第31話 他人の恋路は楽しいものです


 成績優秀者は、実を言うと3ヶ月ごとに正式に発表される。講堂に全校生徒が集まって、校長が発表するのだ。

 いわゆる中間テストみたいなものかもしれない。と思いつつ、私は講堂に並んでいた。とは、言ってもそこは貴族の子息令嬢がいるわけなので、椅子に座っているのだけれど。年齢的に、高校生なんだから、小一時間は立っていられるのでは?って、思ったけど、実際立っているのはだるい。中身はバリバリ平民なんだけど、体は公爵令嬢なので、アンネローゼはか弱い部類に入るのかも知れない。

 と、校長がかしこまって名前を呼んでいる。だめだめだ、自分が呼ばれるかもしれないのだから、気を引き締めねば。

 順番が分からないけれど、1年生では案の定主人公が呼ばれ、その後何人かが呼ばれていく。私はダメだったのだろうか?と不安になっていた時、ようやく呼ばれて安堵した。でも、喜びを顔を出してはいけない。貴族の令嬢らしく、ツンと澄まして前に並ぶ。

 どうやら学年ごとに呼ばれるらしく、3年生まで並ぶとなかなかな、景色になった。

 王子を筆頭に、生徒会役員はみんな並んでいる。やっぱり、成績優秀者は生徒会役員になる。お約束だよねぇ。

 拍手をされて、お辞儀をする。成績優秀者たるもの優雅に上品に、マナーの授業だって、得点に関与しているのだから。



 昼休み、ランチを食べてまったりしていると、主人公がやってきた。

 本当は成績発表がされたので、1週間の休みに入ったのだけれど、すぐに帰る気にならなくて、こうしてダラダラていたのだけれど…

「帰らなかったんだ」

 そう言いつつ、主人公は辺りをキョロキョロしている。

「ロバートなら、乗馬してるわよ」

 態度があからさまで、少々イラついたけど、正面切ってロバート狙いと言われては、悪役令嬢にはなりずらい。

「あら、ご親切に」

 そう言うと、本当に主人公はロバートを探しに行ってしまった。邪魔をする気にもなれない。たとえ、中身が貴志だとしても、私は幼なじみと初恋とかはない。こちらの世界で幸せになれるのなら、それを邪魔しないのも幼なじみの役目だろう。貴志がどう思っているかは知らないけれど。

「人の恋路を邪魔するやつは、馬に蹴られ死んじまえ。って言うしねぇ」

 振り返ると、リリスがいた。当たり前だけど。授業がないから、私が何をするのか伺っているのだろう。サロンのお友だちは、1週間の休みを前にわちゃわちゃしながら帰っていった。貴重な休み中に、貴族社会の情報入手を、兼ねてご婦人のサロンへ繰り出すらしい。

「今のは、なんでしょう?アンネローゼ様」

 私の独り言が聞こえていたらしく、リリスが聞いてきた。

「ああ、ことわざよ。人の恋愛を邪魔しちゃダメだよ。ってこと」

「つまり、アンネローゼ様は、ミュゼットとロバートの恋を応援する。と?」

 リリスに聞かれて、

「違うわ。ミュゼットの恋を邪魔しない。ってことロバートの気持ちは知らないもの。ミュゼットになんて返事をするかはロバートの気持ち次第でしょ?」

 私がそう答えると、リリスはちょっと不満そうだ。

 なんか、怒ってる?

「えーっと、もしかしなくても、リリスもロバートが、好き?」

「好意はあります」

 リリスが即答をしたので、私はやっちまった。と後悔した。

「あー、ごめんなさい。気づいてなくて」

 私はリリスに謝った。主人として、家人の動向に気づけないとは。

「いえ、お気遣い感謝致します。アンネローゼ様は、ご学友の恋を応援する。とても自然なことです」

 リリスは、泣いてもいないし、笑ってもいなかった。

「えーっ、と。ほら、ミュゼットに比べれば一緒にいる時間は長いんだもん。有利じゃない?」

「いえ、アンネローゼ様が婚約破棄なされたばかりだと言うのに、メイドである私がこのようなことをしている場合ではありません」

 リリスは、至極真面目に答えた。って、え?そうなの?そういうもんなの?いくら24時間体制で使えているからって、プライベートも私のために投げ出しちゃうの?って、もしかして私が婚約破棄とかに、しちゃったせいでリリスの、計画台無しにした?

「ええっ!もしかして私のせい?私のせいでリリスの恋バナ台無しにした?」

 リリスは、私の方を見て一瞬眉をピクリと動かしたが、

「アンネローゼ様、恋バナとはなんでございましょう?」

 ほぼ無表情で聞いてきた。

 ああ、リリス、ごめん。恋バナって令嬢が使う言葉では無かったわね。意味分からないね。

「えーっと、つまり、その、私のせいでリリスの恋路を邪魔してしまったわよね?」

「なにを、おっしゃいます。仕えるアンネローゼの幸せなくして私ごときの幸せなどないのです。ですから、まずはアンネローゼ様の最良な婚約でございます」

 リリス、だって、あなたは私より年上のはず。それなのにまずは私?それでいいの?メイドさんたちだって、食堂とかそういう所で女子会もどきしてるでしょう?そこでロバート狙いだって宣言したんじゃないの?

「それはダメよ」

 私がそう言うと、リリスはかなり驚いたかおをした。

「なぜでございます?」

「女の子が恋を諦めるなんてダメよ。恋をするから女の子は強くなるのよ。だから、私に遠慮しないで」

「しかし、アンネローゼ様のご学友、ミュゼットがロバートを好きだと言っているではありませんか。しかも、アンネローゼ様はそれを応援すると」

 リリスはそう訴えるけど、

「いいじゃない。私はミュゼットのことをお友だちとして応援するの。リリスのことは、家族の事のように応援したいわ」

 リリスは、だいぶ驚いていた。そりゃ、まぁ、そうだろうね。私もだいぶ他人事だと思って随分なことを言ってるよ。でも、ドラマ見てるみたいで面白い。とか言えないから、2人とも応援する。って、形をとりたい。

「分かりました。アンネローゼ様の言う通り、諦めずに私もロバートに、アプローチをしたいと思います」

「うん、それがいいわ。気心知れた中からの脱却は難しいと思うけど、だからこそ、燃えると思うの」

 私は思わずリリスの手を握った。

「アンネローゼ様、1つ確認させて頂きたいのですが…」

「うん?なにかな」

「この状況を、楽しんでいらっしゃいますか?」

 私は、えへへと笑って誤魔化した。

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