修行の日



午前8時、起床。部屋には誰もいない。いや、これが正しいあり方だが、なにか物足りない気が.........。


「ニクス君やっと起きたね」


リビングに行くと椅子に腰掛けながら足組みをして、コーヒーを飲みながら新聞を読む、優雅でかなりおっさんなことをしている銀髪の男がいた。オシャレかメガネをつけている。


「遅いよ兄ぃ。これからみんなでジョギング行こって

いう話だから2人で留守番よろしくね」


玄関からニコの声がする。元気だなぁ。


「おー。2人ってことは俺とアブァだよな? 」


当たり前だ。で、俺そこにあった麦茶を飲む。


「違う違うー。アナさんと兄ぃだよー」


「そーゆーことなので僕は行ってくるね」


不思議なコンビだな。ニコとアブァって。麦茶を噴き出しはしなかったが、


「変なことすると承知しねぇぞ」


忠告の言葉は出てきた。


「分かってるよ。では」


玄関ドアが開き、2人は行った。

俺は玄関で立ち尽くす。


「そういえば.........」


アナは起きてないようだ。寝かしとこうかな。でもなー暇だしなー。


「寝顔くらい見に行ってみるか」


とか言って俺は仕返しをしたいだけなのだが。


——


「お邪魔しまーす」


小声で言って、部屋に入る。最低限のマナーだろう。


「「あっ」」


アナは既に起きて、着替えをしていた。これはまずいパターンだ。さっさと退散しようとすると、


「ニクス。こっち」


アナの平静な声とともにベランダへ誘導される。まぁ実際誘導というか連行だけど。身の危険を感じたからとりあえず『増長』で体を守っておく。


「『衝撃拳』! 」


胸を貫いたような痛みに襲われる。「ぐふっ」という言葉も言わせて貰えずに俺の体はベランダの端まで吹っ飛んだ。


「そこで治るまで座ってなさい」


ここは廊下じゃなくてベランダですよ?


「事故だっ.........事故.........」


やっとの思いで出た声はこれだった。


「あ、そうかしら? まぁ殴った時点でもう遅いから私

は気にしないけど」


いや気にしないじゃなくて謝れよ。俺は気にするしさ。


〜約30分後〜


「ふぅ.........」


ようやく回復した。というか、アナ絶対本気だろ。

破れた服を着替えてからリビングへ向かった。


「あら。早かったわね」


「本気でやった自覚ありと見たが」


彼女は首を傾げながら。


「そうかもね」


謝る気なし。俺にも非はあるけどお前にも非はあるからな! と、口で言えるほど俺は度胸がない。


「.........」


話題がない。いやよくある事だけど。ふと昨日のことを思い出す。


「お前。昨日装具使った時、槍が手元に戻ってなかっ

たか? 」


いや、そんな顔すんなよ。「え、何? それが何かおかしい? 」と、言ってるような顔でこっち見るな。無言の訴えほど反論しづらくて、怖い物ねぇんだよ! しかも今回はこっちが間違えたみたいじゃねえか!


「だから、俺とニコの安全保証は? 」


アナは手をポンと打つ。いやなんのために俺はお前から借りたんだよ。いや、「あ、そんなこともあったねー」じゃないよ。

てか、顔で俺らは会話できるほど仲良くなった気はしないがな!? 自分でも驚いたよ!


「そんなことはおいてといて」


いや転換すんなよ。重要事項だぞ。


「今日から最後の1人を見つけます。さっさと見つかる

といいけどね」


いや重要だけど俺らは!? これもまた反論はしないが。


「最後の1人の検討はついてるもんだと思っていいの

か? 」


「そんなわけないでしょ。見つかってたらここに連行

してくるわ」


いつの間にか俺の家が本拠地になってるな。別に親がいない限りいいけど。


「あるとしたら.........ニコちゃんね」


「それは無しの話だろ。巻き込みたくないって」


「いや。私達のアジトがバレたらもちろんここは完全

に破壊されるでしょう。最終的には。ならいっその事

仲間にして.........」


アナの顔が暗くなる。


「いや。何言ってんだろ私。ごめんね」


「ニコが入るつったってまだ発現もしてないだろう

し、戦力にもならないんじゃ? 」


「うーん。そうね.........」


策があれば俺も賛成だが、ないのならダメだと言うざるを得ない。というか、兄として止めたい。出来ればだが。


「ただいまー」


ハスキーボイス。


「ただいまー」


大人の低い良い声。


「ニコちゃん。アブァさんお帰り」


「毎度毎度面倒だが言わせてもらう。アナとアブァは

自分の家じゃないだろ! 」


2人は顔を見合わせる。


「「いいじゃない(か)」」


ハモった。


「まぁいいけどさ」


何を言っても無駄だろうし。と、小声で続ける。


「そんなことよりさ、皆でいつも何話してるの? 」


ニコは話題そっちのけで転換してくる。

唐突だな! でも、ここで正直にいえば楽になるかもしれない。


「あとさ、昨日、アナさんみたいな銀髪の人が外で、

なんか犬と戦ってたからなんか関係ある? 」


バレてた。「どうするんだよ」アナに目で伝える。返事が帰ってきた。は? 「知らないわよ」じゃねぇよ。アブァは? あ、あの顔は予想外のこと過ぎて驚いてもう使い物にならん顔だ。「いやいや今決めろよ」「いやよ。巻き込みたくない」「だからってこの修羅場くぐり抜けろと? 」「どうにかしてよ。兄でしょ? 」

