迷信を信じないなんて呪われるよ!!

ちびまるフォイ

なにを信じるかの根本

「はぁ、今日も仕事するかぁ……」


今日も今日とて代わり映えしない事務作業。

決められたデータをミスなく表へ入力するだけ。

工場のラインでお刺身にたんぽぽ乗せる仕事と同じじゃないか。


頭で愚痴を吐きながら入力用の表があるファイルを押した。


『迷信表.mes』


画面全体に表示された表には知らないファイル名が書かれていた。


「やべっ、ちがうファイル開いちゃっ……んん?」


すぐに閉じようとした手が止まる。

ファイルには表にいくつかのものがすでに書き込まれていた。


・13という数字は不吉

・うさぎの足を持っていると幸運

・666は悪魔の数字で不吉


などなど。


「ははぁ、誰かが世界古今東西の迷信を書き溜めてたんだな」


いたずら心がふいに湧いてきた。

この中にふざけた迷信を紛れ込ませたら、表を作った人は気づくだろうか。


・午後4時にトイレへ行くと親が死ぬ


なんとも馬鹿らしいものを書き込んだ。

数秒後、血相をかえてズボンを下ろしたままの同僚が走り込んできた。


「ああああ! やっちまったぁぁあ!!」


「え!? ええ!? なになに!? 怖い!!」


「午後4時にトイレ行っちまったぁぁぁ……!

 どうしても我慢できなかったんだよぉぉぉ!!」


パンツ姿の同僚は泣き崩れて実家に電話していた。

午後4時にトイレへ行ってしまったことを話して謝り倒していた。



自分が入力したのを知っている人は誰もいない。

いたとしても、トイレにいた同僚に伝えて信じ込ませることなどできない。


「この迷信表ってまさか……本当に信じさせられるのか!?」


その日、オフィスに誰もいないのを確認してから迷信表を開いた。


・髪の長い男は金持ち

・中肉中背は幸運の象徴

・薬指の爪だけが長い人は優しい

・おへそ近くにほくろがある人は神


「いいぞいいぞ! どんどん書き込んでやる!」


自分に該当するような迷信をパズルのように積み上げていく。

ファイルを保存して閉じてから世界は劇的に変わった。


「見て! 中肉中背の鼻の穴がでかい男性よ!!」

「きゃーー神の化身!!」


「おいおい、こまっちゃうなぁ子猫ちゃんたち」


自分への態度の変わりようには自分でも驚いてしまった。

それらが俺自身の魅力ではなく、迷信による洗脳に近いものだとしても悪い気はしない。


「眉毛がつながっている男性と手を繋ぐと宝くじが当たるのよ!」


「はっはっは。僕の手はふたつしかないんだから奪い合っちゃいけない」


「すね毛の濃い男の人に抱きつくと、幸せになれるのよ!」


「そんなに押さないでおくれよ。むふ、むふふふ」


なんという役得。

迷信の効果範囲は自分の近辺とどまらず町の外へも広がった。


コンビニへ行けば店員に握手を求められ、町へ行けばちやほやされまくる。


「みなさん、迷信を信じましょう! 信じるものこそ救われる!!」


「「 イエス! 神様!! 」」


いくつもの信者を引っさげて大名行列をしていると、

『迷信反対』というタスキをさげた眼鏡の人たちが立ちふさがった。


「なんだ君たちは?」


「なにが迷信だ、このインチキ洗脳カルト宗教めっ!

 そんなものを信じるのはバカだけだ!」


「んなっ……!」


「だいたい、鼻の穴がでかい人は宝くじが当たるなんて

 どんな科学的根拠があるんだよ。ただの迷信じゃないか!」


「なにをーー! 迷信をバカにするなんて許さん!」


「だったら因果関係を証明してみろよ!

 なにも根拠のないインチキを信用させるなんて卑怯だ!」


「こンの……いまにみてろーー!!」


迷信に科学的根拠なんてあるわけない。あったら迷信じゃない。

しかし迷信をバカにされたのは許せない。


「見てろよガリ勉メガネどもめ。迷信の恐ろしさ思い知らせてやる」


・科学を信じる人は呪われる

・メガネをかけると失明する

・コーラを飲んだら骨が溶ける


などなど。

自分に敵対する集団全体に根も葉もない迷信を表に追加しまくった。


「ふふふ。奴らが地べたに這いつくばって許しをこう姿が目に浮かぶぜ」


迷信の浸透を待ってからふたたび科学集団の地下組織へ殴り込みへいった。


「やあ社会不適合者の陰キャメガネども!!

 底辺生活を味わっているかい!?」


迷信を信じた人間により虐げられて魔女裁判のごとく火にあぶられているかと思ったが、むしろその逆だった。


「あ……あれ?」


今まで自分のうしろについていた仲間たちが軒並み科学者たちの寝返っていた。


「なによあんた! 出ていきなさいよ!」

「そうよ! なんの根拠もないくせに!」

「証明できない迷信なんて、ただの洗脳じゃない!」


「なんで俺の迷信が届いていないんだ!?

 科学なんて信じたら呪われるんだぞ!!」


「そんなわけない! 科学こそ正しいんだから!」


勝ち誇るために来たのに立場は真逆で石を投げられて追い出された。

しょせん迷信の力は科学の力の前に勝てるわけがなかった。


迷信を広めていた自分は危険人物として扱われ、

顔を隠さないともう外に出れなくなった。


ひとたび外に出れば。


「あーー! 科学的根拠をもたないうそつきだーー!」

「やっつけろーー!」


「ひいい!!」


子どもたちにも石を投げられてしまう。

迷信に誰よりも踊らされていたのは自分だった。


「もう迷信なんか捨てよう……。

 これからは確かなものだけを信じていこう……」


俺は自分のこれまでを悔やみ、反省し、迷信表の削除を決めた。

内容を削除するために迷信表を開いたとき。

書いた覚えのない内容が誰かによって追加されていた。


・科学は常に正しい。


さらにいくつもの迷信が書き込まれている。

そしてそれらはーー。


『納豆を食べるだけで体内の脂肪が溶けてなくなります!』

『新型ウイルスにはマイナスイオンの水素水が効果的!』

『ハチミツオリーブが科学的免疫力をアップさせる!!』


ちょうど今、科学集団達が触れ回っている内容そのものだった。

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