退治の日—焱



「ニクス! ニク.........ス.........」


目の前でニクスの身体は燃えるようにして消えた。ガラス瓶の中の酸素に火を近づけたように、大きく、熱く、一瞬にして燃えた。直前にニクスは笑っていた。


「ねぇ、どういうつもりよ。ニクスを直接では

なくても殺したアンタは許さない」


私は持てる全力で睨みつける。

装具展開—アテナ。

金色の槍を右に、イージスの盾を左手に。アブァさんに教わった通りに構える。


「おー。おれさまとたたかうか。ぜんかいのつ

よさからはかくだんにあがったおれさまをか

てるのか? 」


「奥の手を使うわ」


「ほう.........? 」


「『衝撃波ショックウェイブ』! 」


心臓を狙ったが、かわされる。ギリギリでもない。余裕を持ってかわされた。


「そんなていどか? 」


私は青く透き通った琴をバッグから取り出す。タラランと軽く弾く。


「『宣戦布曲プレリュード』」


自らを鼓舞する歌。力が湧く。ニクスの『増長』には及ばないけれど、身体能力を上げられる。

それは、一昨日、私はアブァさんに魔力によって琴を作ってもらった。


「それはね、杖のようなものだよ。僕にマジカ

ルソードがあるように、魔力を介することに

よって道具によって新たな魔法が使えるよう

になった訳だ。あ、そういえばね、こんな曲

が流行って.........以下略」


とのことだった。

別に欲しいと言ったつもりもなかったけど、


「音の女神様みたいでいいじゃないか」


と、流石マーリンといった女たらしが分かりやすく伝わった。

女性関係で、理想郷アブァロンに幽閉された伝説の女たらし。天才魔道士としても有名だし、私達の目の前にいるのは剣の達人。どれをとってもマーリンなのだが。

現実に戻ろう。


「おまえ、そのていどでかてるとでも? 」


確かに辛い。勝てる確率は低い。とても低い。でも、勝たなければならない。


「勝つつもりだけどね」


「ほほう。たのしませろよ」


カメオは力が抜けたかのように倒れたと思った瞬間、高速で私の間合いに入ってくる。


「♪〜。くっ」


戦線布曲による身体能力向上は以外に効果が大きく、素早く、よく跳び、力強かった。1歩下がったつもりが1メートルほど下がっていた。

ニクスはどれほど跳べるのだろうか。


「ははっ」


不敵な笑。やめてほしい。とても苦手な気持ちの悪い笑い方だ。

また襲ってくる。次は私の懐まで入られた。


「『高速連打バトラッシュ』」


1発目をイージスの盾によって守ったが、その一撃の重さはイメージと違った。


「♪〜。かはっ」


その衝撃は盾を通じて、体に染み、その勢いは私の身体を吹っ飛ばした。

ここが何も無い野原だったのが幸いだ。3秒も滞空していれば勢いは落ちてきた。

彼はもう既に私の目の前にいた。


「おいおい。おれさまのいちげきをたてでうけ

てわれなかったのはほめてやろう」


「♪〜。ふふっ。かはっ。ありがとう.........」


血反吐を吐いてまで言う言葉ではなかったが、言わなければ私は勝てる気がしなかった。己を鼓舞しても勝てない。全力を、持っても勝てない。

私は座り込む。もう力が上手く入らない。


「まだほざくかホムンクルス。かてるはずかな

いだろう? このおれさまにな」


一瞬にして目の前に来たが、攻撃はしてこなかった。.........よし。


「♪〜。ねぇ、そろそろなんだけどどうかし

ら? 私の曲が効いていれば、眠いんじゃない

の? 」


『子守唄』。そのままの能力。聞けば聞くほど眠くなる歌。それを小さい子供に聞かせたらどうなると思う? 寝るしかなくなる。眠過ぎて考えることも出来なくなるだろう。


「な、なんのことだホムンクルス? 」


「『強制停止スタン』」


透明な鎖が全ての行動を制限する。


「!!! 」


「眠いんじゃないの。もう精神はお眠だからこ

んな簡単な魔法の類に引っかかるのよ」


いやー危なかった。あと接近が数秒でも少なければ『強制停止』が聞かない可能性が高かった。

首が落ちた。どうやら気絶したらしい。


「ふぅ」


とりあえず座り込む。どうしようかしら。別になにかする訳でもないのだけれど。


「あ、やば」


バッグの中に琴を詰めようとするとあと少しで私の魔力媒体はなくなってしまうところだったことに気づいた。既に3つは使っているのだけれど。


「どうやって帰ろうかしら.........」


——


ここという場所を整理すれば恐らく、カメオの創った世界と考えるのが先決だろう。


「『解除キャンセル』」


消えない。魔力で創った結界ではないみたいだ。それであれば簡単に壊せたのだが。


「『衝撃波』」


全力で打ったのだが、空をきるばかりで効果はないようだった。


万事.........休す。


——


急にガラスが割れたようにして結界の1部に穴が空く。銀髪白装束の男性が入ってきた。


「やあ。アナ君」


笑顔で右手を振っている。


「『やあ』じゃないわよ。あ、でもありがと

う。よく分かったわね」


「ちょっとした魔力痕がこの道を示してくれた

んだよ。じゃあ、帰ろうか」


ええ。と、私は答えようとしたが、少し違和感がある。


「ニクスはそういえばどうやって復活してるの

かしら? 」


「うーん。分からないねぇ」


この前は落ちた先で復活したと言っていた。

最初はどうだったのだろうか。でも、殺した翌朝、コンビニ前に救急車が止まっていた記憶がある。


あーそれね。あの時に復活してた訳だ。


「じゃあ、あと何時間かすれば復活するはず

よ。ねぇ、待ちましょうよ」


「じゃあ、僕はこっちの鬼を.........」


アブァさんの伸ばした手を私は即座に叩く。


「やめなさい。その子は小さくても「天邪鬼」と

いうれっきとした鬼よ? プライドは高く、力

は強く、脚は早い。いわゆる小鬼でも、気高

く生きてるの。卑怯な真似は許さない」


私は強気で出たが、アブァに実力で勝てるはずがないのであまり意味はなさなかったのかもしれない。


「厳しいねぇ」


「クズがなにを言ってるのかしら? 」


私は平坦に言う。悪口に感情を込めたら痛いだけだからだけれど。


「厳.........しい.........ねぇ」


上手く心に(痛い方で)刺さったようで、反応が面白い。


「ふふっ」


思わず笑ってしまった。


「ははっ」


アブァさんもつられて笑う。


「「はぁ.........」」


「.........」


「.........」


話題がない.........。






あー居づら。


ニクス早く帰ってこないかな.........。

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