第15話 私って、本当はどんなキャラなんでしょうか
「そんなことがあったのか」
夜、日記を書きながら私はロバートこと井上貴志に報告をしていた。だって、最後に主人公が言い放ったセリフは十分に怖すぎる。どんな意図があって言ったのか?真相が分からなすぎて、困ってしまう。
「そうだよな、乙女ゲームはシュミレーション系になるからプレイヤーは1人だよな」
貴志は変に納得していた。まあ、私もそうだとは思うんだけど、主人公がいるのに、私もいるわけで、貴志もいるんだけど……貴志はプレイヤーじゃない?から?
「まさかとは思うけれど、私のこと消したりしないよね?主人公」
私は1番最悪なことを口にした。プレイヤーは1人、主人公はいる。私は登場人物の1人で、場合によってライバルキャラで……
「どうしよう、私、主人公の、ライバルキャラになっちゃった?」
そうだった、 私は年末のダンスパーティー、成績優秀者が表彰されるそれで、王子をパートナーに指名したい。と宣言をしてしまったのだぁ
こんなイベントがあるのかないのか?まだわからない。だって、ゲームをそこまで進めてなかったんだもん。ずるいよ、主人公。
「シュミレーション系でプレイヤーが複数いるならVSモードだよなぁ」
貴志はとんでもないことを言った。VSモードとな?それって、戦うってこと?やっぱり、私は主人公と闘うの?
「それで負けたら悪役令嬢で破滅エンドまっしぐらってこと?」
「ゲームがそうなるストーリーなら、ね」
貴志のロバートは完全にモブだ。でも、私は?ライバルの悪役令嬢なの?それとも、もう1人の主人公なの?
隠しモードとかあるんだったの?教えてよ運営さーん。
週末が雨だと、乗馬のレッスンができない。そうなると、お母様が嬉しそうにダンスレッスンを申し出てくれるようになった。
困ったことにこちらの世界は、日本をモデルに作ったらしく、四季がある。今はまだ冬なので(ゲームの発売に合わせて年末からのエピソードで、学校は1月始まりだ)、雨が降ると寒くて冷たい。
しかし、ここは公爵家!暖房ガンガンのやつですよ。っても、暖房がお約束の暖炉!暖炉ですよ。いやー暖炉なんて金持ちの象徴ですよね。薪の支度は誰がしているのかなんて、令嬢である私にはまったくわかりませんけど。
そんなわけで、部屋はとってもあたたかいのである。その部屋でピアノの生演奏(贅沢だけど音楽プレイヤーないし)を使ってのダンスレッスン!これがなかなかハードなのである。暖炉で暖房ガンガンのせいで、ホットヨガのようになってしまっているのだ。真冬なのに汗だくですよ。額に汗が滲むのではなく、流れるのですよ。
しかも、令嬢だから、髪の毛をしばれないのだ!この長い髪の毛を、ひとつに縛ってしまいたいのに、令嬢はそんな髪型をしない。その髪型は労働階級のものだ。と叱られてしまった。
そんなわけで、長い髪の毛をバッサバッサさせながらのダンスレッスンなのである。
そりゃ、体力はあるけれど、ダンスって、社交ダンスなわけでヒールを履いて踊るのよねぇ。大抵のダンスは体が覚えてくれていたので踊れるのだけれど、私は日本の高校生、いかんせん姿勢が悪いらしい。背筋が伸びていない。とお母様に叱られるのだ。どうやら、そのへんの姿勢とかは、魂?に感化されてしまうようです。
「なんで、俺まで」
ダンスのパートナーに、何故だかロバートが選ばれていた。理由が、私付きの騎士だから、なにか起きた時には踊れないと困るらしい。とかで……騎士がダンスしなくちゃいけない時って、どんな時なんだろう?ダンスしながら護衛するのかな?
