第25話 やっぱり悪役令嬢はひつようですか?
案の定、あのサロンのご令嬢方は、「アンネローゼ様のために」「アンネローゼ様から」などど言い出したそうだ。
ああ、面倒事に巻き込まれて、私が悪役令嬢になるフラグが立っていく。
私があんな人たち知らない。と言ったら回避出来るのだろうか?本当に知らないわけだし。2年生の女子生徒だとアンヌマリーが教えてくれた。アンヌマリーは伯爵令嬢なんだけど、かなり気さくでサッパリした性格の持ち主のようだった。
サロンに集まる平民の女子生徒たちに、お茶の入れ方、飲み方を教えてあげて、簡易マナー教室的なことまでしてくれているらしい。まぁ、たしかにマナーの自主練習って難しいよね。
「でも、どうしてしゅ…ミュゼット様は、あのサロンに入られたのかしら?」
私はそもそもの疑問をぶつけてみた。上級生の、しかも貴族のご令嬢たちだけしかいないサロンに、なぜ平民の主人公が入っていったのか?
「お誘いがあったそうですわよ」
アンヌマリーが言う。
「いじめるためにわざわざ呼び出したのですよ」
生意気な平民女子の鼻っ柱をへし折るために、呼び出していじめたわけだ。だけど、そこにマルコスが来てしまった。普段は来ないくせに、なぜかあのタイミングで王子の側近であるマルコスが!そして、なぜか私もそのサロンが見える斜め前のサロンの入口にいた。
これは、ゲーム補正というやつなのだろうか?
アンヌマリーたちが仲間にならなければ、私は悪役令嬢として主人公をいじめたことにされる。さらにそれを王子から責め立てられるのだろう。「何も出来ないくせに」って。
考えただけで鬱になりそうな事案だ。メイドのリリスは使えないし。学校内のことは、自分で処理しなくてはならないからなぁ。
なんて、お茶をしながら考えていたら、ようやく生徒会のメンバーがやってきた。プチ断罪イベント勃発ですか?
「ごきげんよう」
少し高めの声で先制攻撃をしたのは、アンヌマリーだった。アンヌマリーは、王子が嫌いらしく、わざとらしく扇で口元を隠した。
「ごきげんよう、みな様」
応じてきたのは、生徒会役員のヴィオレッタ様。スカートをつまんで淑女の礼をする。
「今日、サロンで起きたことは知っているな」
王子が人を見下す目線で言ってきた。ああ、見た感じからしてもう、不愉快極まりないわ。私を犯人と決めつけているのがひしひしと伝わってくる。
「存じてますわよ」
私じゃなくて、アンヌマリーが答えた。
王子が若干アンヌマリーを面倒くさそうな顔で見ているのが分かる。うん、わかる。質問してるの、私にだよね?でも、答えるのは私じゃなくてアンヌマリーだから、王子はイラついている。
「あなたには聞いていない」
ルイス様が割り込んできた。うん、あなたはそう言う役回りよね。マルコスがいないから、あなたがそれをやらなくちゃだわ。私は、こんなイベントゲームで見たなぁ、なんてら思いなが眺めていた。
「アンネローゼ、あなたの事だ」
イラついた声で王子に呼ばれたけれど、私は本当に面倒くさくて、目線だけを王子にくれてやった。そんなの淑女のすることでは無いけれど、約束も取り付けずにサロンに入ってきたのは王子たちなわけだし。
「今日のサロンでの出来事、ミュゼット嬢への仕打ちについて、なにか申し開きは?」
あーー、面倒臭い。なんで私が主犯で確定の体で話を進めてるのかな?私の話は聞いてないよね?どーやって、裏をとったのかな?なにが何でも私を悪役令嬢に仕立てたいゲーム補正ですか?それとも、王子はバカなんですか?
