第33話 誰も王子は狙っていませんから

 王宮の夜会が開催された。

 実は、王子はあろう事か主人公に招待状を渡そうとしたのだ。が、ロバートルートを攻略中の主人公から、それはそれはご丁寧にお断りをされたそうだ。

 もちろん、王宮からきている王子づきの近衛騎士がバッチリこれを見守っていて、しっかりと国王陛下に報告したそうだ。王子よ、あなたには学習能力はないのか?

 そんなわけで、王子の婚約者選抜大会だったのに、終始王子はご機嫌ななめだったそうだ。まぁ、学校での王子をみているご令嬢たちは、極力王子に近づかず、ダンスに誘われないように務めていたそうだ。

 野心のあるご令嬢は積極的だったらしいけど、ステップの難しいダンスを踊らされてみな険しい顔をしていたそうだ。

 放課後のサロンで、ヴィオレッタ様とアンヌマリーが面白そうに話してくれた。

「あー、見るだけの参加がしたかったわぁ」

 主人公は、他人事なので楽しそうだ。なにより、第一攻略対象の王子が、こんな残念キャラだったとは面白くて仕方が無いようだ。

「私は、アラン様の声だけなら好みでしたけれど」

 今更だけど、私の推し声優があてられている王子は、声だけで萌えるのよねぇ。「お前を俺だけのものにしたい」とか囁かれたらキュン死にしそうなんだど、中身がアレかと思うともう萌えないんだよねぇ。

「アンネローゼは、本当にアラン様の声が好きなんですねぇ」

 主人公がクスクス笑っている。くっそぉ!知っているな、王子の声の主が誰なのか。私の推し、あの声はもはや神の囁き、聞いただけで昇天しそうなのよ、私。

 くやしー、私は主人公の弱点がわからない。分かったのは、前世からロバートこと貴志が好きだったことぐらいで、

「そう言うミュゼットは、ロバートのどこがいいのかしら?」

 私は頬杖をついてミュゼットの方を見た。中身は先輩、名前は知らない。でも、主人公は私と貴志のことを知っている。うーん、これってフェアじゃないよね?

「どこって、ずっと前からお慕い申し上げておりました。って言ったよね?私」

 主人公がやや仏頂面だ。

「えーなーに?ミュゼットちゃんはロバートのどこが好きか教えてくれないのぉ?」

 ヴィオレッタ様が首を突っ込んできた。やはり、女子は恋バナが好きだ。

「もう、アンネローゼがこんなところで話し始めるから」

 主人公がぷぅって頬を膨らませた。さすがは主人公、可愛いじゃないですか!

「あら、1週間のお休みの間に、毎日我が邸に押しかけていたんですもの。私だって愚痴のひとつも言わせていただきたいわ」

「えー、1週間も?」

 アンヌマリーはかなり驚いたようだ。そりゃあ、ね。普通のお友だちの家にだって、毎日は遊びに行かないよね。それが、公爵家だったら尚更びっくりするわ。

「そう、毎日よ。私のお勉強に付き合ってくれるから張り合ってはかどっちゃうんだけど、うちのリリスがライバルなのよ。だから、2人でバチバチなの」

 私はあっさりバラしてやった。

「えー!ライバルがいるの!!しかも、リリスなの?」

 ヴィオレッタ様がかなり驚きの声を上げた。そりゃ、貴族社会恋のライバルになんかなったら、家柄を考えて格下が引くもんね。自由恋愛が問題ない平民だからこそ、ライバルとバチバチできるのよねぇ。

「えー、いいなぁ、そーゆーの憧れますわぁ」

 アンヌマリーがうっとりとした顔をする。

 はぁ、みんな恋に恋するご令嬢だわ。でも、仕方がないよね、貴族の令嬢は、基本政略結婚だもんね。そこに女性本人の意思はないんだから。

「私は、やーっと自由になれたので、暫くは社交界でフラフラしたいなぁ」

「そーねー、アンネローゼちゃんは我慢に我慢で生きてきたものねぇ、暫くは息抜きしたいわよねぇ」

「そーなんですよー、そうしたら、ミュゼットが目の前で楽しそーにイチャイチャしちゃって、ライバルとバチバチして、楽しそうにするんですもの」

 私はちょーっと嫌味のひとつも言ってやった。

「応援する。って言ったのはアンネローゼじゃない」

 主人公は、不満そうだ。なにせ、みんなの前で暴露されたのだから。

「応援はするわよ。でも、リリスも私にとっては大切な家族なの。どっちも頑張って欲しいのよねぇ」

 これは本音。ただし、ロバートがどう思っているかは知らない。貴志は幼なじみだけど、恋バナしたことないもんなぁ。

「私は負けませんよ。絶対この恋を実らせてみせます」

 主人公、かなり強気だなぁ。まあ、前世と今世で追いかけてるんだから、並々ならぬ決意なんだろうな。

 私には分からないや。

「羨ましいですわぁ、ミュゼットさんが。わたくしも恋をしてみたいものですわぁ」

 アンヌマリーがそう言うと、私とヴィオレッタ様は激しく同意をして「ねー」って頭をくっつけてみた。

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