なんにしても、貴志も少しは私の苦労が分かってくれただろう。でも、私が踊れる日って、いつ来るのかしら?王族のこだわりのせいで、未だにパーティーに参加出来ていないのである。これじゃ、本当に成績優秀者になるためだけにレッスンしてるみたい。ああ、誰かに見てもらいたいなぁ。
そんなことを考えると、胸がチクリと痛むのであった。
「これだけ雨だと、馬車で通学はありがたいわね」
私は、雨の中、徒歩で学校を目指す平民の生徒たちを見て思わず呟いた。寒空の中の雨。この間までいた世界で経験はしていたけれど、改めて思うのである。早く大人になって、車で通勤してみたい。そうすればぬれないのになぁ。って。
それが、大人にはなってないけれど、貴族の令嬢になったのでぬれずに通学できている。嬉しいけれど、なんだか申し訳ない気持ちがあるのは否定できない。そんなことを考えたら、また胸がチクリと痛んだ。
「乗合の馬車もありますけれど、そうそう使うものではありませんからね」
リリスが教えてくれたけど、学校に行くために乗合馬車に平民の生徒たちは乗れないらしい。お小遣いで気軽に乗れる金額ではないそうだ。
そう考えると、主人公はここで何かしらのイベントが発生しているのでは?雨で濡れて、とか、これから雪に変わってとか。うん、雪に変わって、雪のイベント発生が可能性高そうだ。何もしなくても同級生のカールとはイベントが発生するはず、王子ルートになっているとすると、そのイベントは私の知らないものだ。それがどんなフラグかも私は知らない。
もし、王子が私の知らないところで主人公とイベントを発生させていたら?それを考えたら、また胸がチクリと痛んだ。
そんな私と目が合うと、リリスはすかさず笑顔を見せてくれる。私の機嫌をとるのもメイドさんの仕事だからだろうか?
でも、よくよく観察をしてみると、最初の頃は無表情だった(感情が読めなかった)リリスが、表情豊かになった気がする。
理由が分からない。
特に、喜んでいるのを感じるのは、学校でのお昼だ。リリスは私がランチのメニュを選んで席につくまで一緒にいる。私が食べ始めるといなくなるのだが、私がランチを一口、口に入れた時、それをマジマジと見つめ、そうして、ものすごい笑顔になったのだ。そりゃ、乗馬の授業もダンスの授業も、全力で取り組むようになったから、お腹が空くのよ。だから、ランチを綺麗に平らげてはいるのだけれど、それがリリスを笑顔にしているのだ。フシギ。
私は、今日のランチで思い切ってリリスに聞いてみた。
「なんで、そんなに喜んでいるの?」
私は、一応貴族令嬢らしく、小さく一口を食べてからリリスに聞いてみた。
「だって、アンネローゼ様がトマトを食べていらっしゃるから」
え?トマト?
トマトなんて、ここ最近のランチのサラダには必ずのっているけれど?夏野菜の定番だもの。温室栽培がほとんどないこの世界では、旬のものを美味しく食べられるから、私は嬉しいのだけれど?
「好き嫌いまで克服なされて、リリスは感激している次第です」
リリスはそう言って去っていった。
え?私ってば、トマトが嫌いだったの?知らなかったんだけど。そんなのキャラ紹介に書いてなかったわよ。でも、改めてトマトを口にしてみると、美味しいんだけど、なにやら違和感を微かに感じた。
もしかすると、本当のアンネローゼの意思なんだろうか?だとすると、私は転生して乗っ取った?アンネローゼの意志を無視した行動を取っていたのだろうか?なんだか申し訳なく思う。
「今更なんだけど、元の体の持ち主はどこいっちゃったんだろう?って思ってね」
本当に今更なんだけど、貴志に聞いてみた。
「俺はあんまり感じないけど。この騎士って職業?実際は戦ったりしないから、前の世界と変わりなく生活できてるし」
そうか、ロバートは騎士の侍従だから、訓練はあるだろうけれど、ご飯は食堂に行けば食べられるし、お風呂も共同だけど入れるし、部屋だって、個室らしいからそんなに違いがないのか。
「なんか、私はトマトが嫌いだったらしいのよ」
私は、今日初めて知った自分のことを貴志に話した。
「それはまた、驚くだろうな」
テレビでやってた、仰天エピソードみたいだなって、貴志は言うけれど、本当にそうなのだ。
それに、リリスが言うには私が表情豊かになったそうだ。以前はほとんど笑わず、ほとんどリリスと口を聞いてくれなかったそうだ。それが、学校に入ってからよく笑い、おしゃべりをする。年頃のお嬢さんらしい行動をするようになった。との事で……
「本当のアンネローゼって、どんなんだったんだろう?」
私はそう言って、胸に手を当てた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます