第9話 個人レッスンはヤンデレですか?ツンデレですか?
本当は、家庭教師たちとランチをしている時に、ものすごくいいことを思いついていたのだ。
おともだちを作ろう大作戦!
すなわち、私アンネローゼに、おともだちを作る作戦なのだ。悪役令嬢なのに取り巻きがいないとか悲惨すぎるし、破滅エンドを迎えた時にぼっちとか救われない。未来の王妃たる、王子の婚約者である私とおともだちになりたくないわけないのよ!王族のヤンデレ放置プレーのせいで、社交界でおともだちを作るのは難しい。そうなると、非公式の催し。そう、サロンでのお茶会。しかも、学校なら身分の差はないから、声をかけてもらえるのだ!
幸い私は1年生。右も左も分かりません。って顔をすれば上級生がきっと手を差し伸べてくれるはず。学校のサロンでおともだちを作って、自宅のお茶会に誘い誘われの中にまで発展させる!これなら、王族のヤンデレ放置プレーも関係ないもんね。
って、思っていたのになぁ
現実は甘くなかった。ヤンデレ王子が本当に手取り足取り乗馬を、教えてくれるのだ。サローネと同じ方法で!
背後から手を回して、耳元で囁く甘い声。
くーっ、私王子の声優さん推しなのよね。たまらん、たまらんではないか!僕を感じて馬と一体になろう。とか、僕と呼吸を合わせて馬を操ってとか、後ろからのハグ!本来なら鼻血が出そうな程に興奮するのだけれど、私は公爵令嬢、そんな恥ずかしい真似はできない。
「どこみてるの?」
私が少しでもよそ見をしようものなら、すぐさまチェックが入る。
放課後とはいえ、ここは学校。平民の生徒が乗馬の個人練習で何人かいるのだ。その生徒たちは学校でしか馬に乗れないのに、とても上手に馬に指示を出している。成績優秀者になるためには、いわゆる馬術競技的な所まで到達しなくてはならないのに、王子は私に何を教えるつもりなんだろう?そもそも、王子はどれくらい上手いんだ?
最初はちょっとお尻が痛いとか思っていたけれど、慣れればなんてことは無い。王子の言い方はアレだけど、馬と一体になると言うのはなんとなく分かってきた。
「さっきから、何を見ているの?」
王子の後ろからのハグがキツくなった。顔が近い。このままではキスが出来そうだよ。
「あちらの生徒たちがしているあの、障害物競走みたいなのはやはり難しいのでしょうか?」
私は、顔を精一杯王子から遠ざける姿勢をとって答えた。とにかく近いのだ、私の視界を自分の顔で埋めつくしたいのか?
「ああ、それはやはり人馬一体というのが求められるよね。呼吸が合わないと馬が障害物に足をぶつけて転倒してしまう」
「王子は3年生ですから、ああいったことは授業でなさるのですか?」
私は聞いてみた。あちらを眺めいたのは、あの人に興味があったのではなくて、王子がやったらどんなに素敵でしょう。と想像していたんですよ。と言う言い訳だ。
「それは、 もちろん 」
うん、なんだか返事におかしな間があったけど?
「そうだね、やってみようか」
やってみる、とな?王子、どゆこと?馬、2人乗りですけど?私だって分かるぞ、2人で乗ってるんだから、それなりのスピード、つまり助走が必要なことぐらい!
王子が突然馬を走らせたので、他の生徒たちは慌てて進路を開けていく。
いやいや、王子オーラ出しすぎでしょ、そこのけそこのけになっちゃってるよ!つか、ヘルメットも被らずにこのスピードはヤバくないか?
私は身構えたかったが、体制的にそれは出来なかった。王子にしっかりホールドされて、前をしっかり見据える体制になっている。王子の握る手綱は、私も握る手綱であって、本当に王子と一体になっている感じがする。王子が手綱と鐙で馬に合図をすると、馬は綺麗に障害物を超えて行った。
フワリと体が浮く感覚、頬を撫でる風、耳元に聞こえる王子の息遣い。ほんの、一瞬の出来事だったのに、永遠にも感じるぐらいだった。
馬が着地をした衝撃で我に返る。
ああ、なんて素晴らしい。
私は乗馬の魅力に取り憑かれてしまった。
「困ったな」
耳元で王子の声がする。
私は我に返って王子を肩越しに見た。
「そんな顔、他の奴らには見せられないな」
私は、一体どんな顔をしているのだろう?
「サロンにも行きたかったのに」
帰りの馬車で私はため息混じりにそういった。
乗馬の練習が終わって、休憩がてらサロンに行くつもりだった。ちょっとしたお茶とお菓子が常に常備されていると聞いていたからだ。リリスとロバートも、私が授業中はそこにいたりするらしく、令嬢が連れてくるメイドさんたちの情報交換の場にもなっているらしい。
行きたかったのに、王子に阻止された。
理由は、乗馬後の私の上気した頬。そんな顔の私を誰にも見せたくない。からなんだって……
結局、休憩のお茶は厩舎の横でとることになった。リリスが慌ててサロンから懲りてきてくれたのだ。王子のワガママに振り回されるのは、婚約者の特権らしい。
「明日こそ、サロンに行くわ」
私は拳を上げて決意する。
「行けるといいですねぇ」
リリスはきっと無理です。と小声で言うのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます