第12話 どっちが悪役令嬢なんでしょう?

「どうして、あなたが王子に会いたいのかしら?」

 私は、若干ひきつりながらも笑顔で質問をした。私は生徒会の役員ではないけれど、王子の婚約者である。

 その私がいない隙をついて王子に会いたいとは?

 残念ながら、居ないはずの私が生徒会室にいて、肝心の王子はいませんけどね。

「どうしても聞きたいことがあるんです」

 主人公は、私を見ても怯むことなくそう言った。

「アラン王子個人に聞きたいことがおありなのね?」

 ヴィオレッタ様は、穏やかな笑顔を主人公に向けた。

「ところで、あなたは誰?」

 マリアンヌ様が立ち上がって、挨拶をした。まずは名のると言うことか。

「私も生徒会の役員をしている、ヴィオレッタよ」

 ヴィオレッタ様が挨拶をしたので、私も立ち上がって挨拶をした。

「アンネローゼです。生徒会の役員ではありませんが、アラン王子の婚約者になります」

 淑女として、完璧なお辞儀をした。さすがは公爵家の令嬢として生まれ育っただけはある。無意識にもきちんと動けるものだ。私は、自分で自分を褒めたたえた。

 主人公は、私のことを知ってる。と言う目で見たが、

「失礼いたしました。私はミュゼットと申します」

 主人公も、負けじとスカートをつまんでお辞儀をする。さすがは現時点での成績優秀者なだけはある。

「あー、あなたが平民だけど成績優秀者にエントリーされているって子ね」

 マリアンヌ様が感心したようにそういうが、ミュゼットがここに来た理由について、察したのか、目が笑っていなかった。

「その、成績優秀者の件について噂を聞いたものですから」

 ミュゼットは、聞きたかったことを口にした。それは、さっき私が聞いたばかりのこと。

 どうやら、ミュゼットはそれが本当なのか確認したかったようだ。1年生だけに広まる噂なのか?真実なのか。

 ちょっと待てよ?こんな時期に、主人公が生徒会室に乗り込んでくるイベントなんてあったっけ?

 私は記憶を手繰り寄せるが、記憶にはない。もしかすると、王子ルートを攻略すると、出てくるイベントなのかもしれない。だから、いるはずのない私が生徒会室にいても驚かなかった?

 私はドキドキしてきた。

 やっぱり、主人公は王子狙いなんだろうか?だとすると、私は悪役令嬢になってしまう。取り巻きが居ないけど、今この状況は、婚約者の私がいるのに王子に会おうなんて平民が図々しいのよ!って構図になっているのでは?

 私は後悔した。なんで、挨拶をした時に王子の婚約者なんて言ってしまったんだろうか。

「あれ、珍しいね。女子生徒がこんなにいるなんて」

 ミュゼットの後ろにルイスが現れた。ゲームとなんだか、雰囲気が違う。こんなに明るいキャラだったっけ?

「お客様がいるということかな?」

 その声を聞いた途端に、私は腰が砕けそうになった。なんて、イケボなんだぁ!

 私は、声のするほうを見つめた。ルイスの肩越しに王子が見える。見目麗しいのは置いといて、声だよ、声が素敵すぎる。もっと聞きたい。

 が、私の姿を見て、若干だが王子の顔が怖くなった気がする。多分、気のせいではない。

「アンネローゼ、なぜ君がここに?」

 ああ、なんだか怒り気味の声も素敵です。その声で叱られるのなら、私、平気で悪い子になっちゃうかも知れません。一瞬でオタクの妄想モードに突入してしまいそうだったが、あっという間に現実に引き戻された。

「はじめまして、アラン王子。ミュゼットと申します」

 主人公が割り込んできたのだ。


 いや、ゲーム的には主人公だからこそ、割り込んできたのだのかもしれないけれど。


「はじめまして、ミュゼット嬢。僕はルイス、生徒会の役員をしているよ」

 ルイスは、王子とミュゼットの間に立ちはだかったまま挨拶をした。この辺はゲームと同じで、ルイスは主人公に優しくない。

 王子は、ルイスの後ろで優しそうな笑みを浮かべているのだが、私にはその目が笑っているように見えないのだ。多分、さっき聞いた話からすると、王子はこの状況をよく思っていないはず。私が王子のいない所で誰かと仲良くしていただなんて!

 王子は、ミュゼットに挨拶もしないであちらの席に行ってしまった。そうして、そのまま書類に目を通し始める。これに驚いたのはミュゼットだった。挨拶をしたのに、王子に無視されたのだから。

「アラン王子、私の話を聞いてください」

 ミュゼットは、王子のそばに行こうとしたが、ルイスが立ちはだかる。

 そのあからさまな態度にミュゼットがものすごくムッとした顔をするのが見えた。

「邪魔をしないで頂けますか?」

 ミュゼットは、ルイスに全く、怯まなかった。この辺もゲームに、あってるな。

「ミュゼット嬢、アラン王子に御用があるのなら、きちんと筋を通して頂かないとこまる」

 ルイスは、あえて王子という言葉を強調した。

 ミュゼットは、ムッとした顔のまま、

「アラン様、私のお話を聞いていただけませんか?」

 ミュゼットは、言い方を変えて王子に食い下がった。そんなにも王子に確かめたいのか。これは、もう、主人公は王子ルート確定かもしれない。私も覚悟を決めなくては。

「ミュゼット嬢、どんなご要件かな?」

 王子は、完全営業スマイルだった。だが、名前を呼ばれてミュゼットの耳が少し赤くなった気がする。

「年末のダンスパーティーで、アラン様を指名しても断られる。と言うのは本当ですか?」

 本題を真っ向からぶつけていくとは、さすがは主人公である。感心してしまうが、それを私の前で聞くかな?

「噂を聞いたのか……そうか、君は今現在成績優秀者に名前を連ねていたね。そこにいるマリアンヌを抜いて」

 突然会話に巻き込まれたマリアンヌ様は、片眉を上げて王子を睨みつけた。1年生に負けて悪かったわねぇってことだろうか?

「そうです。私は今成績優秀者に名前を連ねています。このまま最後まであり続けるつもりです。努力は怠りません。そして、アラン様をダンスパーティーのパートナーに、指名したいと考えています」

 そこまで一気にまくし立てて、ミュゼットは一息ついた。ちらりと私を見た気がする。

「けれど、噂ではアラン様を指名しても断られる。と聞きました。何故ですか?」

 ミュゼットの必死さが伝わってきて、思わず応援したくなるんだけど、それをやられちゃったら私は悪役令嬢確定しちゃうんだってば!

 私は無意識にマリアンヌ様の腕を掴んでいた。告白とまでは行かなくても、ほぼそれだ。具体的な言葉を使ってはいないけれど、ほぼほぼそれに値する。それを、私は黙って聞いていなくてはならないのか?ちょっと待ってよ、王子は私の婚約者なんですけど?人の婚約者にそーゆー事、言う?言っちゃう?普通に考えてダメに決まってるじゃん。

「情熱的だね、ミュゼット嬢。ありがとう。 でもね、よく考えて見て欲しい。成績優秀者は1人ではないんだよ。複数いる。確かに、成績優秀者はパートナーを指名できるけど、指名した相手も成績優秀者だった場合、どうなるかな?」

 王子がなぞかけのようにミュゼットに問いかける。

 ミュゼットは怪訝な顔をした。

「指名した相手が、違う相手を指名していた場合、成立しないよね?だって、相手も成績優秀者なんだから、相手もパートナーを指名する権利がある」

 つまり、ヴィオレッタ様のように指名したい人がいなかったら言いけれど、指名した相手が違う誰かを指名していたら、一方通行だ。指名制が成立しない。成績優秀者を指名してしまった成績優秀者は、ごめんなさい。をされるという訳だ。

「アラン様は、自信がおありなんですね?」

 ミュゼットは、なおも食さがる。

「そうだね、僕は去年も一昨年も成績優秀者に、選ばれたよ。まさか、今年落ちるなんて考えたくはないな」

 王子は、不敵に笑うと話はそれだけかな?と言って再び書類に目を向けてしまった。

 ミュゼットは、唇を噛み締めて私を見た。怒りの矛先がこちらに来そうで怖いんですけど。でも、王子は悪くない。相手の意志を尊重することも大切なのだから、指名した人が別の人を指名していたら身を引くのも礼儀となる。

 もし仮に、成績優秀者が同時に同じ人を指名していたら、そこは3人仲良くすればいい解決策かもしれないけれど。

「分かりました」

 ミュゼットは、それだけ言うと生徒会室を後にした。お見送りは、ルイスがしてくれたようた。

「さて、アンネローゼ」

 王子は、書類に目を向けたまま私をよんだ。

 私は、完全に意識をしないで、マリアンヌ様の腕にしがみついていたのだった。

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