18.裏庭の調査

 僕らはキッチンの勝手口から、裏庭へとやってきた。


 先ほど来たときより日は高いところにあったが、それでも庭には涼しい風が吹き抜けていて過ごしやすかった。大学通りの灼熱地獄とは天地の差である。

 アダムス氏とやらがここに家を建てたのも、実はこんなところが理由なのかもしれない、などと、僕はふと思った。


 梶原が裏庭を見渡しながら言った。


「さて、裏庭にやってきたものの……どうする?」


 その意味はわかる。この庭には無造作に置かれた岩が6つある。このうち、どれが正解なのか、ということだろう。

 その質問に、長家が答えた。


「そりゃもちろん、鹿の翁に聞くべきじゃないの? あ、こいつ悪魔なんだっけ? 山羊ならわかるけど、鹿の悪魔ってのもどうなんだか」


 長家はなにやらぶつぶつ言いながら、仮面を付けた。それから当たりを見回す。


「あー、ここからじゃわからん。とりあえずいっこずつ近づいて確認しよう」


 そう言って、仮面を付けたまま庭を歩き出した。僕らも付いていく。


 1つ目、2つ目は空振りだった。

 3つ目は木の下にあるやつで、見た目からすると本命っぽかったが、これもダメ。

 長家の反応があったのは4つ目だった。


「ああ、これだ」


 それは平べったくて大きい岩で、3人がかりでもとても動かせそうにない岩だった。これの裏に何かあるということなら、どうにもならない。


「矢印が書いてあって、21とある。この場合の21ってのは何かな。メートルじゃないだろうけど」


 長家は、僕らには見えない矢印が指している方角なのだろう、北北西に腕を伸ばしながら言った。


「こういう場合は、だいたい歩数なんじゃないの?」


 梶原が言う。

 僕は長家に尋ねた。


「旧約聖書の時代には、どういう単位を使ってたの?」


「えーと、まあ、調べた方が早いか」


 長家は仮面を付けたまま、スマホを取り出して調べる。


「キュビットだってさ。1キュビット0.444メートル。てことは、21かける0.4で……9メートルってとこ?」


 それを聞いて、梶原は芝居がかった調子で言う。


「しかし残念なことに、我々にはいま、メートルで正確に測量する方法がないのだよ。

 結局、歩幅で行くしかないと思わないかい? どうせ1キュビットって、だいたい1歩に近いしさ」


 その態度は気に入らないが、言っていることには一理あった。

 結局、長家が矢印の方角に向かって、少し飛び跳ねるような形で21歩進んでみることになった。


 21歩目で長家が立ち止まったのは、荒れ果てた芝生のど真ん中だった。

 特に何の変哲もないが、誤差のことも考えて、その周辺を三人で調べてみる。

 長家は言わずもがな、仮面を付けたまま探した。仮面越しでないとわからないものもありそうだからである。


 僕はその周囲の枯れた芝生を、靴の裏で擦りながら探した。

 たいがいはそうしたところで何の変化もなかったが、あるとき唐突に、明らかに人工的な、直線の割れ目が芝生に走っているのを見つけた。


「たぶんここだ」


 僕が声を掛けると、二人とも集まってきた。

 そして、三人がかりでその周辺の枯れ草や土をどけてみる。


 現れたのは、だいたい一辺2キュビットくらいの正方形の切れ目だった。

 見るからに地下室だか地下通路だか、あるいは排水溝か何かへの入り口の蓋に見えるが、それにしても大きい。単に人が出入りするだけなら、この半分の大きさでいいはずである。こんなに大きいと重くて蓋は容易に開かないだろう。出入り口が広いのは一見便利そうだが、それで開け閉めがしにくくなったら、かえって不便である。


 梶原が言った。


「どうやって開ける? さっきみたいに仮面を置いたら自動で開いたりしないかね?」


 長家は一応、鹿の仮面越しに蓋の周辺を見たが、何も無かったらしい。仮面を外して、言った。


「そういえば、そこの物置にスコップがなかった? あれを使うしかないかもね」


 他に案もないので、僕が物置まで行って、スコップを取りに行くことにした。


 物置にはスコップが2つあった。どちらも錆びていたが、まあ、使えないことはないだろう。

 2つとも持っていき、1つは梶原に渡す。そして、お互い、平行となる辺の隙間にスコップを差し入れると、同時に持ち上げようとしてみる。


 何回目かの挑戦で、なんとか蓋は開いた。蓋を中途半端な状態にしておくのは危ないので、完全に外して、近くに置いておくことにした。

 そうした上で、3人して、中を覗き込んでみた。

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