第二章 70億分の運命の出会い。

第1話 全力疾走の早朝。

 曲がり角で、女の子と激突する。


 カバンの中身が、ゴミ箱をひっくり返したように散乱さんらんした。


 二人して尻餅をつく。


「どこ見て走ってんのよ!」


「前」


「謝りなさいよ!」


「ごめん」


 カバンの中身を片付けていく。


「ヤバい! 遅刻しちゃうわ!」


「大変だな」


「アンタのせいでしょ!」


「すまん」


 カバンの中身を拾い集めた。


「俺は修一しゅういち


「なんでのんびり自己紹介なんてしてるのよ!」


 女の子はバッと立ち上がり、走り出した。


「俺も急いでるんだった!」


 俺も走る。


「アタシに付いて来ないで!」


「俺もこの道なんだ」


「まさかラブリー県立高校なの!?」


「ああ」


「お願い、道案内して!」


「分かった。そこの曲がり角を右に」


「オッケー!」


 曲がり角を曲がる。




「キャアアアアアアアアアアアア!!!」




 突然、急ブレーキをかけたトラックが迫って来た。




「危ない!」




 ドガーンッ!!!




 電柱に衝突したトラックが煙を出す。




 俺は女の子を倒すように抱きしめていた。




「まさかトラックが突然走ってくるなんて・・・無事か?」


「・・・」


「おい」


「もう無理よ! 学校に間に合わないわ!」


 パシ!


 女の子が俺を殴る。


「え?」


「あと5分なのに! ここからだと20分はかかるわ!」


 女の子が地面で泣き崩れた。


 俺はカバンを拾う。


 そして、女の子の前にカバンを出した。





あきらめるな」




「え?」


5分じゃない。5分ある」


 女の子の手を引き、立たせる。


 そして、その手にカバンを握らせた。




「可能性があるなら諦めるな。最後の瞬間まで足搔あがけ」




 女の子を目を見る。




「俺を信じろ!」




 女の子はため息をつく。


「あーもう、しかたないわね! 遅刻したらアンタのせいよ!」


「来い!」


 二人は走りだした。






 学校に着く。


 靴箱は無人だ。


 二人は早足で廊下を歩く。


 俺は女の子の後方を歩いた。


「やっぱり遅刻したじゃない!」


「・・・ああ」


「信じたアタシがバカだったわ!」


「・・・いや」


「もう二度とアンタの顔なんて見たくないわよ!」


「・・・」


 ピタッ。


 突然、女の子が止まる。


「・・・え?」




「・・・でも、なんて言うか、その、まあ」




 女の子は振り返る。








「・・・ありがとうね」









 照れたように目を逸らし、小さな声でお礼を言う。







「じゃあねッ!」


 女の子はすごい早足で歩いていく。






「・・・」


 俺はその場に立ったまま、動けないでいた。


 心臓がドキドキとうるさい。





「・・・ヤベ」





 うるさい奴ならうるさい奴でいいじゃないか。




「・・・もうホント、わけわかんねえ」




 俺は頭をガリガリかいて、早足で歩くその後ろ姿を見たのだった。

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