第30話 アンネローゼ会議開催しました
私は、再びお父様の書斎に呼ばれた。
お母様は、お父様の隣に座っている。
書斎のソファは、客間のとは違い割と固めに作られていた。くつろぐ事が目的ではないからだろう。
メイドがお茶をだすと、直ぐに退出してしまった。今日はそんなにも深刻な話なのだろうか?
「国王陛下から、確認された」
お父様は、そう言うと、私を見つめた。
私は無言で合意の意を示した。
「アラン王子と、アンネローゼの婚約は正式に破棄となった。そのため、来月アラン王子の婚約者候補を探すために王宮で夜会が開かれることになった」
「そうですか」
私は、特に何も感じなかった。新たな婚約者を決めるのに王子主催の夜会が開かれるなら、当然私はよばれない。
「それじゃあ、早めにいただいたティアラを返しに行こった方がよろしいかしら?」
私はお父様に聞いた。
「あら?返すものなのかしら?」
お母様がお父様に問う。
「前例がないからなぁ、明日確認してしておこう。それと、分かっているとは思うがアンネローゼ、我が家に招待状は届かないからな」
「もちろんですわ、お父様。平民の女子生徒にうつつを抜かすような方なんて、ごめんです。私は未練なんてありません。私はこれから学校生活を満喫して、成績優秀者になり、私の価値を見せつけてやるんですから」
ふんっ、と鼻を鳴らしてそう言うと、なんだか悪役令嬢っぽくてゾクゾクした。自分の価値が分かっているからこそ、こういう態度がとれるというものだ。
「あら、アンネローゼは随分とやる気なのねぇ」
お母様は、わりとおっとりとしているのか、今回の事について気にしていないようだ。
「だって、社交界で好きにダンスを踊れるし、お友だちのお茶会にも行けるんですもの。それに、好きなドレスを着られます」
「招待状が配られると、仕立て屋は混むぞ」
お父様は、私の狙いが分かったのか、苦笑いをしながらそう言った。
「別に急ぎませんけど?だって、平日は制服を来ますもの。どこかのお邸のパーティがあれば是非行きたいなぁ、ってだけです」
「あることはあるのだけど…そんなに直ぐに参加するのは、ねぇ」
お母様の言うことは分かる。婚約解消して、すぐにパーティに参加したら、焦っていると思われる。そんなのは我が家にとって屈辱にしかならないので、宮廷の夜会の後辺りから届いた招待でいいのかも。まだ16歳だし、公爵令嬢なんだから、ほっといたって縁談は来るのだろう。政治的なのだろうけど。
「学校のサロンでお友だちとおしゃべりを楽しんでますので、そんなに焦ってはいませんわ」
私がそう言うと、お父様はそうか、と頷いて安心したようだった。そりゃ、ね。大切な娘にようやくお友だちができたのだから、一安心ですよね。
私は、また夢を見た。
あの、階段が沢山ある夢だ。色んなことがありすぎたから、アンネローゼが呼んでくれたのかな?と思いつつ、階段を登っていく。どの扉も同じで階段の先にひとつしか付いていない。とりあえず最初の扉を開けると、そこは学校だった。春の日差しが降り注ぐ穏やかな教室、人気のない廊下。私はゆっくりと廊下を歩きつつ自分の教室を探した、
ちょっと重厚な扉は、音楽室の扉を思い起こさせる。
「さすがは貴族の学校なんだよね、日本の学校の扉とは違う」
そう呟きつつ扉を開けると、やっぱり教室にはアンネローゼがいた。自分の席に座って、こちらを見ている。
「元気にしてた?」
この挨拶もイマイチなんだけど、何を言うのが正解なのかも分からない。
「ふふっ、とっても元気よ」
アンネローゼは、令嬢らしくとても上品に笑ってくれた。目の前にいるもう1人の自分が、令嬢らしからぬ言動をするのが楽しいのだろうか?嫌悪感は感じられない。
「ここ、座るね」
私はアンネローゼが座る席の前に座った。机をひとつ挟んで向かい合う。恐らく、貴族の令嬢だったらこんなことはしないだろう。椅子の向きを変えるだなんて、無作法なんだと思う。
「色々ありがとう」
アンネローゼは微笑みながらそう言った。
「へ?」
