第35話 魔女ムンネディカ(7)

「おお、勇者様、ついに魔女の手から少年たちを開放してくださったのですね」

 かろうじて残った店の前で老人はつぶやいた。


 帰り道は本当に簡単だった。

 だって、何もないでこぼこクレーターが広がる荒野の向こうに、燃えている街並みがぽつんと見えた。

 その道の真ん中で、老人がプルプルと震えているのがよく見えたのだ。

 いやぁ、よかった、帰り道分かんないから、本当にどうしようかと思っていたんだから。


 ヤドンは、老人の前に少年たちを突き出した。

 少年たちは全員真っ黒、髪はぼさぼさ、中には歯が欠けているものもいた。

 もう、美少年の面影なんて残っていない……


「約束は守ったぜ。だから報酬を寄こせ」

「いいですとも……それではこちらに……」

 老人は、ヤドンたちを自分の店の中へと誘った。


 優子がヤドンの前に躍り出る。

 先に自分が報酬に手を伸ばそうと言わんばかりである。

「では、こちらをどうぞ……」

 老人はテーブルの上をさし示した。

 テーブルの上にはおいしそうな料理が並んでいた。

 優子は怪訝そうに、辺りを見渡す。

「これは何よ? 食べ物ではなくて『ムネもりもり移植術』はどこ?」

 老人がきょとんとしている。

 耳が遠いのか。

 優子が老人の耳元に近づき大声をあげた

「だから、『ムネもりもり移植術』はどこ?」

「そんなに大声を出さんでも聞こえ取るわい! この変態娘!」

「えっ、そうなの、聞こえているなら、早く! 早く!」

「さっきから、この変態娘は何を言っているんじゃ?」

「何って、報酬よ報酬! 美少年を救い出した報酬よ!」

「だから、この料理じゃって言ってるだろうが」


 はぃ?


 この料理が『ムネもりもり移植術』だと言うのか?

 確かに、鶏の胸肉は良質なたんぱく質が取れるという。

 この料理を食すれば、胸が大きくなるというのであろうか。否定はしないが、肯定もできない。


 やはり納得できない優子は怒鳴る。

「この料理が『ムネもりもり移植術』っていうの?」

「さっきから何を言っているんじゃ?わしが言ったのは『ムネもりもり食事!しるだく!』じゃが……」


 何それ?

 ムネもりもりぃしょくじじるだく……

 むねもりもりいしょくじじる……

 ムネもりもり移植術……

 無理があるわい!


 優子はヤドンの肩をそっとたたく。

「確か、経験値以外はヤドンのものだったわね……どうぞ」

 ヤドンは、冷めた目で優子を見つめる。

「それなら遠慮なくいただくか……」

 ヤドンは、あっという間に皿の鳥の胸肉料理全て平らげた。ヤドンの体力が回復した。体力が10回復し体力190→200に戻った。


 店を出ようとするヤドンと優子。

 老人がそっと紙を手渡した。

 その紙はどうも請求書らしい。

 優子は馬鹿にしたように笑う。

「えっ、おごりじゃないの? 意外とケチよね」

 老人は頭を下げる。

「この食事は当然、お代はいただくわけにはまいりません……」

「それなら、何よこの請求書」

 優子は老人から請求書をさっと奪い取ると、内容を確認した。

 請求額一覧

 街をぶっ壊したので下記の金額請求します。

 1.治療費及び弔慰金…………100億円

 2.修繕費及び原状回復費……1,000億円

 3.慰謝料……………………50億円

 合計………………………1,150億円

「なんなのよ! これ! どうして私たちが払わないといけないのよ! 壊したのは変態魔女ムンネディカじゃない!」

 老人は、しずかに優子の後ろを指さした。

 そこには、ヤドンの腕にまとわりつくムンネの姿

「なんであんたがここにいるのよ!」

 ムンネが一枚のコピー用紙を優子に差し出す。

 それはヤドンの名前が記入された婚姻届け。

 いつの間に記入したの……

 優子は、ぷるぷると震えていた。

 老人は優子の肩を叩くとつぶやいた。

「ということで、連帯責任じゃ」

 ヤドンは、ムンネを腕に従えて店からでて行く。

「俺、金持ってないからよろしく!」

「なんで私が払わないといけないのよ!」

「俺たちパーティだろ」

 ヤドンが振り向きざまに微笑んだ。

 白い歯がキラリと光る。

 もう、殺意も覚えない優子は疲れ切った笑いを浮かべていた。

 このクエストで優子が得られた経験値は0。

 レベル1のままである。

 私一体なにがしたかったんだろ。

 うなだれた優子は老人の手に触れた。

『チャリン! お支払い完了しました』


 その後、老人は、無心にオタンコナッシーの復興に残りの余生をかけたという。そのかいあってかオタンコナッシーは、ヤカンドレルの世界において6番目に発展した街へと成長した。老人の墓には、3日は無心に頑張ったが、やはり私欲に走った哀れな男と刻まれていた。私欲に走って町からお金をもって逃げ出そうとした老人は、ユウトたち美少年にボコにされ残りの余生を静かに閉じた。賠償金を巻き上げたユウトは、最年少の町長となり、オタンコナッシーの復興を果たす。後世の人々は口にする。奇跡の復活劇『オタンコの奇跡』と。


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【賠償金ちゃんと払ったよ】

氏名 木間暮優子

年齢 17歳

職業 女子高生

レベル 1


体力 50

力 10

魔力 1

知力 2

素早 5

耐久 5

器用 5

運  7

固有スキル 貧乏性:いらないものなら何でも引き受けます♡

死亡回数 5


右手装備 スマホ(ネット接続付き)

左手装備 スクールバック

頭装備  セーラー服リボン(赤色)

上半身装備 セーラー服(半袖)

下半身装備 紺のミニスカート(校則違反)

靴装備 スニーカー(通学用)


攻撃力 5

守備力 5


所持金 874,612,712,639

パーティ ヤドン

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