攻撃の日



朝8時起床。狭いが、昨日は敷布団で寝た。まぁアナの横で寝てもいいのだが、朝のラッキースケベは悪い思い出しかないので、ベッドの隣に布団を敷いた。

カーテンを開け、部屋に日光を取り込む。


「いい朝だなー」


1度も言ったことは無かったが、なんか言いたくなった。アナにでも聞かれたら.........。


「ニクス.........。明るい.........。閉めて.........」


目を擦りながらアナは言う。


「聞いてたか? 」


俺は振り返って言う。少し焦る。声も少し裏返った気がした。


「なんのことよ.........。じゃ」


アナは布団にもぞもぞ潜り込む。


「いや、起きろよ」


アナは時計を確認してから、


「まだ8時だよ.........」


「だから起きろって、の! 」


俺は布団を「バサッ」と剥ぐ。コイツは日曜日の会社員か。


アナは諦めて起き上がる。


「おはよう。昨日はありがとう。寝ちゃった」


珍しく素直だった。

いや、コイツはツンデレって訳でもないが、昨日くらいにとぼけてゴリ押しされそうになった身としては素直に感じた。


「どういたしまして」


アナは両手を広げている。


「? ハグでもして欲しいのか? 」


「ち、違うわよ! おん.........。まぁいいわ」


顔を赤くしてアナは部屋を出ていった。怒っていたようだったので、俺は何か悪いことしたと思われる。まぁ全然心当たりないけれど。俺は別に部屋に居る理由がないので、後を追うようにリビングに向かった。


「おはよう」


「お、兄ぃ。おはよう」


「ほはほぉー(おはようー)」


またこの男は.........。どうしたらそう顔が上手く喋れないように腫れるかな.........。


「今日は何をやらかしたんだよ」


「ふふーひへぇへぇははへはほ(ふつーにねてただけだ

よ)」


「いや違う! 兄ぃコイツは罪人だ。朝、私の部屋で寝

てたんだよ!? 」


「あー。えーと、まぁそうだな.........」


俺はどうすればいい。昨日、俺はあいつに許可を出してしまったのだ。責任を取るべきだが、あいつと同じ顔になるのは御免だ。でも嘘をついてまで喋るのも気が引ける。


「えーと、昨日俺の部屋に皆で寝ようかと思って、ア

ブァにお前を読んでこいと言ったわけだ。でも、お前

はあの能力のせいで、あいつを気絶させてしまったん

じゃ? 」


適当に話を作る。まぁ有り得そうで、ニコにも非がある話を作った。


「どうしたの? 」


「アナさん。罪人は罪人だよね? 」


最早アブァさえも言わず、罪人呼ばわり。酷い。けれど、7割くらいは俺が悪いことも理解していたので、俺の心にも罪人という言葉が響く。胃が痛い。


「そうね.........。ていうか覚えてないの? 昨日、ニコ

ちゃんに降りていた人のこと」


「記憶が無いとは言いきれない」


ぺ〇ぱかよ。まぁそれも、悪くないだろう。


「何かされたのか? 」


率直に聞く。


「いや、何もされてないし、何もしてないよ」


「ん? 何もしてないのか? 」


ニコは首を縦に振る。


「はははひっはへほ、ほふははほほひはひほはふひほ

ほはひへはひ(だから言ったでしょ、僕は彼女になに

も悪いことはしてない)」


「なるほど(察し)」


確かに悪いのもアブァだし、被害を受けたのもアブァだから今回は誤魔化してあげよう。


「まぁ今日は訓練だからさっさとご飯作るけど何がい

い? 」

話を無理やりでも変えてみた。

誤魔化せる確率はとても低いが、俺の思考力で浮かんできたのはこれだった。


「私、卵かけご飯ー」


「どうしようかしらね.........。スクランブルエッグかし

ら」


意見が割れた。2人は睨み合う。


「それはないでしょ、いくらアナさんでも、卵かけご飯以外に朝の卵料理はないでしょ」「いやいや。そんなことないわよ。ケチャップの味付けをしたスクランブルエッグはとても美味しいのよ」「朝は.........」


なんか思わず、朝の卵の使い道論争になってしまった。まぁ結果オーライではあるが。


「いや、僕は卵焼きかな」


どさくさに紛れて『治癒ヒール』使ってるんじゃねぇよ。そして論争に加わるな。


「「うるさい! 」」


女子って怖ーな。と、痛感させられるハモりだった。


——


結局、朝は3人の間? を取って、だし巻き卵にした。喜んで食べてくれた。まぁ、無言だったけれど.........。


「今日はどうするんだ? 」


俺はだし巻き玉子をつまみながら言う。

話題が無かったので、とりあえず聞いただけだが。

アナは「コトッ」と、飲んでいた味噌汁をテーブルに置いて、


「そうね.........。今日こそ、乗り込んでみる? 」


「僕はそうだね.........。誰が相手かくらいは知っておき

たいかな」


「具体的にどうするんだ? 」


「さぁ。結論は乗り込んでみるのが早いんだけど、出

来れば戦闘は避けたいところだ。1人ならまだしも、3

人も初心者を抱えてられるほど僕は容量良くないから

ね」


1人なら抱える余裕あるのかよ。凄いな。


「なになにー? 作戦会議? 」


「どうするんだ? こいつは連れていくの面倒かつ、そ

れこそ強くないぞ」


ニコを俺は指差す。

僕はどうなんだと言われると、反論に困るけど.........。


「そうね。乗り込むんなら、今日は宣戦布告だけでい

いんじゃない? 」


「いや、お前それ以外なにをイメージしてた」


「バトってwin-winよ」


「どちらも喜ぶ勝敗なんてないだろ」


とりあえず、バトってwinて.........。それは脳筋が考えることだろ。


「そうだね。今日はそうしよう」


「私は? 」


「ニコか.........。一般人代表で来てもらって、バトル出

来ないようにするか? 」


やはり、見られたらいけないというのは大きな足枷となっているのだろう。


「ニクス。貴方最近物騒ね」


いや、お前らに言われる筋合いはない。


「じゃあそうと決まったら行こー! 」


——


着いた。外見を見てひとつ。


「なぁニコ。この道場、広くなってないか? 」


「そうかな? 」


「・・・・・・」


いや知らねぇし。なんかもう1文くれ。ボケでいいから。


「入らないのかい? 」


「いや、入るんだがな。心の準備が.........」


と、会話のうちに出てきたのはもちろん、道場主で、剣の師匠。


「おおーにっくん。久しぶりだねー」


小谷 小五郎だ。


——


小谷小五郎。別に普通の道場主。先生で師匠せんせい。痩せ型。身長は低め。160ないくらいだ。年齢を詳しく聞いたことは無いが、65歳にいったかいってないかくらいの年齢だった気がする。それも、数年前の話。今はいくつだ?

別にこの人は剣道を真面目に教えている時以外は普通におじいちゃんしている........らしい。孫が3人もいるとニコに聞いた気がする。自称、「世界一の剣道バカ」。自称バカはそれだけでバカだ。

性格はメリハリが凄い。優しい時と鬼になった時では同一人物とは思えないくらいの差がある。性癖はロリコン。孫が男しか居ないせいかもしれないけれど。


——


「で、今日はなんでまたこんなとこに? そこの2人は

外人さんぽいね。どうです? 体験していきます? 」


調子いいなこんちきしょう。はよ死ねばいい。


「いえ、今日はお話をしに来たんです。中に入れても

らっても.........」


「ええ。いいですよ。あーでも、夏の間は道場が暑く

てしょうがないんですけど、家の方に行きませんか? 」


——


「ニコちゃん。ちょっと席を外してもらえるかしら? 」


「はーい。ししょー。道場の周りを駆け回っててい

い? 」


「おー。いいぞ。気をつけなさい」


軽いな。いつものことなのかもしれないけど。


「あなた方。ニクス君も含めて能力者ですね。どうし

たんです? 討ちにでも来ましたか? 」


理解が早いな。てかモロバレだったわけだよな.........。情報格差で負けそうだよ。てか既に負けてるよ。


「いいえ。今日は2つ、用があってきました」


「と、いいますと? 」


「ひとつはあなたにこっち側に着いてもらおうと思っ

たのですがどうでしょう? 」


おおー。強気。最早仲間にとは。予想外だ。


「それは私としてはやってもいいんだが、私にも願い

があってね」


ちなみに今、アブァはどうしているかと言うと、道場の中を調べてる。らしい。


「それは.........自然を壊す人間共でも一掃できればいい

のだけれど」


「え——」


そとの綺麗な庭を見ていたせいで、よく聞こえなかった。よく聞いてなかった。


師匠の家の玄関が勢いよく空く。


「アナ君! ニクス君! 逃げるんだ! 」


ニコを抱えていた。てか人一人持って他人ひとの心配なんて余裕かよ。なんて言ってる俺も余裕なのか。


「やはり、ニコもグルだったか」


よっこらせと、立ち上がる。ジジイの独り言。


「急げ! 」


「ちょっと、おい! 説明! 」


「してる暇あったら僕はお茶でも飲んでるよ」


アブァは左脇にニコ、右手に剣を構えて真面目に答える。


「いい方法あるのかしら? 今、雨戸から逃げようとし

たら鎧が動いていたわよ」


おい。俺のことはいいのか。自分の身は自分で守れと言うけれど、そんなにあからさまじゃなくてもいいのでは?


