鍛錬の日



「兄ぃ兄ぃ! 起きてるか知んないけど私遊び行くから

ー。鍵は閉めとくねー」


下からニコの声がする。眠い。とても眠い。時計は.........。


「兄ぃ! 今ちなみに9時半だからねー。昨日遊びに行

くって言ってたけどいいのー? 」


俺はベットから飛び起きる。カーテンがほのかにではなく、分かりやすく光を通して明るくなっている。


「マジか!ニコ!ありがとう!」


「じゃ私行ってくるー。夕飯までに帰るから夕飯兄ぃ

作っといてー」


「わかった! 行ってらっしゃい! 」


Tシャツを着ながら言う。

朝ごはんは食べる暇なさそうだったので食べず、お金とスマホ。あとは菓子パンを持っていくことにした。


すぐに自転車にまたがり、家をあとにした。


——


自転車ごと中に入る。


「ふー。やっとついたー。ごめん。遅くなった。えー

と、アンナ? 」


「アナ! 覚えてよね。遅れたのはまぁいいわ。あなた

への授業が減るだけだし」


「ごめんごめん。冗談冗談w」


アナは不満げだ。まぁ失礼極まりない俺の行動のせいなのだが。


「じゃあちゃっちゃとはじめるね。何から教えればい

いかしら? 」


何かって言われても.........。何から何までとも言えないし。


「んー、じゃあ原理ってあるの?魔法に」


「あるわ。この世の生物1つ1つが魔力を有している訳

では無いの。だから魔法はやり方を覚えてもできる

訳じゃなくて、魔力があるか無いかが問題なのよ」


「でも俺は昨日初めてだけどできたよね?それだとこ

の世の全ての人が使えるんじゃ?」


「それにも色々あってね、魔力っていうのは発現する

かも大切なの。それこそどこかの家の 血筋でもなき

ゃ発現なんて滅多に普通の人間には起きない。あな

たの場合とんでもない才能があるのかもしれないわ

ね。あとは.........もしかしたら既にあなたの魔力は

発現したことあるのかもね」


「そっかー。いつ発現したんだろ」


「本人に記憶がないなら何もわからないわね 。あとは

何を知りたい? 」


「じゃアナの目的。なんか隠してるよな」


場が凍ったように冷たく、静かになった。


「そうよ。私は隠してる。でも、今言う必要はない

の。すぐ知ることになるわ。すぐに始まってしまう

から」


もっとちゃんとしたものを聞こうとしたが、アナはとてつもない金縛りのような威圧感を放っていて、その場にいるだけで不安感が増え、話しかけることすら難しかった。


自然と汗がでる。


「ほら! 魔法の鍛錬するわよ! 」


彼女は笑顔で言うとその瞬間、金縛りが無かったかのように自然に解けた。


「お、おう!今日は何やるんだ? 」


俺は汗まみれの顔で言う。元気を振り絞った。


「今日は基本の魔力を伸ばすためにまずは体力が必要

不可欠! ということで、ジョギングに行くので市立

第2公園にいくわよ。」


——


青い空! 白い雲! 女子と2人の初デート!


なんていい日だ!


おまけにい、も、お?と!ん!? 妹!?


「なんでいるんだよニコ!? 」


「遊びに行くって言ったけど兄ぃ、友達いないでし

ょ。1人でなんて可哀想だなぁ、と思って、1人で遊

びに行くくらいなら私もついて行っ て、一緒に遊ん

であげようと思ったらなんと女子とデート! これは

暇になった私が邪魔せずとしてなんとする! 」


3人で同じくらいの速さで走る。時速4〜5キロくらいかな?


