第10話 取り巻きがいないとか、信じられません

 あれから、日記に書き加えられたのは、歴史と乗馬の家庭教師のこと。王族の婚約者に対するヤンデレ放置プレーのこと。

「設定が、ゲームと違すぎるわ」

 私は、書き込んだ内容を確認しながら呟いた。覚えているゲームの内容、設定、攻略対象について、主人公について、記憶が覚醒してからの事と照らし合わせてみるが、どうにも設定と噛み合わないのだ。

「そもそも、主人公の性格が違いすぎる」

 可憐で、天使のような、聡明な、美少女。

 第一遭遇した時の主人公は、全く別人だった。ガサツで、礼儀作法がなってなくて、とてもみんなが憧れる成績優秀者とは思えない言動。

「あの、第一声は、明らかに私を意識していたとしか思えない」

 私のフルネームを、顔を見るなり言い放ったのだ。同じ制服を着ている女子生徒を、すんなり特定できるとはなかなかないだろう。確かに、現代日本の高校なら、ほとんど黒髪だから、髪型とか何かしらの特徴が必要だけど、ゲームの設定は設定。毎日同じ髪型するわけが無い。社交界の髪型とか、学校に来る時の髪型は別だ。

 髪色の特徴はあるかもしれないけれど、ゲームの設定イラストと私の髪型は違う。もちろん、制服は着ていたけれど、貴族の令嬢はみなパニエをはいてスカートを膨らませて、タイを止めるピンに豪華な宝飾をしている。ゲームないではモブ扱いの生徒たちだって、実際はそこら辺を歩いているわけで、同じ髪色はうじゃうじゃいるのだ。銀髪はさして珍しくもない。

「明らかに、私の顔を知っていた」

 しっかりと、私の顔を見て叫んだもの。

「まさか!」

 私は、1番恐れていた事を思い出した。

「主人公も転生者?」

 だって、あの事故に巻き込まれたのは私と貴志だけじゃなかった。他にも同じ高校の生徒が巻き込まれていたはず。

「可能性は限りなく高いわよね」

 そして、なにより恐ろしいことは、名前も知らない同じ高校の生徒に、同じゲームをやりこんでいる人がいた事だ!

「私は一周しかしてないのに」

 あの感じからすると、主人公はやりこんでいる。もしくはネットで攻略ルートを調べている。だからこその成績優秀者。

「狙いは誰だろう?」

 このまま行けば王子のはず、でも、放課後に乗馬の練習をしていると乗馬クラブのエースであるアリオンが出てきたはず。図書館で自習をしていれば、生徒会の1人ルイスが出てきたはず。ほっといてもいるのが同級生の平民であるカール。もしくは同じクラスの貴族の子息アルフレッド。

「隠しルートを、開いて攻略対象を増やしているとか?」

 噂では聞いていたけれど、確定要素が分からない攻略対象が二人いたはず。

 たしか、1人は王子の側近候補マルコス。大臣の息子だから成績は優秀で、一緒に生徒会もしていて王子に近づく女子を追い払う嫌な奴だった。

「もう1人は誰だっけ?」

 ネットで調べて読んだんだけどなぁ、思い出せない。たしか、マルコスと同じで、誰かの脇に控えているキャラだったんだけど……



 翌日、 私は、ついに念願の?サロンにデビューした。

 とは言ってもお昼休みに行ってみたのだ。リリスも行くと言っていたので、リリスに付き添って貰うような形にはなったけれど、リリスは的確に私のサロンデビューを支援してくれた。さすがは公爵家のメイドさん、誰が使っているサロンか把握していて、伯爵令嬢ヴィオレッタ様のサロンに連れていってくれた。

 ヴィオレッタ様は生徒会の1人でもあり、女子生徒から信頼もあつい方だった。

 私がサロンにやってきて、挨拶をすると、

「こちらにどうぞ」

 と、さりげなく自分の隣に私を座らせてくれた。

 ヴィオレッタ様のサロンは、小さな社交界になっていた。毎日日替わりで令嬢たちが入れ替わって、たわいもない噂話をしているらしいのだが、それがとても重要なのだ。

 社交界デビューしたはずなのに、王子の婚約者というせいで、王子が同伴でないとパーティに参加出来ない。と言う縛りプレーのせいで、呼ばれて行ったのに待ちぼうけをさせられる。会場にいるのに、居ないことにされる。とか、もう、いじめじゃん!

 私だってお友だちが欲しいのよ!

 それとなーく、ヴィオレッタ様に探りを入れてみると、やはり知っていた。この間の夜会に、ヴィオレッタ様も来ていたのだ。そこにいた令嬢たちは、今日こそ私に会えると思っていたのに、肩透かしにあった。と噂話をしていたそうだ。そして、王族の婚約者に課せられた謎のルールを聞いて、自分たちには務まらない。と私を尊敬してくれていたらしい!

 凄い!意図しないところで私の評価上がってる?

「えーっと、それはつまり……」

 私は若干頬が引きつった。

「うふふふふふふ」

 ヴィオレッタ様は、微笑んでみなまで言ってはくれなかったし、言わせてくれなかった。周りの令嬢たちも、当たり障りのない言葉を選んでいるようだし……なんとなーくだけど、お話はしたいけど、なんか気まずい。そんな雰囲気が漂っている。

「ゆっくり、お話したいわよね?」

 ヴィオレッタ様が、周りの令嬢に目配せをした気がする?すると、令嬢方は扉をそっと閉めたのだ。

「?」

 私は、よく分からなかった。扉を閉める意味とは?

「アンネローゼ様は、王子の婚約者でいらっしゃるでしょう?」

 扉を背にした令嬢が言う。

「本来なら、こういった非公式のサロンで交流をしていくものなのよね」

 ヴィオレッタ様は、優雅にお茶を飲みながら言った。

「でもね、アラン王子はそれさえも……」

 令嬢たちがコクコクと首を縦に振る。

 私は、決して察しの悪い方ではない。と、思う。思うので、このサロンにいる令嬢たちが何を伝えようとしているのか察してしまった。ヤンデレが強すぎる。

「ご迷惑をお掛けしてしまうのですね」

 私は深いため息をついた。なんてこったい!このままでは、悪役令嬢の破滅エンド回避なんて話より、もっと悲惨なエンドを、迎えてしまうでは無いか!

「だから、ね。アンネローゼ様」

 ヴィオレッタ様は、とんでもない提案をしてくれた。



「リリス、これで正解なのかしら?」

 私は、昼休みのサロンで、ヴィオレッタ様に提案された通り、放課後に生徒会室を訪問することにした。


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