「私はこの、サロンにいましたけど、ことが起きたサロンのみなさまとは面識はございませんわよ」
ツンと、して、王子の顔なんて見ないで答えてやった。これがヒロインなら、涙を浮かべて「私を疑うのですか?」とか言って、走り去るとか、令嬢らしくハンカチでも噛んでヒステリックに泣き叫べばいいのかなぁ。
「彼女たちは、あなたに指示されたと言っている」
うぜーよ、ルイス。顔も名前も知らない上級生に、どうやって支持するんだよ?言ったもん勝ちなのか?この世界は?
「面識のない方にそのようなことを言われるのは心外ですわね。私、お友だちがいませんのに」
まったく、相手にしたくないので、私は顔を完全に背けたまま言ってやった。わざとらしくハンカチを取り出して目を覆う仕草を付けてね。
「お友だちではなく、手下なののでしょう?」
言ってくれるな、ルイス。そう言うあなたは王子の手下なのかしらね?
「酷い言われようですのね。私がこの学校に入ってから、どのような存在として扱われていたかご存知でしょうに」
もう、面倒臭いから泣き真似もしてあげるわよ。私は、そこにいる王子のせいで、お友だちを作ることもままならないほど仲間はずれにされてきたんですけどね。
「アンネローゼ様、どうか正直に仰ってくださいな」
マリアンヌ様が声をかけてくれたけど、ここはあえて無視させていただきます。
「あらあら、生徒会役員の方々がよってたかってアンネローゼ様を悪者に仕立て上げるのですわね」
アンヌマリーがわざとらしく大きな声でそう言うと、ルイスの肩がぴくりと反応するのがみてとれた。
「そうですねぇ、入学式の翌日から、何故だか貴族のご令嬢方は、アンネローゼ様を暗に避けたり、あえて声をかけなかったりされていて、私たち平民の生徒から見たらなんだか不思議でしたけれど」
サロンの中にいた平民の女子生徒が、アンヌマリーに続いてわざとらしく大きな声でいった。
「発言の、許可はしていないぞ」
ルイスが威嚇するようにいうと、
「あらぁ、いつから学校のサロンは裁判所みたいなことになったのかしら?」
「学校内のサロンに、貴族社会の様なことを持ち込まれても困りますけれどねぇ」
またまた、煽るようにサロン内の女子生徒たちが声を上げる。
ルイスがかなりイラついているのがハッキリと分かる。が、サロンにいる女子生徒たちはソレを面白がっているようだ。爵位とか身分とか、そんなものに興味が心底ないようだ。
「複数の生徒が目撃している、言い逃れは出来ないだろう」
ようやっと、王子が口を開いた。が、誰が何をしたのを目撃したって?
「ミュゼット様がいらしたサロンはここでは無いですけれど?」
アンヌマリーが口を挟む。
「黙れ」
王子が声を荒らげたが、アンヌマリーは意に介さない。
「あらあら、自分の思い通りにことが進まないと力ずくなのかしら?」
サロンの女子生徒がからかうように言う。
「目撃しているって、誰が何をしたのかしらね?」
更に続けてからかうようにいうと、王子が苛立って
「ミュゼット嬢に紅茶をかけたのを、だ」
はいはい、それ私じゃないですよ。
「誰が、ですか?」
アンヌマリーが質問をした。
「サロンにいた生徒が、だ」
「誰ですの?その生徒は?」
私はハッキリと質問をしてやった。主人公に、紅茶をかけたのは誰?私じゃありませんけど?
王子は口ごもった。もちろん、ルイスも黙っている。ヴィオレッタ様も、どうしたものやら、と言わんばかりの顔をして王子を、見ている。
「それは、アンネローゼ、お前が支持をした生徒だろうに」
王子がようやっと口を開いて言ったことは、だいぶ無理があった。私がどうやって指示を出したのか、それが分からないんですけど?私、あなたのせいで社交界も学校も、ぼっちでしたのよ?
