第14話 破滅エンドは悪役令嬢だけですよね?
私が悪役令嬢として、破滅エンドを迎えても、この公爵家の侍従、騎士として雇われている(はず)ロバートは、一緒に破滅エンドは迎えない。王子に婚約破棄をされて、捨てられた令嬢として、つまりはキズもの扱いされて公爵家の地方にある私有地に引きこもるのだ。確か、髪を切って教会に入っちゃった気がする。挿絵でシスターみたいな服装のアンネローゼがちっちゃくいたんだよね。
確かに、貴族の令嬢として育ってきたら、地方の教会に入るなんて最悪だ。慎ましやかな生活なんて、受け入れられないだろう。
まぁ、まだ、このゲームの破滅エンドが死亡ってのじゃないだけましなんだけどね。
とにかく、主人公に意地悪さえしなければ断罪イベントは発生しないはず。だから私は、取り巻きはいなくてもいいから、とにかく味方を作りたかった。極力クラスの女子と仲良くしたかったのに、王子のアレが結構広まっているようで、特に令嬢たちは挨拶程度しかしてくれないのだった。当然だが、男子なんかは半径1mにも近づいてこない。
そんなことがありつつも、なんとか学校生活をこなしていたある日、私は乗馬の授業終わりに厩舎に来ていた。もちろん、自分の乗った馬を戻しに来たのである。
馬に丁寧にブラっシグをしていると、不意に声を掛けられた。
「佐藤美和さん」
「はい?」
慣れ親しんだ名前を呼ばれて、私は素で返事をしてしまった。
そうして、振り返った先には、ニヤニヤしている主人公が立っていたのである。
「ーーーーー!」
ハメられた。
馬がいるので大声は出せない。
私は思いっきり動揺していた。だって、主人公も転生者だと分かっていたけれど、まさか、まさか、私の名前を知っているだなんて!
あの日、あの横断歩道に、誰か知り合いがいたの?
主人公を凝視するが、全く分からない。貴志はすぐに分かったのになぁ。この人一体誰なんだろう?私は完全に警戒していた。
「初めまして」
先程のニヤニヤから、今度は人懐こい笑顔に変わった主人公は、私の方に近寄ってきた。
私は思わず身構えた。前回の廊下泣き真似の復讐をされると思ったからだ。
「何もしないわよ。怖がらないで」
そうは言われても、主人公が、目の前にいたら警戒するしかない。何しろゲーム補正があったら、私はここで悪役令嬢のレッテルを貼らされる、なにかイベントが起きるのだから。
「イベントはないわよ、多分」
多分?多分ってどゆこと?
「なーんか、違うのよね。ゲームとあなたが随分違う。やっぱり、中身が佐藤美和さんだからかな?」
主人公、私のこと知ってるんだ。同級生なのかな?同じ中学で、あの高校に行った子、誰だっけ?近所に住んでいたら、登校時間がかぶってて当たり前だよ。
「考えても無駄よ」
主人公は私の考えを見透かしたように言った。
「なんで?」
私は聞かずにはいられなかった。なんで無駄?
「私のことはきっと知らないと思う。だって、学年が違うし、中学も違うもの」
そう言って、主人公はまた、笑った。ヨユーありますって感じがした。
「主人公とあなたが、こんなところで会話をするイベントはないわ。だってゲームのアンネローゼは乗馬なんてしないもの」
キャラ設定変えないでよねぇ、って主人公はクレームを入れてきた。
「だって、こうでもしなくちゃ私、破滅エンド迎えちゃうじゃない」
私は、意を決して言ってやった。言わなくちゃ、破滅エンドは嫌なんだって。
「そうよね、普通に考えたらストーリーを知っているんだもの、回避をしようとするわよね」
主人公は1人でうなづいて納得していた。
「でも、主人公は、わ・た・し・なの」
そう言って、私な迫ってきた。邪魔しないでって。
私は、その迫力に押されていた。多分、主人公の方はゲーム開始と同時にこの世界に転生したんだろう。だからゲームが開始された。
主人公のための世界だとでも言うのだろうか?
でも、ここは実際にはゲームではない。ゲームの世界によく似た現実なのだ。だから、モブだって生きている。
「悪いけど、私だって主人公よ!私の人生の主人公は私!!」
私は、主人公に負けじと言ってやった。私の人生は私のモノ、すなわち、私は人生の主人公。
「やっぱりそうか」
主人公はため息をついた。
「ゲームの世界とは言っても、一人一人ちゃんと意思があるのよね。それは知ってるの。でも、この世界の意思と、あなたの持つ意思が違うのよ」
主人公は、困ったなぁとは呟きつつ、指を顎にあてて考えるポーズをとる。いちいち可愛いのが癪に障るけど、主人公も声優さんの声なので、私はしっかり聞いてその美声に酔ってしまうのだ。情けない。
「ねぇ、聞くの忘れてた」
主人公は、名案を思いついたと、飛び切りの笑顔を私な向けてきた。くぅ、主人公の笑顔、可愛らしくて私もやられてしまうではないか!
「な、なんでしょう?」
私はとりあえず馬の横から離れた。何かのアクシデントが起きたら、蹴り殺されてしまう恐れがあるからだ。こんな狭い場所、だいぶヤバイです。私が馬の横から離れたので、主人公とはかなり近い状態で対面することになった。
「あなたは、誰推しなの?」
そーきたかぁ!そりゃ、そうだよね。これって乙女ゲームの世界だもん。誰推しとか、攻略対象とか決めてるよね、普通。
「当たり前の事を聞かないでくれます?王子単推しに決まってるでしょ」
私は、どやぁってふんぞり返って言ってやった。悪役令嬢として相応しいぐらいに鼻で笑ってやったのだ。
「それは、主人公として困るんだけどなぁ」
主人公、小癪な!
「あなたの都合なんて関係ないわよ。私はこのまま行けば王子と結婚出来るのフラグ立てたり、イベント起こしたりする必要がないわけ」
私は主人公を睨みつけた。取り巻きこそ居ないけれど、馬小屋だけど、主人公VS悪役令嬢の構図が完璧に出来上がっていた。
「だいたいねぇ、婚約者のいる王子を攻略しようなんて厚かましいのよ。昼ドラじゃないんだから」
「だって、ゲームなんだもん、しょうがないじゃないですかぁ」
体をくねくねさせながらそう言ってくる主人公に、私は苛立ちを覚えた。
「そーゆーの、関係ないですから!とにかく私は王子単推しなんです!!譲る気ないですから」
同級生じゃないと聞いてしまったので、主人公の中身は多分先輩なんじゃないかと思うと、なんとなく敬語、までいかなくても、そんな喋り方になってしまった。私、悪役令嬢なのにぃ
「そっか、佐藤美和さんは王子が攻略対象だったか」
まぁ、当然といえば当然だよねぇって、主人公は独り言のように呟いた。
「うん、分かった」
主人公は、クルっと一回転すると、スカートをふわりとさせて言い放った。
「プレイヤーが二人もいるのがいけないのよ」
主人公は、ニッコリ微笑むと、じゃあね。とさわやかに立ち去って行った。
後に残された私は1人、言いようのない恐怖を感じていた。
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