対する私は間抜けな声しか出なかった。なに?いまお礼を、言われたんだけど。
「婚約解消の事、お友だちのこと、努力すること、色々よ」
アンネローゼがそう言ってくれて、私は内心ほっとした。乙女ゲームにおいて、アンネローゼの最大の武器は王子の婚約者と言う肩書きだった。それをあっさりすててしまったのだから、アンネローゼの5年間を捨ててしまったの同然だと思っていたのだけれど…
「えーっと、良かった?その、婚約解消、もうしちゃったけど…その」
「ああ、いいのよ。別に。王族の婚約者ってすごく大変で、あれこれ言われるのは、婚約者とその家族たちの忠誠心を試しているの。特に今の女王陛下は宰相の娘だったから相当試されて大変だったみたいね」
ふむふむ、あのヤンデレのような対応はそういう事でしたか。
「側室が表に出て来れないのは、政治的な混乱を避けるため。世継を産んだ側室が力を持ったら、貴族たちがこぞって側室をつくらせたがるでしょ?だから、側室が表に名前を出せるのは、産んだ子どもが国王になった時だけ、他国に嫁いだりした時は誰が産んだのかも公表しないのよ」
「厳しいのね」
「そうなのよ。側室が産んだ時でも、公表する時は女王陛下が抱いてバルコニーで公表するの」
「すっごい恨まれそうね」
思わず口に出てしまった。だって、出産って命懸けって聞くのに…
「だから、制度として側室は表に出られないようにされたのよ。自分だけが虐げられたのではなく、歴代の側室はみんなそうなんだって、そう言う事にしたのよ」
そう言うアンネローゼは、なんだか寂しそうだ。
「王子のこと、好きじゃなかった?」
「そうね、政治的な順番で私に当たっただけ、って感じだったかしらね?王族の血が濃くならないように、候補を何人かあげるのだけど、最終的にはアラン様の好みが反映されたみたい」
「はぁ?好み?」
「見た目の、ね」
アンネローゼが笑ったけど、それはだいぶ自虐的だった。
「アラン様は、儚げな美少女が好みだったの。ハキハキと喋る子はうるさくて嫌いだったみたい。お見合いの日、私は名前を言ったあと俯いてしまって何も喋れなかったの。、でも、それがアラン様のツボだったわけ」
なるほどねぇ、淡い色彩の銀の髪の美少女が、俯きながらもなにか喋ろうと上目遣いで自分を見る姿に萌えたわけね。そして、独り占めしたい、と。忠誠心を試す儀式を自分への愛の行為と思い違えてしまったわけね。
「王子、めんどくさいわね」
「私も、最近まで気づかなかったわ」
「気付こうよ」
「12の時からずっと、王族の婚約者としての勉強ばかりさせられてきたから、麻痺していたのね」
アンネローゼは、ふふっ笑うと、
「だから、気づかせてくれてありがとう」
「うーん、ほら、私はこの世界の住人じゃないから、見え方が違ったんだよ、ただそれだけで…」
「それが良かったのよ。そうでなければ、私は何も気づかなくて、それを受け入れて、それが、幸せなんだと思い込んで、生きていたでしょうね」
「そうかな?」
「そうでしょう?そうでなかったら、私はあなたが言う悪役令嬢になって、破滅?していたのでしょう?」
「そうだね、うん。 そうだ」
私がやったことが間違いでない。とアンネローゼに言ってもらって安心した。
「んーっと、て、事はぁ、アンネローゼは誰か気になる異性はいないってことか」
「そうね、王族の婚約者として、とにかく異性との接近は避けてきたから、貴族の令息は名前もろくに知らないわね」
アンネローゼは、笑っているけれど、それはそれで寂しい青春ではないか。うん、今からでも取り返そう。そうしよう。
「じゃあこれから、ダンスの自主練とかでパトナーしてくれた人とか、積極的にチェックだね」
私は立ち上がってこぶしをアンネローゼの前に突き出した。
「えーっと?」
「イケメンチェックは重要だよ!女子の恋バナの最重要項目だよ」
アンネローゼは、私の勢いに圧倒されたのか、ひたすら頷いてくれたのだった。
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