第11話 ビー玉の割れる音がした。

 暗くなった夜道。


 折れ曲がった電柱がある。


 街灯がいとうの明かりの下に、人が倒れていた。


 制服姿の女の子だ。


「木夏ッ!!!」


 俺は木夏を抱き起す。


「・・・ッ!!!」


 木夏は気を失い、体は風邪を引いたように高温で、額から汗をかき、苦しそうにあらい呼吸をしていた。


「飲めるかッ!?」


 ペットボトル飲料のポカリスエットを木夏にゆっくり飲ませた。


 喉がコクコクと動く。


 木夏はおぼろげながら気を取り戻し、焦点しょうてんの合わぬ目で俺を見る。


「救急車を呼ぶから!」


 スマホを素早く操作し119番を押す。


「女の子が倒れているんですッ!!!」


 木夏の症状や場所を詳しく伝える。


『すぐに向かいます!』


 電話を切った。


「木夏、苦しいけど、あと少しの辛抱だ!」


 木夏をお姫様抱っこし、近くのベンチに寝かせる。


「はあ、はあ、はあ、はあ」


 木夏の呼吸はあらい。


 俺は木夏のおでこに手を触れる。


「熱ッ!!!?」


 すぐに手を引っ込めた。


 指先がジンジンする。


「すごい熱だ」


 俺はポカリスエットを木夏にちびちび飲ませた。


 ピーポーピーポー。


 ポカリスエットが無くなる前に救急車が来る。


「患者はどこですか!?」


「ここです!」


 救急隊員に担架たんかへ乗せられる木夏。


 その時、














 ビー玉の割れる音がした。














「・・・・・・あ」




 意識が朦朧もうろうとしていても、木夏は地面に落ちた割れたビー玉を拾おうと、担架から手を伸ばす。


 俺は割れたビー玉を拾う。


 木夏に渡そうとしたが、救急車のドアが閉まった。


 木夏を乗せた救急車は走り出し、その姿はやがて、見えなくなる。







 俺は立っていた。







 その手には、木夏が落とした、半分に割れたビー玉が握られている。

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