第2話

(場面:屋上/昼休み)

その日も僕は屋上にいた。

…学校の授業にも流行りの音楽なんかにも興味のない僕だけど。

この青空を見ていると、なぜか落ち着く。

梨加「あっいた!孝治くんだ~!」

そこにまたも現れたのは、水野梨加。

…で、合ってるのか?名簿には名前なかったけれど。

孝治「…ああ。」

梨加「ちょっと孝治くん、リアクション薄くない?」

孝治「…そうかな。」

梨加「絶対そうだよ~!」

梨加「ほら、もっと元気出して!」

孝治「うん。」

梨加「やっぱり元気ない~!」

…水野梨加のテンションは、出会って2日目とは思えない。

多分人との距離感の詰め方がうまいのだろう。

僕とは違う種類の人間だ。

孝治「……」

梨加「ちょっと~、何か考えごとしてる?」

孝治「…いや別に…。」

梨加「じゃあ黙り込まないで、何か話して!」

孝治「えっと…。」

…僕は完全に水野梨加のペースに呑まれる。

孝治「…じゃあ、君は…、誰なの?」

…元々聞く予定はなかったが、

僕は話に困りそう質問する。

梨加「あたしは水野梨加。前にも言ったじゃん。」

孝治「…本当に?」

梨加「ってかこの空って広いよね~!」

孝治「…え、あ、うん。」

梨加「そんな広い空に比べたら、そんなことちっぽけじゃない?」

孝治「…そう、かな?」

梨加「そうだよ!」

梨加「ここにいるのは、水野梨加。そして、孝治くん。」

梨加「それだけで良くない?」

孝治「…それもそうだね。」

…水野梨加に言われると、何かそんな気もしてしまう。

梨加「ところでさ~孝治くんは趣味とかあるの?」

孝治「趣味は…、ないよ。」

梨加「えっそうなの?寂しい~!」

孝治「…水野さんはあるの?」

梨加「あっ、あたしのこと『梨加』って呼んでいいよ!」

梨加「そっちの方が嬉しい。」

孝治「…えっ、じゃ、じゃあ梨加は…?」

梨加「あんまり慣れてないんだね~。」

梨加「女の子を下の名前で呼ぶの!」

孝治「…うん…。」

梨加「そういうとこちょっとかわいい~!」

…水野梨加にそう言われ僕は少し恥ずかしくなる。

…と言うか、僕は男子ですら下の名前では呼ばない。

そんなに親しい人、僕には存在しない。

梨加「話戻すね。」

梨加「あたしはショッピングが好き!」

梨加「もちろんウィンドウショッピングも含めてです!」

梨加「あとタピオカに最近ハマってるかな。」

孝治「…女子高生だね。」

梨加「何よその感想~!」

梨加「まあ否定はしないけど、ね!」

孝治「…何か面白いな。」

梨加「そう?」

…僕はそこで少しだけ笑う。

どうしたんだ、僕。

今まで、笑ったことなんかなかったのに。

何に対しても、無関心だったのに。

梨加「ってか孝治くんはファッションには興味ないよね?」

孝治「…うん。まあ…。」

梨加「それはダメだぞ~!」

梨加「今度あたしが孝治くんの私服選んであげよっか!」

孝治「…えっ!?」

梨加「あっ、もちろんお金は孝治くんが払うんだよ!」

孝治「いやそういうことじゃなくて…。」

梨加「そうと決まれば話は早い!」

梨加「今度の日曜日、駅前の時計台に集合!」

梨加「時間厳守でお願いします!」

孝治「…いいの?僕なんかと一緒に遊んで。」

梨加「あたし、おしゃれに気を遣わない人見ると、」

梨加「ほっとけないんだよね~!」

梨加「だから孝治くんもおしゃれになってね!」

孝治「…分かりました…。」

梨加「何で敬語?まあいいや。」

梨加「じゃあ、楽しみにしてるね!」

孝治「…ありがとう。」

…僕の口から出てきたのは、感謝の言葉。

今まで、「ありがとう」を口にしたことがあっただろうか?

何にも感謝しない、

何にも興味のない僕なのに。


(場面:教室/放課後)

クラスメイト1「おい平手、俺らこれからカラオケ行くんだけど。」

孝治「…そうなんだ。」

クラスメイト1「金あるよな!」

今日はいつにも増してストレートだ。

孝治「悪いけど僕帰るよ!」

そう言って僕は逃げる。

クラスメイト1「おっ、おい平手!」

僕は全てを無視して走り出す。

こんなにはっきり声を出したの何年ぶりだろう?

いや、生まれて初めてかもしれない。

それも、水野梨加の影響かもしれない。


(場面:公園/夜)

???「水野梨加さん、今の所うまくいっているようですね。」

梨加「はい、『天使さん。』」

天使「それにしてもこのキャンペーン、」

天使「あなたにとってはまさに、『渡りに船』ですね。」

梨加「あたしもそう思います。」

天使「近頃人界では無気力・無関心な子どもが増えていてね。」

天使「我々としてもそれを変えたいのですよ。」

天使「だから、『事故死したあなたを人界に復帰』させたんです。」

梨加「ありがとうございます。」

そう、水野梨加は一度死んでいた。

そして、そこから復帰した。

それは、「周りの水野梨加に対する記憶が消えている」という条件で。

梨加「それで…、天使さん、約束は覚えていますでしょうか?」

天使「はい、もちろんですとも。」

天使「平手孝治君があなたに興味を持てば、」

天使「あなたのことを好きになれば、」

天使「無気力な子どもが一人でも減れば、」

天使「人界にとって良いことです。」

天使「だからそうなればあなたの人界への完全復帰を認めましょう。」

梨加「ありがとうございます!」

梨加「あたし、頑張ります!」

そして水野梨加は思う。

梨加「あたしがこの世に復帰すれば…。」

梨加「もう一度大好きな『優先輩に逢える。』」

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