第6話 忘れてしまうぐらいには。

 2日後。


 学校へ徒歩とほでトホトホしている。


 家から学校に行くまで暇だ。


 だから、家から学校まで電柱が何本あるかカウントしていた。


 意味は無い。


 だが、


「俺の人生において無意味な事なんて何一つ無い。俺が意味ある事にしてみせる」


 俺は周りの景色が目に入らないほど、集中して電柱を数えていた。


「ここの電柱、新しい電柱に変わったんだな」


 トラックが衝突した電柱は新しくなっていた。


「よっ!」


「グハアアアア!」


 バシンッ!


 背中を平手で強打される。


「誰だ?」


 バッと振り返ると、木夏がいた。


「おはよ」


「おう」


 軽くあいさつする。


「それじゃ」


「ちょっと! 一緒に行こうよ!」


「はあ!? 何で!?」


「はあ!? って何よ! はあ!? って!」


「いやいやいや! だって、木夏、男と一緒に登校してたら、変な目で見られるぞ」


「付き合ってるとか?」


「・・・まあ、そうだ」


「あははは! 春崎君、意識し過ぎ!」


 木夏が俺の背中をバシバシ叩いてくる。


「ここで、春崎君が来るのを待ってたんだよ。一緒に行こう」


「待ってたの!?」


「想像したのよ。一日しか登校してない私が、一人で教室に入って、誰からも話しかけらえず、授業まで黙って下を向いているのを」


「ふむ」


「でも、春崎君と一緒に登校すれば、教室に入っても、話し相手に困らないでしょ?」


「なるほど」


 木夏の不安は杞憂きゆうだ。


 教室に入ると、誰かが木夏に話しかけてくれる。


 一緒に登校するなんて、今日だけだろう。


 そう、一日だけだ。


 俺はため息をついた。


「いいよ。行こうか」


「やった! ねえねえ! この辺の地理ってまだ詳しくないんだけど、近くに可愛い女の子の服が売ってる店って知らない!?」


「知らない! 俺が知ってたらおかしいだろ!」


「あははは!」


 木夏は後ろで手を組んで笑う。


 結局、俺と木夏は一緒に登校した。


 木夏と他愛のない会話をする。


 楽しかった。


 電柱をかぞえるのを忘れてしまうぐらいには。

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