「いらんわそんなお節介! 早く帰れよ」


「いいじゃない。可愛い妹さんで」


「ですよねー。こんなバカで友達いなくてそれなのに

お節介とか言うツンデレにはとても良い妹ですよ

ね」


「自画自賛もやりすぎると可愛くないぞ」


後で覚えとけ。絶対なんかしてやる。


「そう?私は兄弟とかいないから凄く羨ましいわよ」


「やめとけやめとけ。兄妹なんてろくなもんじゃねえ

よ。喧嘩するし、うるさいし、今回みたいにお節介な

こともしてくるぞ」


「それは兄ぃが悪いんだろ」


「いや、5割以上ニコが悪いだろ」


「いや、兄ぃの方が多い! 」


「お前のほうが多いだろ」


「兄ぃの方が! 」


「んだとぉー? 」


互いの耳を道端でつねり合う。しかし、立ち止まったりはしなかった。


「あなた達本当に仲良いのね」


「「良くない! 」」


ハモった。


アナは笑い、俺もニコも顔を見合わせて思わず笑ってしまった。


——


「やっと終わったー」


ジョギングが終わり、廃工場に戻ってきた。


「「もう疲れたの? 」」


「次は女子2人でハモリかよ」


精一杯笑おうとしても、今は疲れのせいで苦笑いしか出来ない。てか夏休みに走るなんてほぼ自殺行為に近いこと分かってんのかこいつら。


「じゃあ次の鍛錬するわよ」


「わかった。でも、ちょっと待て。疲れたから休憩く

れよ」


「2時間ほどのランニング。しかも途中からニクスにあ

わせてほぼウォーキングだったじゃない」


「兄ぃはだらしないな〜 」


「俺はお前らと違って体力がないんだよ。てかお前ら

何部だよ」


「「陸上部」」


またハモった。


「あとニコ。ちょっと耳貸せ」


「え、何?」


「ちょっと2人でデートさせろよな。気の利く妹には後

でお土産買って帰るから」


耳元で囁く。


「物で釣れるほどもう子供じゃないんだなぁ〜」


「じゃこの前欲しがってたフォー○・ナイト課金スキ

ンは? 」


「うぐっ。そ、それは、う〜」


身をよじって考えている。


「じゃ、兄ぃ家でゲームしに帰る! 約束は今夜にでも

お願いね?」


簡単に物で釣れすぎだ。って言ったらアナに釣ったことがバレてしまうのでギリギリ抑えた。


「説得ありがとう。あの子がいると魔法の特訓は出来

ないから困ってたのよ。見られてもまずいから。家

に帰したのはいいけどまだ監視とかされてると困る

から家まで送ってきて」


「大丈夫。1回家電からかけろって言っておいた。追い

かけなくても大丈夫。あと、あいつはそんなに無駄

なことはしない。時間だって大切にしてるし、まぁ

俺のことも考えてくれる優しい妹だよ」


「信頼し合っているわね。でも、これからは誰が味方

で誰が敵かを見極める必要があるからね」


また緊張感が走った。


「ニクス、そういえばあなたの妹も魔力があるみたい

ね」


「? まぁそういや結界に入れたもんな。でも、昨日

家系には魔力があるって」


「そうだけと、まさか2人に継承されてるなんて。普通

は1人目の子供に継承させるんだけど、自動的にそう

なっちゃうんだけど2人とも魔力持ちなんてそうそう

有り得ない」


「へぇ、そうなんだ。魔力家系についてはよく知らな

いからわかんないけど継承させるのが1人目ってのは

なんとなく分かるな」


王道というか当たり前というか。そういうものだ。


「まぁいいわ。あの子を巻き込むことはしたくないと

私は思う」


顔が暗い。

彼女の隠してることはどんなことだろう。これから何が起きるか知りたいが、どうすれば答えてもらえるか分からない。


「で、今日はどんな魔法を教えてくれるんだ? 」


「まずは復習するわよ。ちなみに昨日教えた魔法は

『増長ブースト』。足や腕、色々な場所に使えるん

だけど上がり幅が結構広くて、最大10倍とかなんだけど調節間違えるだけで、耐えられずに足の骨全部折れて、下半身もう使えませんなんてあるからね」


「いや、ならなぜ初心者にやらせた? 俺再起不能にな

っちゃうかもじゃん」


「あのくらい、使えないのならば私はあなたを欲しは

しないからいいの。まぁ最終試験てとこね」


コイツはほんとに感情が無いのかってくらい人を簡単に殺す、又は再起不能にすることに躊躇はおろか罪悪感の一欠片も見当たらない。


「アナ、お前って怖ぇな」


ぼそっと口から不意に出てしまった。いや、故意だったのかもしれない。


「なんか言った?」


どうやら聞こえてなかったらしい。


「独り言だから気にすんな」


俺は笑いながら言った。


彼女は寄ってきて、


「目が笑ってないよ。ニクス」


誤魔化しが通用しない。

コイツは人の心が分かるのかよ。


「本当になんでもないから気にすんな」


「ふーん、そっか」


「で、さっきのどうすればいいの? 調節の仕方」


「簡単よ。魔力を使う時に足の力に倍率をかけるか

ら、そもそもあまり力を入れなければ大丈夫。多

分」


「おいおいアナが自身ないのは、俺からすると結構怖

いぞ」


「しょうがないでしょ。私の魔法は音。音以外は文献

に書かれている程度の知識しかないわ」


「まぁそうだよな。わかった、自分で頑張ってみる

わ」


「そうね。練習あるのみ」


——


「今日はそんなとこにしときましょ。足がもう使い

物になりそうにないじゃない」


「そうだな。もう疲れたし、時間も、もう6時だし帰る

わ。明日もできる? この夏休み無駄にする訳にはい

かないからさ」


彼女は耳たぶを触りながら考える。


「明日はちょっと無理、だね。ちょっと用事があって

ね。明後日はいけると思う。詳しくはメールで

送るね」


「おう。じゃ、よろしくな」


今日は全然魔法を教えて貰えなかったな。


「やば! メシ忘れてた! コンビニで買うか.........」


コンビニに寄って家に帰ることにした。


——


「ありがとうございました」


コンビニを出たところで空を見ると、満天の星が煌めいていた。

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