いつの間にか会話が成立していた。


「兄ぃ。アナさん。言いづらいんだけど」


「「なに? 」」


「声に出てる.........」


「「.........」」


口での会話が成立してしまっていた。

「言うよ」と、今度はちゃんと目配せで伝える。アナは頷いた。


「あー信じてもらえないかもだけど聞いてくれるか?


「うん。教えて」


——


「・・・・・・ということ」


「.........」


「分かったか? 」


「ううん」


首を横に振る。まぁ当たり前だ。


「でも私が活躍は出来なさそうだよね」


「んーそうかもしれないね」


アブァ。誰が喋ってるか分かりづらいから入ってくるな。


「そうね。私もアブァさんと同意見かしら。本当に何

かわかりやすい才覚でもあればね、いいんだけど」


アナも同じく分かりづらいからやめておくれ。


「私は皆の力になりたいけど、なんか1段飛ば

しできるのってなんかあるの? 」


そう来るよね。出来れば戦闘には出したくないんだけど、人の為となるとこうなるのはわかってたのかもしれない。

あれ? 目が凄く輝いてるな。なんか目的が違う? みたいだ。


「というかゲームみたい」


あ、そう。確かにゲームみたいだよな。こういうシチュ。


「ねぇ。僕の持ってる剣で、エクスカリバーってのが

あるんだけど試す? 」


——


「へー。軽いね。これでまだ鞘もついているんでし

ょ? 」


竹刀のように振り回す。危ねぇな。


「そうだよ。試しに抜いてごらん」


俺が昨日、1回試したら全く抜けなかった。いや主人公が弱いのはよくある事だけど、にしても他が強すぎない!?


「よし。んー! ふー! はー! うー硬い」


ニコがやっても開かなかった。ニコは不満げだったが、抜けたら俺は妹にまで負けるようになってしまうことから、少し安心もした。


「まぁ僕が持ってても意味がないからニコ君はこれを

持っておくといいよ。竹刀よりも戦闘で使えるはず

さ」


いや。なら俺にくれても良かったんじゃない?


「ニクス君。君はあまり剣技が達者ではないだろう?


「すみませんでしたねー。出来の悪い兄で」


全員が苦笑いした。悲しいな.........。


「で、どうする? この後は」


さっさとその思い空気を消したかった。


「そうね.........。別に何も無いからご飯でも食べましょ

うよ」


「僕も賛成だね」


「じゃ私も」


「誰が作るの? 」


俺は当たり前の事を聞く。


「「「どうぞどうぞ」」」


それっぽいけど違う!


「オムライス作るから手伝えよ」


——


カン! キィーン!


金属音が廃工場の壁に反響する。


「もっと槍を長く使って。両手で、早く、鋭く。それ

でもって軽やかに」


アブァはアナの槍を全ていなしながら冷静に指導をしている。アナとアブァは特訓中だ。俺は何をしてるかと言うと、重量系の力魔法の練習をしている。簡単に言えば体重を軽くしたり、重くしたりして遊んでるだけだが。しかも魔力消費が大きくて今は絶賛回復待ちだ。


