abnormal~アブノーマル~

水谷一志

第1話

(場面:自宅の部屋/夜)

僕は、何のために生きているのだろう。

これといった趣味もなく、楽しいこともない。

ただ、学校に行って帰って、を繰り返すだけ。

ああ、何て虚しいんだろう。

そう、僕は普通じゃない。アブノーマルな人間だ。


(場面:教室/昼休み)

クラスメイト1「おい平手、パン買ってこいよ!」

孝治「……」

クラスメイト1「おーい聞いてますか~、平手孝治くん~!」

孝治「……」

それはいつも通りの昼休み。僕はクラスメイトを無視していた。

クラスメイト1「こいつ聴力検査引っかかるんじゃね?」

クラスメイト1「何も聴こえてねえよ?」

クラスメイト2「だよな~!」

さすがにこれはうるさいので、僕はここで声を出す。

孝治「…ちゃんと耳はついてるし、聞こえてるよ。」

クラスメイト1「おっ平手がついにしゃべった!」

クラスメイト1「なら話は早いな!パンおごれ!」

孝治「…何で?」

クラスメイト1「それはな~、日頃の感謝を込めて、だよな?」

クラスメイト2「その通り!あ、俺の分も頼むぜ!」

孝治「…僕は君たちには何の感謝もしてないよ。」

クラスメイト2「てめえ口ごたえすんのかよ!」

クラスメイト1「まあまあ落ち着けって。」

クラスメイト1「よく考えてみなよ~平手くん?」

クラスメイト1「君は今クラスの中心にいて、話題の中心だ。」

クラスメイト1「でも俺たちが話しかけなかったら、」

「君は端っこで誰からも相手されないよ?」

クラスメイト1「ということは、君は俺たちに感謝すべきなんじゃないのかなあ?」

…僕はこれ以上わけの分からない理屈に付き合うつもりはない。

そう思い僕が教室から出ようとすると、

クラスメイト1「おいおいダンマリかあ~!?」

クラスメイト両方がキレだした。

孝治「言っておくけど、」

  「僕は誰からも相手されなくて結構。」

  「じゃあ失礼するよ。」

クラスメイト1「おい待てこの存在感なし人間!」

クラスメイト2「お前なんていてもいなくても変わんねえんだよ!」

クラスメイト1「せめてパンぐらい買ってクラスに貢献しろ!」

孝治「……」

クラスメイト1「やっぱり無視かよ!」

僕は少し小走り気味になり、屋上へと向かう。


(場面:屋上/昼休み)

ここは、学校の中で僕が唯一落ち着ける場所。

…と言うか僕が唯一関心を向けられる場所だ。

晴れた日の屋上は、風も心地よい。

あと、ここは学校の中で一番空が近い。

この空の向こうに僕は行ってみたい、僕は時々そう思う。

しかし…、僕はそれ以外、本当に何も、なんにも関心がない。


女の子「ああ~気持ちいい~!」

孝治「……!?」

女の子「あっ、はじめまして、かな?」

孝治「……」

女の子「ちょっと無視~!?」

そこで急に声をかけられた。

孝治「……」

女の子「ちょっと真剣に無視するの?」

女の子「寂しいなあ~!」

孝治「…僕は別に寂しくないよ。」

女の子「あっ、やっとしゃべったね!」

女の子「あたしの名前は水野梨加!あなたは?」

孝治「…別に。」

梨加「あっ、『別に』くんかな?面白い名前~!」

孝治「…そんなわけないでしょ。」

梨加「じゃああたし、これからずっと『別にくん』って呼ぼうかな~?」

孝治「どうぞご自由に。あと『これから』はないと思うよ。」

梨加「ちょっと冷たいなあ~別にくん?」

孝治「……」

梨加「ようし!今から下に降りて、言いふらしちゃお!」

梨加「『あたし、別にくんと付き合ってます!』ってね!」

孝治「…はい?」

梨加「おっ、あたしに興味持ったね!」

孝治「別に興味は持ってないよ。」

梨加「でも『別にくん』でみんなに伝わるかなあ?」

…おそらく伝わる、だろう。

僕の存在は、少なくともクラスでは悪い意味で有名だ。

梨加「ってか本当に言いふらすよ~!名前教えてくれないとね。」

孝治「…分かったよ。僕は平手孝治。2年3組。」

梨加「おっ、クラスまで教えてくれたね。」

梨加「あたしはちなみに7組なのです!」

孝治「…そう。じゃあもう話すことはないね。」

孝治「僕はもう降りるから。」

梨加「待って!」

梨加「孝治くん、好きな色は何?」

孝治「…はい?」

梨加「いいから答えて!」

孝治「…この空のような、青かな。」

僕は水野梨加のペースに呑まれていたのだろうか?

ついついそう答えてしまう。

普段聞かれたこともまともに答えない僕なのに。

梨加「偶然~!あたしも青好きなんだ~!」

孝治「…ああそう。」

梨加「ねえ孝治くん?これからも君に話しかけていい?」

梨加「あたしまたここに来ると思うから!」

孝治「…いいよ。じゃあ僕本当に行くから。」

梨加「やったあ~ありがとう!」

…やっぱり僕はどうかしてる。

何事にも無関心な僕なのに。

その後僕は教室に向かう。


(場面:自宅/夜)

僕は自分の部屋で、おもむろに生徒の名簿を見る。

…今日のできごとにはびっくりしたな。

でも、僕は何事にも無関心なはずなのに。

なぜ、名簿を開いているのだろう?

なぜ、こんなに気になるのだろう?

…確か、あの子は水野梨加。7組…。

…しかし、そこに彼女の名前はない。

年のため1年7組と3年7組も見たが、やはり彼女の名前はない。

…水野梨加。

…君は、誰なんだ?

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