「周りを囲まれたようだね.........」


「.........」


負けた.........。


「とりあえず、申し訳ないが死んでもらおう」


鎧は家の中に侵入。

否。

追撃をしては来ないが、ジジイは側に飾ってあった日本刀を取っていた。


「戦争の負けを認めるか、今ここで死ぬか。2つに1

つ。選べ」


おいおい、老いぼれがアドレナリン出してんじゃねぇよ。


「退却ね。これは勝てないわ」


「退却って.........。どうすれば」


考える。八方塞がり。四面楚歌。仲間は近くにいるけれど似たようなものだ。


「ニクス君。『増長』で逃げよう。時間稼ぎは僕が。

『霧ミスト』」


マジカルソードから白いもやが出てきて、辺り一面が霧に包まれる。


「アナ君。穴を」


「分かってるわよ! 『衝撃波ショックウェイブ』! 」


大きな音とともに埃がまう。天井に穴があいたのであろう。


「なにをしておる」


甲高い鉄と鉄の接触音。剣と剣がぶつかり合う音か?


「この人は僕が止める。準備出来次第教えてくれ! 」


あれ? そういやニコはどこに.........。


地面を這って探す。


「いた。アナ! アブァ! 来い! 」


『増長』。足に力を集中させる。アナを右脇、ニコを左脇に抱えてアブァは腰に捕まる。


「とう! 」


地面を思い切り蹴る。そうすると何が起こるだろう。普通は上に飛ぶであろう。それはただの予想でしか無かった。

地面が崩れる。勢いが上手くつかない。気づけば床に少し埋まっていた。


「ニクス君! ダメだ! 早く! 」


「分かってるよ! 」


にしても、下が空洞とはな。どんな得があってこうなってるんだよ。


「『重力×½』、『増長』! 」


次はちゃんと地面に足をつけて、深呼吸。霧が晴れてきたな。不味い。それでも止まれるはずは無く俺は飛んだ。


「大和流『薙ぎ払い』」


俺達は空に浮く。ニコは気絶していたので、とりあえず、抱えてある。アナは、


「キャー! 」


元気そうでなによりだ。ここが空でなければだが。


「ニクス君。来世また会おう」


「俺は会いたかねぇよ! どうするんだ? これは死なね

ぇか? 」


アブァは空中で腕を組み考える。あれ? 何だろう。意識がかすれる。そういえばあの剣技、「薙ぎ払い」を俺は避けたつもりだったが、足の感覚って.........。


「そうだね.........。下はとりあえず、森のようだ。着地

点はいいとして.........。ニクス君! ニクス君! 」


ーーーー


ここは、どこだ? 私は、ニクスだ。いやそんなことはどうでもいい。白い部屋。正しくは白い空間。似たようなシチュを体験したばかりな気がする。あれはなんだ? 火の塊か? 近づいてくる。ああ。前回死んだ時だ。あの鳥だ。「不死鳥フェニックス」。死の間際、自分を燃やして灰と化し、またその灰より復活する。


「・・・・・・」


俺は燃やされる。熱い。熱いけれど、何かを言う気力もない。復活の儀が燃やすことなんて、矛盾しているように感じるが、不死鳥にとっては正しいのかな。


「ーーーー!!! 」


炎の中に人影がある。1度振り向いた気がしたか、顔は確認できなかった。


「おい! おい! 」


炎の中に消えていった.........。誰だったのだろうか。そんなことを考えていると、いつの間にか、意識が途切れた。


——


起きると、仰向けに寝ていた。腹筋を使って起き上がり、少し深呼吸をする。


「・・・・・・? 」


ここは、どこだ? いやマジで。森なのはわかるんだけどさ。俺はさっき、落ちて.........。落ちて、あれ? どうなったんだっけ? あの世界に行ったってことは死んだっていうこと。あとはなんだ? 足が切られて、ロケットみたいな状況で(血しぶきをあげて)飛んで、ロケットの燃料が無くなり、落ちた。物語の落ちはここではないのに。


「まぁいいか」


極論、俺は生きてるし、考えても分からないと思う。別に俺はそういう推理が大好きな推理オタクでもなく、なんでも知っているような天才ではない。

俺は体に着いた葉を叩いてから立ち上がった。


「おちおちしているとこれじゃあ帰れないないな」


理由は簡単だ。


「ここ何処ー! 」


ある日の黄昏時。森の中で叫んでいる高校生がいた。それは俺だった。

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