「はぁはぁ」


アナは息を切らしているようだ。


「もっともっと。僕に勝つことは難しいと思うけどこ

の前の機械人形を倒せるくらいまでは強くなって欲し

いな」


心読めるやつが読めないやつに勝てるはずないもんな。


「ちょ、ちょっと休憩」


「もうかい? 」


「アブァさんは体力有り余ってるの? バテてないみた

いだけど」


「そうだね。僕はこの前までは暇すぎて何もすること

がなかったから体力作りをしていただけだからね」


よし、回復した。『重力グラビティ×½』

普通にジャンプする。


「おー。すごいじゃない。『増長』使わずに『重力』

で2倍くらい跳んでるじゃない」


小さく拍手をしながら来る。ちなみに2倍跳ぶのは当たり前なのだが.........。


「いやでもな、魔力を使いすぎだと思う。これって外

への応用ってどうすればいい? 」


「対象でも触っておけばなるんじやない? 」


雑だな。専門じゃないからとはいえ。まぁ1番有り得そうだ。


「ニコ君はどうしたんだい? 」


「あいつは忙しいって言ってたから家に置いてきた」


「ふーん。ではアナ君。そろそろいいかい? 」


「いいわよ。アブァさん。よろしくね」


いいなー。楽しそう。俺は魔力貯めしたら使うを繰り返すから、暇な時間が動いてる時間の30倍くらいある。要するに暇なのだ。


——


「お腹いっぱい。もう動けない〜」


幸せそうな顔でソファにアナは寝っ転がる。いやー尊い。実に尊い。


「ソファに寝るなよ。そして食っちゃ寝は行儀悪い

ぞ。動けとは言わないけど.........」


寝てる。いやわざとだろ。これもまた尊いが。流石に起こすのは可哀想。いや可愛想だからやめておいた。


「ニクス君。好きな子の寝顔をいつまでも見ていると

僕がチクるよ」


「いい歳したおっさんが何言ってんだよ。いいじゃ

ん。人に成ったら告白すると思うしさ」


「ふむふむ。それならやめておこう。でも、フラグは

少ない方がいいよ」


あ、フラグか.........。絶対に回収なんてさせないけどな!


「兄ぃ。おやすみ」


「おう。おやすみ」


てか早いな。8時くらいだぞ? 風呂にも入ってもう寝るのか。


「テレビでも見てよ」


見るものもなく、適当にやってたアクション映画を見ていると、また廃工場とは違うような金属と金属が触れる音がする。


「ん? テレビだよな」


すると階段を誰かが降りてきたようだ。階段の方から音がする。


「ニコ。起きてたの.........」


そこには銀装束でカッコ可愛い感じになっているニコだった。黒髪で、いつも結ってある2つの尾は風呂後で流してある。いつもと印象が違った。


「貴方は、この体の兄と聞きました。なんと呼べば」


「ニクスだけど出来ればキャラとして兄者くらいでお

願いします」


誰だ? 多重人格か? 口調が違う時点でなんとも言い難いな.........。にしてもなぁ。


「おっと名乗り損ねていました。私はアーサー・ペン

ドラゴン。ブリテンの王アーサーです」


ほぉ。まさかのそういう展開か。


「おお。アーサーが降りていたのか。流石、聖剣が認

める人間だね」


いや、いきなりアブァが入ってきた。てかどこ行ってたんだよ。


「何をしてるんですか。しかし、貴方の容姿は変わりませんね」


「夢魔と人間のハーフだからね」


「そうでしたね。また会えるとは思ってません

でしたが」


? と、いうことは?


「えっと感動の再会のとこ悪いけど、2人はどういう?


「「主従関係」」


ハモった。てか主従関係?


「隠す必要も無くなったし、言おう。僕はマーリン。

アーサーに仕えたブリテンの騎士さ」


「私は先程の通りアーサーです。気軽にアーサーと」


いや、は? すごいなこの2人。コンビでよく出るのはあるけど目の前にいるとは.........。光栄すぎる。水道代と電気代、ガス代まで払えるくらい。


「何と間違えてるんだい? 」


「いや説明させたらボケ終わりだから」


と、小ボケ(しかもアブァしか分からない)をかまして、


「アーサーの性別は女性でいいんですか? 」


「はい。そうです」


伝説と違うんだ.........。以外だな。Fa〇eやん。


「とりあえず、その装具解かないかい? アーサー」


「そうですね。脱ぎましょう」


一瞬にして鎧は消えた。アナの装具解除時と同じように。脱ぎましょうって。なぁ.........。


「とりあえず私はこの体が寝ている時など、意識の弱

い時にしか体を使えないみたいなので夜しか動けない

と思います」


「今日のとこはこんな所でいいよね。僕は少しアーサ

ーと話したいから今夜はニコ君の部屋で寝るけどいい

かい? 」


いや、本人が寝てるからなんとも言えないが、まぁいいか。


「いいよ。けど、アーサー。貴方がその体を守ってお

くれよ」


「承知しました」


「特にアブァ。いや、マーリンから」


「ふふっ。そうですね」


微笑んでくれた。


「では、また明日」


「明日の朝ごはん。ニクス君が作ってくれよ」


「お、おう。わかった」


それはないだろ。断りづらいじゃないか。にしても、2人は昔話にでも花を咲かすのかな。花の魔術師のように。ま、そっとしておこう。


——


「ニクス.........。おはよう」


「まだ夜だ」


「じゃあ寝る」


「ソファに寝.........」


「じゃあ連れてって」


アナは両手を広げてあたかも幼稚園児がおんぶと言ってるかのようにしていた。顔が赤く、「にひー」と、口をいー、っとして笑っている。


「はいはい。お姫様。どうぞ私の背中にお乗り下さ

い」


「ははーくるしゅうない」


背中に乗せたところで、俺の部屋しか空いてないことに気づいた。俺のベッドに寝かすか。勿論、いやらしいことなど断じてない。断じてない。断じてない。


「アナ。今日は.........」


不意をつかれた。おんぶしながら寝やがった。嬉しい限りではあるけど動けない。重い。と、言ったら即起きて即刻殺されそうだ。


「尊いなぁ」


俺はこのホムクルが大好きになってしまったようだ。

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