第4話 うれし涙。

 右目の痛みがおさまる。


「俺の右目がうずく、が口癖になるところだった」


「左目が良かった?」


 木夏が教科書を持ちあげる。


「俺から光をうばおうとするのやめて!」


 俺はカバンをあさった。


「ケース以外に、渡す物がもう一つある」


 クシャクシャに丸めたノートを木夏に渡す。


「また幼稚なこと書いてるの?」


「ビー玉だ」


「・・・ッ!?」


「おいおい!」


 木夏がノートを開くと、瑠璃色ガラス色に輝く半分に割れたビー玉があった。


「え?」


 俺は驚いて固まる。









 木夏は半分に割れたビー玉を両手で大切に持ち、


 涙を流した。


「あった」








 俺は、嬉しくて泣く人を、始めて見た。


「大切な物なのか?」


「うん!」


「そうか」


「幼稚園の頃の男の子との大切な思い出なの」


「へー」


「このビー玉の片割れを持つ男の子と約束してるんだ」


「ほお」


「結婚しようって」



















「・・・・・・なるへそ」













 突然、地面が消えて、浮いているような感じ。


 現実にいるのに、現実が遠くなっている感じ。







 俺、ショック受けすぎじゃね?








「ありがとうねッ!!!」


 とりあえず、この笑顔を守る為、強がることにしよう。


「ビー玉1個でそんなに喜ぶなら、明日同じビー玉1000個やるよ」


「いらないって!」


 あはは!と笑う木夏。


「用はたしたし帰る」


「うん。また明日ね」


「おう」


 木夏が笑顔で手を振ってくれる。


 俺は病室を出た。

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