように売れる。megazonネットショップの目玉イベントである。

 そりゃもう、婚約指輪なんて100円売っていたりするんだから。

 コンニャク指輪じゃないぞ! そんなもの誰が買うんだ! あ、一人いたわ……そんな奴。

 megazonショップでの取扱販売点数増加とイベント会場の確保という二つの目的を同時に果たすスグレたこの企画。

 気を良くしたmegazon本社は、このサブイベントをすぐさま毎月開催を決めたのは想像に固くなかった。


 プアールは広場に集まる大勢の参加者の中から誰かを探すようにキョロキョロと辺りを見回していた。

「ちっ! やっぱりリチルの奴はこんなクソみたいなイベントには参加してないですね」

「リチル?」

 何か聞いたことがるような?


「私のライバルの女神ですよ! あやつ、連戦連勝! 今や屈指の成金アイドル女神ですよ! クソ! どこで差がついたのか……以前は私と一緒にパンを分け合って笑っていたというのに……今では、かわいそうな目で私にパンをくれるんですよ……」

 優子にすがりついてプアールが鳴き声を上げる。



 パイオハザーの町が一層騒がしくなる。それと共に、高らかにスタート合図がなった。


 一斉に駆け出す参加者たち。

 プアールも負けじと走り出そうとするのを、優子が止めた。

 首根っこを掴まれたプアールが勢いよくひっくり返った。

 したたかに頭を打って目を回す。


 そんなプアールを気遣うこともなく優子は尋ねた。

「ねえ、ヤドン、テッドと新井さん、どちらから狙うの?」

「どっちって言っても、どちらともどこにいるのか分からんしなぁ」

 ヤドンが頭を掻いた。


 とっさに、ムンネができる女をアピールする。こういう時には、さっと一手先を読むものである。

「旦那様! もしお困りのようでしたら、私が探してみましょうか?」

「できるのか?」


「私! 探査魔法が使えますの! 旦那様のお役に立つのが妻の務めでございます」

「おぉ! 頼む!」


「もし……もし、うまくいけば、ご褒美いただけますか?」

「何が欲しいんだ?」


「もう……わたくしに言わせる気ですか!」

「いや……本当に分からんし」


「あ……あの……わたくし赤ちゃんが欲しいんです……もう、35なので、ギリギリかなって……産める時に産んでおかないと、育てるのも大変っていうか……」

「なんだ、卵を産みたいのか! いいぞ! 勝手に産め!」


「いや……無精卵ではなくて、有精卵が欲しくて」


「卵は産めるんかい!」

 優子は激しく突っ込んだ。



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【固有スキルが書き換わりました】


 氏名 ムンネディカ


 年齢 35歳

 職業 変態魔女

 レベル 88


 体力 104,007

 力  501

 魔力 857

 知力 22

 素早 400

 耐久 400

 器用 60

 運  100

 固有スキル 婚約!→産卵?

 死亡回数 0


 右手装備 こんにゃく指輪

 左手装備 ブーケ

 頭装備 ティアラ

 上半身装備 ウェディングドレス

 下半身装備 ウェディングドレス

 靴装備 白いヒール


 攻撃力 552

 守備力 431


 所持金 2,530

 婚約 ヤドン

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