出会いの日


午前9時


「これで晴れて退院だな。二度と来ないようにしろよ」


ここは刑務所かっていうくらい送り方独特だな。でも今田のおっさんには世話になったので、


「お世話になりました」


と、とりあえず言っておいた。おっさんは送り終わったらすぐ病院に戻った。


病院から家までは少し遠い。夏の日差しは眩しく、蝉の音が一層暑さを引き立たせる。

ふと周りに意識を向けると、


「ん? ここは確か市立第2公園。初めて来た」


誰か女子がいる。高校生くらい? だ。1人でベンチに座っている。こっちを振り向く。


「そこの君! ちょっといい? ねえ! まって! 」


大声で叫んでいる。まさか俺のことだとは思わず、無視していた。


「君、3日前死んだでしょ? 」


もう、その時には俺の真後ろにいた。緊張感がはしる。足音がしなかった。.........気がする。


「何のことでしょうか? 」


もう関わりたくない。一刻も早く帰りたい。


「もう1回殺すよ。嫌ならついてきて」


小声で言う。完全に脅迫じゃないか。しょうがない。ついて行かないと殺される。次生き返る保証なんてないからついて行くしか無かった。


「ついたよ」


そこは数年前に廃屋となった工場だった。フェンスは飾りかっていうくらい簡単に入り込める。外は雑草がボーボーだが、中は案外キレイだった。


「ここに座って」


対に置かれた椅子を指さす。


「まず、質問。なんで生きているの? 」


「名乗ったらどうだ。俺を拉致監禁する訳でもないだろ

うし、そのくらい教えて貰ってもいいだろ」


「ん? まー、そうね。言っても大丈夫でしょう。手塚

アナ。高校生よ。今はこっちに遊びに来てる。じゃあ

こっちの質問に答えて」


「一応名乗っておく。桐山ニクス。質問の答えは分から

ない。こっちも火の鳥に飲み込まれる夢を見たくらい

で、なんも分からない」


「なるほどね。そりゃ〜死んでも生き返るわけだ。君、

憑かれてるね。これで確信がもてた」


「憑かれる? 何に。悪霊か? 悪魔か? ファンタジーの

世界は2次元だけにしてくれよ。......。マジ?」


「多分マジ。もう1回殺されてくれれば確信が持てるん

だけど」


「いやいやいや。ないないない。絶対にない。この3次

元で、化学が進歩してるこの時代で、もののけの類で

すか?」


「うるさいわねー。じゃこれでどう?装具解放!アテ

ナ!」


彼女の体に金色の装身具がまとうようにしてなんというかくっついていく。次の瞬間目の前に現れたのは俺を殺した金の装いをした女性だった。


「マジかよ。当たってる」


小さくつぶやいた。


「ん? 何? 聞こえなかった」


「いやいやなんでもない。考え事してた」


「ならいいわ。次は魔法を使って見せようか?」


彼女は自信があるのだろう。もう既に顔がにやけている。


「じゃ、じゃあお願いします」


「音魔法『衝撃波ショックウェイブ』」


彼女は槍を前に突き刺しながらそう叫ぶ。その槍の先から見えないが、分かる。空気の移動が。その直後、壁には小さな凹みができていた。驚いた。異世界に行かなくとも、こんなことができる人がいてしまうなんて。


「確かに本当にみたいだな。凄い。うん、凄いしか感想

が出てこない。あ、でもなんで俺を殺したの? 」


でも魔法ねぇ.........。百聞は一見にしかずの実践をしてよく分かったつもりだが、なんだろう。わからないことが上手くわからない。


「うう。覚えてたのね。凄い軽い理由よ。まぁ私にとっ

ては重大事項だからあれなんだけど。理由は見られた

から。私の姿を。正しくは私のこの姿を。あなたも能

力者ならば、わかるでしょ? 神具や魔法を見られた

らいけないことくらい」


「でもなんでコンビニなんて行くの?それじゃあ普通見

つかると思うけど」


「あそこには結界があって普通あの結界の中には誰も入

れないはずなのよ。魔力を持つ人間しか入って来れな

いし、元々入っていたら寝てしまうはず。ちなみにあ

のコンビニ店員は魔力適正があるとても珍しい人だっ

たていうだけだと思う」


「ちょっとまって。能力者って何? 俺も能力者? 魔力

の適正? 」


「あんたまさか知らないの!? 能力者なのに!? 家系は?

桐山なんては聞いたことないし。母方の姓は? 」


こいつ、もう俺が1回死んだという件、どうでもいいと見える。ていうか家系ってもう完全にファンタジーじゃん。少し楽しくなってきた。


「母方の姓は本堂家です」


「本堂家!? 魔術家系の王道じゃない。それこそ今回の

戦争に参加できるだろうし、勝つことが出来ると思

う。しかも君の神具は『フェニックスの炎』別名命の

火。詳しくは知らないけど不死ってことね。火の鳥の

夢から推測するにそのはずよ。でも不思議ねぇ。私な

んて中2のとき長女だからって神具アテナを受け取っ

た時にもう詳しい話を聞いたのに」


話がどんどん分からなくなっていく。


「俺はこれ(命の火)を貰った記憶は無くって、たぶん教

えてもらってないのは祖父祖母は早くに亡くなった

し、母さんからはそんな話を聞いたことない」


「そうね。その感じだと本当に教えてもらってないみた

いね。じゃ適正でも測ってみる?測っといて損はない

から。この石を握って」


そう言って彼女は小さな虹色の石を握らせた。その石はとてもキレイだった。


「ちゃんと握ってないとそれ逃げるから注意してね。

じゃあいくよ。あと危険だからちゃんと後ろに倒れる

のよ」


マジで言ってんのかこいつ。危険て。てか了承なしで

トントン拍子。前に倒れちゃいけないのもなんで?もうどうでもいいからはよ終われ!


「『解除キャンセル』」


「おいおいなんかこれ動いてねぇか?てか、え?なんだ

よこれ?」


俺の手元は、なんというか揺れた。どんどん体の力が抜けていく。


「大丈夫?まぁ無理もないわ。悪魔の石を握ってるし

ね」


「おいおいおい。なんちゅーもん握らせてんだ。おかげ

で今は一歩も動けねぇ。どうすれば治る。まさか俺を

殺すためか?」


どうやっても体は動かない。倦怠感だけが俺の体を作っているようだ。


「殺すわけないでしょ、未来の仲間を。ものの5分程で

治るわよ。でね、結果はあなた力魔法の適正よ!使う

のは難しいけど頑張れば最強の魔法。練習してみる?


「ちょっと待て。トントン拍子で進まれてもこっちが困

る。まず、魔法のまの字も知らない俺に何を言っても

分からないし、とりあえず5分待って」


ー約5分後ー


「で、動く? 」


「とりあえずは」


「じゃあ何から知りたい?なんでも知ってることなら教

えるよ?」


情報が多すぎて何から聞いていいか分からない。


「魔法ってどうやったら使えるようになる? 」


「えーと、難しいわねー。力魔法なんてもう試す実験場

なんてないしね。じゃあジャンプしてみて」


超全力でジャンプする。


「30センチくらいかしら?結構すごいんじゃない?じ

ゃあ次はこの石を持って『高く飛びたい! 』と思っ

てジャンプしてみて」


次は青い透き通った大きめの石を後ろにあるバッグから出して俺に手渡す。


「また魔力吸われないよな?」


「大丈夫大丈夫。はいはいさっさとやっちゃってー」


高く飛ぶ高く飛ぶ高く飛ぶ。そう念じて強く飛ぶ。


「!? うおっ高っ! 」


「ニクス! 上! 上! 手を上に上げて! 」


ゴン!


彼女は大爆笑した。


「あーおもしろwそこまで飛べるとはね。全く考えてな

かったわ。まぁ何メートル? 5メートルくらい飛ん

だかな? 」


「痛ってぇぇぇぇぇぇえええぇぇー! 」


何もしなくても下降していく。当たり前だ。あんな勢いで頭打ったらすぐに落ちるに決まっている。俺は地面にトマトのように弾け飛ぶかと思ったらアナにガシッと受け止められた。

俺、こんな危険なものと知らずにやっていたことが急に怖くなる。


「ありがとう」


「どういたしまして」


「.........」


心臓の心拍数が上昇し続けているようなので、


「そろそろ下ろせ」


「はいはい」


と、命令した。

お姫様抱っこをされていたのだが、そのまま離された。まぁ言ってしまえば尻餅ついて、背中を強打し、後頭部を打ちかけた。


「いいなー力魔法。そうやって飛べるの羨ましいな。音

魔法じゃそんなこと出来ないもの」


「君の音魔法はとても強いからいいと思うけど? あ

と、はいこれ。凄いねこの石のおかげ? 」


「そうよ。この石は魔力媒介で、これを持っていればあ

なたの魔力とこの魔力を使うことが出来る。これはあ

げる。でも制限付きだから注意して。この魔力結晶無

くなるとあなたのまだ微力な魔力しか使えないから。

無くなったら言って。貯める方法があるから。そん

で、明日から特訓よ!色々教えてあげる。私はここに

ずっといるから明日朝9時からここで特訓。いい? 」


「わかった。だけど、なんでこんな場所にずっといる

の? まぁ練習には適してるけど。ホテルにでも泊ま

れば? 」


「お金がないのよ」


小さく言った。変な空気になってしまい、申し訳なくなった。

これは言ったからには言うべきか.........。


「……うちに来るか? 」


「いいの? お家の人とかは? 」


「父さんと母さんは今日からヨーロッパ旅行。夏休みだ

し、妹がOKだしてくれればいいよ。もう日も暮れた

しもうさっさと行くぞ」


「でも、やっぱりダメだよ。ほぼ初対面で、その人の家

に上がり込んで寝かせてもらうなんて」


全く持ってその通りだ。俺は度をすぎたお人好しなのかもしれない。


「そうだね。まだ君のことを完全に信用できると認めら

れる理由がないから泊まるのは確かにやめておこう。

でも欲しいものとかはある程度集めるよ」


「そうね。じゃあ5000円貸してくれない? 」


「じゃはい。これは魔法の講習代だ。でもしっかり教え

てもらうから覚悟しとけよ 」


「あ、うん。わかった。ありがとう 」


今思えば気のない返事だった。


「じゃあ俺、妹が「おそーい!」って言って待ってると

思うから帰るわ。明日9時ここで集合。L○NEかメア

ドある?連絡取りたいとき便利だから教えて」


「ちょっとまってて紙に書く。 はいどうぞ。」


彼女は話しながら手際よく書いた。


「じゃまた」


「遅れるんじゃないわよ。あと……なんでもない。また

ね」


「おう。やっべぇ、ご飯に遅れるとあいつ怒るからな。

急がないと」


俺は夏の涼しい夜道を走る。


「夜道は危ないから気をつけてね」


彼女はそう言っていた。殺害予告にしか聞こえなかったが。


明日からが楽しみだ。

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