14.今後の方針
応接間に戻ると、僕らは今後の相談を始めた。
まず、梶原が提案する。
「さっきも言いかけたけど、とりあえずその仮面を付けて、館中を一度確認した方がいいと思う。他にも何かメッセージなりがあるんじゃないか?」
僕は頷いた。
「もちろんそうすべきだと思う。ただ、ひとつ問題がある」
「なんだ?」
僕は、胸ポケットから眼鏡を取り出して、かけ直した。
「これだよ。眼鏡を掛けたまま仮面を付けるわけにはいかないし、裸眼で仮面を掛けると見えにくい。
さっきの文字も、僕が近視かつ乱視じゃなかったら、もっと遠くからでも読めたはずなんだ。だから……」
「わかった。仮面は俺がつけるよ」
「いや、本人が嫌がらなければだが、長家さんがつけた方がいいと思う」
「なぜ?」
「さっきのでわかったろ? 仮面越しに見えるメッセージはスペイン語で書かれていたっぽいじゃないか。僕らには読めない」
「なるほど。じゃあ、一応掛け合ってみよう。もちろん嫌がるようだったら……」
「ああ、無理強いはしないさ」
僕はそう言ったが、たぶん長家は何の躊躇もなく仮面を付けるだろうとも思っていた。
だいたいの話が決まったところで、長家も応接間に戻ってきた。
長家は入ってくるなり、言った。
「まだあのメモの内容が完全に解明されたわけじゃないけど、わかったことはいくつかあったよ」
そう言いながら、長家はスマホの画面を見せた。
僕が書斎の床から掻き集めた、例のメモを撮った画像が表示されている。数字がびっしり書かれているやつだ。
「暗号の専門家にこれらのメモを見せて意見を求めたんだけど、これは暗号ではなく、数秘術の一種なんだってさ。ゲマトリアを用いて、六芒星数について計算しているらしい。
数秘術とかゲマトリアとかの説明は必要?」
僕と梶原は首を横に振った。
ただ、梶原は付け加えた。
「基本的なことはわかるけど、めちゃくちゃ詳しいわけじゃないから、突っ込んだ問題になったら補足してくれ」
数秘術は、文字を数字に置き換えて、数字に何らかの意味を付加しようとする試みの一種で、占いや、聖書の解読でよく使われる。666が悪魔の数字とか言われたりするのがこれ。
ゲマトリアはヘブライ文字による数字の表記法で、ゲマトリアを用いた数秘術は聖書解読の定番である。要するにオカルトの極みと言える。
こういうオカルト的な話は、考古学研究ではよく出てくる。自分自身はそうそうものを信じていなくても、当時の人々の考えを知るには、こうした知識が必要になる。
「大丈夫。専門的な話は必要ないから。
細かいことは省くとして、このメモで何を計算しているかというと、六芒星のそれぞれの頂点に対応させる数字を決めようとしているんだってさ。
6つの数字を合計するだかなんだかしたときに、888になる数字の組み合わせを作りたがっているとか。
888というのはイエス・キリストを指す数字だとされるけど、復活を意味する数字でもあって、おそらくこの筆者は重い病気か何かで、数秘術を用いて永遠の命か何かを求めようとしたんじゃないか、とのこと」
「しかし、そうだとしたら、この館にもっとオカルティックな雰囲気があるべきじゃないかと思うんだけどな」
梶原が納得のいかない表情で言った。
「それは私も思うけど、その点は鹿の仮面が教えてくれるかもね」
長家は、僕の手にある鹿の仮面を見た。
「あ、そうそう。この仮面なんだけど……」
僕が言いかけると、長家は手を差し出していった。
「私が付けろってことでしょ。いいよ」
「いいの?」
僕は、仮面を差し出しながらも、念のため訊いた。
長家はそれを受け取って、表、裏とひっくり返して眺めながら、言った。
「まあ、私が付けるのが一番手っ取り早そうだしね。ただ、吸血鬼になりそうだったらさっさと退治してね」
吸血鬼のくだりはもちろん冗談だろうが、あまりに普通に言ったので、本気なんじゃないかと心配になってしまいそうになる。
仮面を調べ終えると、長家は仮面を付け、辺りを見回した。
しばらくそうやってきょろきょろしていたが、やがて、仮面を外して、言った。
「ここには何も無いね。やっぱり書斎が一番怪しいと思うから、とりあえず、それを片付けたら行ってみようか」
長家が目線で指したのは、僕の食べかけの弁当だった。
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