07.書斎の調査 その3

 やがて長家は、ぱたん、と本を閉じた。


「まあ、本当に教授の消息の手掛かりが出るかはわからないけど、せっかく来たんだから調査をはじめようよ。

 手順はどうするの?」


「うん。俺は今のところ、3つの方面から調査できると考えている。


 ひとつはこの館の歴史的事実を紐解くこと。これはラザロゼミのゼミ生に図書館などで調べてもらっている。

 次に、この館の構造や地質の調査。正直あまり期待していないけど、地面に何か埋まっているとか、隠し部屋があるとか、そういうものを探す。

 最後に、この書斎の調査。本やメモ片を調べて情報を見つける。


 ああ、あと、ラザロ教授の研究室での手掛かり探しも、ゼミ生を中心にやってもらっているよ。まだ成果はあがっていないけどね。

 何か意見はある?」


 梶原は僕と長家を交互に見る。二人とも何も言わないのを確認すると、頷いて、扉の方へと向かう。


「じゃあ、まずは二人で書斎を調べ始めてもらえないかな。

 俺はゼミ生の様子を見てこなきゃならないんだ。できるだけすぐ帰るよ」


 長家と僕はうなずき、それから、代表で僕が言った。


「わかった。とにかく、やってみないことにはわからんからね」


「ありがとう。じゃあ、俺は行くよ。また後で」


 そう言うと、梶原は書斎から出て行った。



 残された僕と長家は、しかし、すぐには作業を始めずに、二人して息を殺してその場で突っ立っていた。


 しばらくすると、階段のきしみ音が規則正しく聞こえてくる。


 長家が、感心したように頷きながら言った。


「なるほど。確かにけっこう、音がするね」


「それに、さっきの話だと、仮にこっそり外に出たとしても、行く場所がないってことだったからなあ。

 しかし、だとすると、教授はここで蒸発したことになる。そんなことってあるのかな?」


「さあね。ところで、道村君はどう思う?」


 長家はイタズラっぽい笑みを浮かべる。


「何が?」


「梶原君が、どうやって教授を殺して埋めたか」


 僕は真顔で言った。


「あいつが犯人だったら、話は簡単なんだよな。その可能性は否定できないよ」


 長家も、真面目な表情に戻って言った。


「まあね。ただ、その点にはついては警察がすでにさんざん調べたでしょうし、それで何も出てこなかったってことでしょ?

 だとしたら、仮にアイツが犯人だとしても、私らがその尻尾を捕まえられるとは思わないかな」


「犯罪捜査は専門外だしねえ。でも、どうだろ。遺物から歴史を紐解くのは犯罪捜査に似てる気もする」


「まあ、骨を掘り返すのは得意だから、本当に教授が埋められているなら、そのうち見つけられるかもね」


 それから、気分を変えようとしたのか、ひとつ咳払いをし、いつもより少し明るめの声で言った。


「ところで、道村君はまだこの館をひととおり見てないんじゃなかった?」


「ああ、来たばかりだからね」


「じゃあ、仕事にかかる前に、ざっと案内するよ。館のことを調べるなら、まずはここの概略を把握しておくべきでしょ」


 言われてみたらその通りなので、僕はお願いすることにした。


 ――いや。実際のところは単に、この書斎にいたくなかっただけかもしれない。

 どうもここには居心地の悪さを感じる。

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