13.仮面

「……どうだ?」


 梶原が問う。


 ……しかし、なんとも答えようがなかった。


 僕は仮面を付けたまま、食堂の中をゆっくりと歩き、周囲を見回してみる。

 黙っていて二人を心配させるのもなんなので、とにかく喋ってみる。


「まず、今のところ何かに取り憑かれたりした感じはないし、仮面が外れなくなったということもない。呪い的な症状はないよ。

 ただ、特に何もない。レンズ越しの風景は少し拡大されて、若干歪んで見えるけど、それだけだ」


 だが、ふと、暖炉の上の、この仮面が掛かっていた場所を見上げたとき、変化があった。


「おっ」


「どうした?」


「そこの、この仮面が掛かっていたところ」


 僕が指さすと、二人ともそちらを見る。


「そこに、レンズ越しだと何か見える。白い線で仮面のあたりを囲っている」


「ほう。それで? 他には何か見えるか?」


「えーと……」


 僕はもっと近づいてみた。すると、白線の囲いの中に、何か文字が見えた。


「何か書かれているよ。えー、V、I、E、J、O……ここでスペースが開いていて……C、I……」


 そこまで聞いて、長家が言った。


「Viejo Ciervo。老いた鹿って意味」


 梶原は、興奮気味に言った。


「ちょっ、ちょっと待てよ。じゃあ、その仮面を使って館内を見て回ったら……」


 その時、やけに古めかしい、ベルの呼び出し音が食堂に響き渡った。

 玄関のベルとかではない。もそもそこういう館の表に呼び出しベルがあるものなのか、知らないが。

 そういうものではなく、スマホの呼び出し音のようだった。


「あっ、例の専門家からだよ」


 長家はそう言ってスマホを取り出し、通話を始める。その時には、すでに手にあったおにぎりは平らげていて、ペットボトルはテーブルに置いてあった。

 さすがにあっちに住んでいるだけあって、流暢な英語で話している。

 それを見て、梶原は小声で言った。


「隣に行こう」


 僕は頷いた。そして、二人でそっと応接間に戻った。

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