「で?その生徒はどこのどちら様なのか教えて頂けません事?」
私は、もー退屈ですって、顔をして王子を見た。泣き真似も面倒臭いし、さっさとケリをつける方向に持っていきたいんだよね。
「それは、お前がよく知っているだろう」
王子はそういうが、こっちは本気で知らないわけなので、なんだかもー、会話が面倒臭いことになってるんだよね。
「はいはい、よーく分かりました」
私は、やおら立ち上がって王子の前に立った。
私のいきなりの行動に、王子もルイスも驚いて私を凝視する。
「アラン様、こんな回りくどいことをなさらなくても、ハッキリと仰って下さればよろしいのですわ」
私は多少芝居がかって言ってやった。
「だって、そうでございましょう?普段はいらっしゃらないマルコス様がサロンにいらっしゃって、そんなタイミングよくあの、平民の…」
私はわざとらしく主人公の名前が分からないんです。って感じで後ろを振り返ってアンヌマリーの顔を見た。アンヌマリーは、心得た様子で主人公の名前を教えてくれた。
「そう、ミュゼット様が紅茶をかけられるなんて、誰が想像出来ますかしら?」
私は、口を真一文字に、結んだ王子に更に話しかける。返事なんかいらない。
「本当に、まるで図ったかのように完璧なタイミングでしたわ。マルコス様があの、サロンの前に通り掛かるのも、ミュゼット様の肩を抱くのも、ハンカチを差し出すのも、本当に全てが計算されたかのように、よどみなく進行されて、ちょっとした劇を見ているかのようでしたわ」
そう言う私も、かなり芝居がかった喋り方をしてはおるんだけど、こうでもしないと廊下で聞き耳立てている生徒たちに聞こえないからね。
「本当に、なんて回りくどいことをなさるのでしょう、アラン様は」
私はそう言って、しっかりと王子の顔を見た。
「私が邪魔でしたら、ハッキリと仰ってください。こんな回りくどいことをして、私を貶めてまですることではございませんでしょう?」
私は、王子の前で『お願いポーズ』を作った。
「ミュゼット様がお気に召していらっしゃるのでしょう?私が邪魔ならそうと、ハッキリおっしゃってくださればよろしいのに…私は直ぐにでも身を引きますわ。ええ、もちろん、婚約破棄だとおっしゃるのなら、それをお受け致します」
私は、かなり大きな声でハッキリと言ってやった。もちろん、王子にではなく、廊下で聞き耳立てている生徒たちに言っているのだ。
なにしろ、わざわざ王子のほうから公開処刑ならぬ、断罪イベントを持ってきてくれたんだからね。
「アンネローゼ、お前、何を?」
驚いた王子が今更のように何かを言おうとしたけれど、もう遅い。流れは完全に私が握っているのだから。
「ああ、お優しいアラン様。鈍感な私がいけないのです。私が至らないばかりに、アラン様にこのような事をさせてしまって、申し訳ございません。直ぐにでも身を引きますわ、ええ、もちろん」
私はわざとらしく涙を拭うフリをした。
「お優しいアラン様は、あえてそれを口にはしてくださいませんのね。分かっております。婚約破棄、お受け致しますわ」
私はそう言って、わざとらしく大袈裟に、ゆっくりと頭を下げた。
「アンネローゼ、そんなことは…」
王子が何かを言おうとしたけれど、もう遅い。頭を下げてしまっている私には、もう何も言えないのだ。
「アラン様」
ヴィオレッタ様が雰囲気を察して王子に声をかける。これ以上ここに留まることはよろしくない。そう察してくれたのだ。
ルイスに促されて、王子はようやくサロンから出ていってくれた。廊下で聞き耳を立てていた生徒たちは、近くのサロンに身を潜める。
王子たちが完全に廊下の向こうに消えた頃、私はようやく頭を上げて
「アンヌマリー」
背後にいてくれたアンヌマリーに抱きついた。
ぶっちゃけ立ちくらみだよ。
「なんて、お可哀想なアンネローゼ様」
アンヌマリーも芝居がかった口調で私を慰めてくれたのだった。
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