退治の日—炎
土管の上で見下ろしながら、
「で、おまえらはおれとたたかいたいのか? 」
クレオは聞いてくる。金髪、グラサン、アロハシャツで、身長恐らく120cm台のクレオは聞いてくる。
だからここには海は無ぇのに。
「いや、そういう訳じゃあないんだが」
俺はそれを否定した。否定したのだ。そうすると、
「あ.........。やらかしたわ」
アナはそう言って、直ぐに装具展開する。これはまずいパターンか。
「くくく」
クレオは笑った。そして、深呼吸をして、
「はっ! 」
クレオが喝を入れた瞬間、俺は腕を盾にして守ったが、驚いて目をつぶってしまった。
「なんだ.........これ」
次の瞬間、目を開けると、辺りの住宅街全てが破壊され、野原となっていた。見渡すと、破壊されたであろう住宅の破片が少し散らばっていて、数キロ先くらいにやっと残骸が見える。
「どうだ? すごいだろう? 」
「お前.........! 」
数キロと言ったら家うちも含まれている。というかニコもアブァも.........。
「『増長』! 」
俺は右腕と右脚に力を入れる。
精一杯の怒りと悲しみを込める。
「『強制解除キャンセル・アイ』」
アナは俺の肩に手をそえて唱える。
俺の貯めた力が無くなっていく。
「お、おいお前。何を.........」
俺はアナの手を払い、もうそろそろ泣きそうな顔で言う。この感情を怒りに変えなければ勿体ないほどに。
「ねぇ。おかしいと思わない? 」
「何が.........だよ」
少し出てしまった涙を拭きながら言う。
深呼吸をして、落ち着ける。全然効果がない。落ち着かない。泣きたい衝動はもう薄れたが、辛い。辛い。辛い。
「だからおかしいでしょ。喝で、こんなに吹っ飛んだ
はずなのに私達はこうやって生きているのよ? だから
ここはリアルじゃないと考えるのが先決よ」
「.........は? 」
「おまえ、それではおもしろくないだろう。べつにお
れさまはおどろくかおがみたいのだから」
意味がわからん。現実じゃない? 瓦礫はあるけれど、地面はあるし、ここが日本の証明をしなさいと言われてもそれは無理だが、異世界は考え方がぶっ飛びすぎている。
「異世界じゃないのよ? ここは。造られた世界。カメ
オの想像ならぬ創造の世界」
「.........」
鬼は鬼でも小鬼よ小鬼。と、アナは言う。
小鬼って.........。まぁ容姿も、行動もいかにもガキだ。餓鬼ではないけれど。
「どうするんだ? たたかうのか? いや、いいや。おま
えらがかったらなかまになってやる。でもまけたら
おれはおまえらのいのちをもらう」
「分かりやすくて結構。それでいいわ」
「えと、で、帰れるの? 」
「だから、死ぬか帰るかでしょ? 」
「.........」
勝つしかないな。鬼を倒す。鬼退治。
別に簡単とも難しいとも言えない。相手の見た目がガキだからか、少し勝ち目を感じてさえいた。
「おいおい。なめられちゃあこまるなぁ」
次の瞬間、アナに無言で俺は突き飛ばされる。俺は生身の状態で地面に叩きつけられる。
「痛ってぇな」と、小さく呟いて俺は起き上がると、鈍い音がした。擬音にしたくないくらいの酷い音だった。
振り返ると、血が飛び散っていた。
「ア、ナ.........? 」
理解出来なかった。アナの胸には鬼—カメオの手が刺さっていた。それも、貫く形で。
「ふははは! 弱い! 弱いなホムンクルス! 」
甲高く鬼は笑う。俺達の未来は絶望的なのに。
「かはっ」
その貫いた腕をカメオは抜き、アナは吐血する。綺麗で、1番見たくないものを見てしまった。アナは勢いで倒れる。死んだように。
「どうしたにんげん。はんげきもいいだろう。 くるが
いい」
クイ、クイッと煽ってくる。
しかし、俺はそんなことを気にせず直ぐにアナの元に駆け寄る。何とかしないと。そんな考えなしの感情によって俺の脚は動く。
「おいアナ! しっかりしろよ! 」
「ニク.........ス。私は殺されたのよ。構ってないで、さ
っさと.........。かはっ。戦闘しなさいよ。くふっ」
アナは吐血を続ける。
「おい.........。おい! 死なれちゃあ困るんだよ! お前
が居ないと勝てないだろ! いつものように笑って冗談
言えよ! 言えよ、言えよ.........。代わりは居ねぇんだ
ぞ.........」
苦しい。痛い。辛い。もう、涙で目の前も見えない。
「ねぇ、その力はなんのためにあるの? 」
そんな言葉が聞こえてきた。アナの声ではない。
「その力でなにをしたいの? 」
俺の力.........? そんなものあるはずがない。
「その力で何が出来るの? 」
何も出来ない.........。アナを看取る以外には。
「君は何者なの? 」
俺は桐山ニクス。高校生で、別にそれ以上もそれ以下もない——ただ不死である。
死なない人間だ。そして、鳥だ。
「そうだ。俺は不死の象徴だ.........」
物は試しとはよく言ったものだ。
俺は近くにあったアナの槍を手首にあてる。静脈を切る。動脈を切る。手と腕を切り離す。血が出る。噴水のように。これこそ不死の象徴。不死鳥の血。俺の神具で、俺のしたいこと。これをアナの胸に流し込む。生き返るかは分からない。けれど、しなければならない。患部にドバドバ流す。これもまた聞きたくはない音だった。
奇跡だった。もしかしたら当たり前かもしれない。アナの身体に空いた風穴はみるみる塞がっていった。
「アナ.........」
アナの頬を撫でる。涙が彼女の頬や、俺の手に落ちる。あれ? 力が入らない。横に倒れる。血が足りないのかな.........。まーた死ぬのかよ.........。
アナは意識を取り戻したようだった。直ぐに起き上がると、
「ニクス.........? て、え? ねぇ! 」
「よかった」
俺は最後に笑った。笑えたはずだ。
そして、俺の意識は無くなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます