第11話 取り巻きよりもまずはお友だちです

 通例なら、王族の婚約者となっている令嬢は、なかなか社交界での社交がままならないため、学校のサロンや令嬢だけのお茶会などで交流を深めているらしい。

 だが、今回困ったことに、アラン王子は学校内で自分の許可無く私との交流を許さない。と、暗に話したらしいのだ。



 私が気にかけている校内ダンスパーティーでの一幕だったらしい。

 例年通り、成績優秀者が発表されるイベントは、表彰される通告を受けた時点でパートナーを選出する。基本的に指名された生徒は拒否ができず、ダンスパーティー開催中は他の生徒と踊ることは出来ないことになっている。

 現生徒会役員であるアラン王子は成績優秀者に選ばれた。去年も一昨年も。そして、表彰式に出席する際、ヴィオレッタ様にパートナーをお願いしたそうだ。去年も一昨年も!だがしかし、ダンスパーティーが始まると、申し訳なさそうに「急用が出来た」と言って帰ってしまったそうだ。

 そして、その本当の理由を今年、生徒会役員になってから、ヴィオレッタ様はアラン王子から聞かされたそうだ。それを聞いて、ヴィオレッタ様初めとした女子生徒たちからは、なんとも言えないため息が零れたそうだ。

 ずい分と、私の知らないところでは株が上がっているアラン王子である。

 しかし、貴族の令嬢たちは知っている、アラン王子が社交界に顔を出さないことを!婚約者を放置プレーしていることを!



「私ね、失礼ながら王子はダンスが苦手だと思っていたのよ」

 お茶を入れながら、ヴィオレッタ様が話をする。

「ダンスパーティーに不参加では、そう思われますよね」

 私は有難くお茶をいただきながら、相槌をうった。

「でもね、成績優秀者に選ばれているんですもの、ダンスだって当然お出来になるはずなのよ」

 ヴィオレッタ様は、柔らかい笑みを浮かべて私を見つめる。うん、そうだ。全ての科目において、成績が上位にいなければ成績優秀者には選ばれない。

「授業ではおどるわけですよね?」

 私は普通に疑問に思ったので聞いてみた。

「クラスが違うから、私は見たことがないのよ」

 ものすごく当たり前の事だった。

 そんな中、もう1人の生徒会役員である女子生徒がやってきた。平民だけど去年の成績優秀者にも選ばれたマリアンヌ様。そうか、生徒会役員とは、成績優秀者がなるものらしい。

「私は家が商家なの。こーいっちゃ悪いけど、下手なお貴族様よりお金だけはあるわよ」

 マリアンヌ様は、人なっこい笑い方をする。

「ちょっと没落気味の貴族の子息から、お付き合いを申し込まれたりもするけれどね」

 お金が絡む交際は、全て親が決めるから。と笑って教えてくれた。

「成績優秀者同士では、パートナーの指名は成立しない事がよくあるのよ」

 要するに、どちらも指名権があるのだから、相思相愛でなければごめんなさい。するしかないわけだ。

「ヴィオレッタ様は、特に指名したい男子生徒がいなかった?」

「そうね。いなかったの。だから、王子のお役に立てるのなら、貴族の令嬢として喜ばしいことでしょう?」

 ヴィオレッタ様が笑って言うので、私も笑うしか無かった。


 うん?


 どちらも、成績優秀者だった場合は、ごめんなさいが有り得る?

 じゃあ何故、ゲームの王子は主人公とダンスしたの?たまたま成績優秀者にえらばれなかった?いや、王子に限ってそれは無い。ないと思う。

「マリアンヌ様は、王子とダンスしたいと思わなかったんですか?」

 私は素朴な疑問をぶつけてみた。

「そりゃあ、ね。でも、恐れ多くてそんなこと出来ないわよ。身分の差がないのが売りの学校生活。とは言ってるけどねぇ」

 マリアンヌ様は、そう言うと、ヴィオレッタ様と顔を見合せた。いくらなんでも、王子にお願いは怖くて出来なわよねぇ。って

「私、頑張ります」

 私は、突然前のめりで言ってしまった。

「えーっと、何を?」

 ヴィオレッタ様が、子首を傾げる。

「私、成績優秀者になって、王子にパートナーをお願いしたいんです」

 それを聞いて、ヴィオレッタ様とマリアンヌ様は、顔を見合わせた後、「よろけないでよ」と笑ってくれた。

 私は1人、心の中で叫ぶのだった。主人公と踊らせないためなのよー!って


 若干、話に夢中になりすぎていたとは思うけれど、誰かが入ってきたことに気が付かなかったのは迂闊だった。

 私は生徒会のだれかだろう。と思っていたのだが、入ってきた人物が入口付近で立ち止まっている事に気がついたヴィオレッタ様が、椅子から立ち上がって様子を伺った。

「どちら様?」

 メイドさんがいないので、なにもかも生徒会の役員がやるのだが、ついたてに隠れたサロンスペースは、入口から完全に死角になっていたようだ。あちらも、こちらの様子がわからなかったらしく、ヴィオレッタ様をみてかなり慌てた様子だった。

 ヴィオレッタ様は、その人物をサロンスペースに招き入れた。

「こちらでお茶でも飲みながら待ちましょう」

 ヴィオレッタ様は、その人物の手を引いて椅子に座らせようとした。が、

「いえ、私は長居するつもりはなくて!」

 ヴィオレッタ様の手を振りほどこうとした人物は、主人公だった。

 なぜ、私のデビューにあんたが被ってくるんだよ!とは私の心の声である。

「アラン王子にお目にかかりたかっただけなんです」

 その瞬間、私は固まった。



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