疑問の日


起きるとそこはコンビニだった。目の前には倒れている女性がいるはずなのにいない。

自分の周りにあったはずの水溜まりのようになっているはずの血もなくなっている。

立ち上がったが、


「やべぇなまた意識が......」


最後の力で時計を見た。てかもう足も手も力が入らなくて目の前の時計みているだけだが。俺はまた倒れる。午前4時35分。

そのまま意識が消えた。


「大丈夫ですかー大丈夫ですかー」


朦朧としている意識のなか、誰かが話しかけてくる。


「......う、ん、はい」


今思えばなんて言えばいいのか分からなかった。だって母さんがいれば「母さん........」でいいし妹だったら「ニコか?」みたいな感じでいいはずだけど隊員さんだとして分からない。


「お、気がついたみたいだな。ここは病院だよ。いやー

良かった。お母さんさっき忙しいって帰っちゃったん

だけどまた呼ぶ?」


「ありがたいですが大丈夫です。多分仕事なので」


来て欲しくないという思いもあったが、本当に迷惑は掛けられないという思いが大きかった。


「びっくりしちゃったよ。 貧血を起こした高校生だな

んて。どうしたの君?」


全く知らない情報ばかりで整理が追いつかない。


「あ、大丈夫だよ急がなくって。全然整理つかないだ

ろうし。でも君あのコンビニであった殺人事件の容疑

者扱いだから後々警察に事情聴取されるかもしれない

けど」


はいまた新情報ー。ほんとこういう時ってどうするべきなんだろう。


「わかりました。ちょっと整理するので考えさせてくだ

さい」


「じゃ頑張って」


おしゃべりなおっさんは帰って静かになった。てか、「頑張って」ってなんなんだよ。まぁいいや。まとめてみよう。


昨日 11時頃

家を出発し、コンビニに向かう。


11時過ぎ

コンビニに到着。ここまでは順調。


11時30分頃

金の装いをした美少女降臨。刺される。同時にコンビニ店員が刺されて死ぬ。


この間に焼かれる?

意味わからん。


今日 4時半頃

起床? と言うよりは生き返った感じ。貧血でまた倒れる。


どうしよう。よくわかんない。


「あーもーやってらんないなぁ」


頭をわしゃわしゃかきながら独り言をつぶやく。今の時刻は午前7時半前。案外時間が経ってない。よく分からないので情報収集のため人をよんだ。


「あ、さっきの」


「今田だよ。急にどうしたんだい? 聞きたいことなら

言って」


「じゃあ俺っていつここに運び込まれたんですか?」


「6時頃かな。でも変だったよー。だって衣服には綺麗

に切られたように傷があったし、血が普通の貧血より

全然酷かったからね。もう逝っちゃったかと一瞬思っ

たよ」


笑えねぇ。でもこんなすぐ意識が戻るんならそうでも無いのでは?


「これで終わりでいいの? 気になったらいつでも呼ん

でね。ちなみに早めに退院できそうだって言うのと、

今日の午前8時半から事情聴取らしいから頑張って

な」


あのおっさん他人事みたいに言いやがって。


「1時間かぁ。暇の極みだな。あれ?携帯は......ガサガ

サゴソゴソ。あったぁ。やべぇ母さんからもニコから

も連絡来てる。面倒臭ぇな」


返信などをしているといつの間にか時間が経っていた。


「すみません。桐山ニクス君いますか? 」


忘れていた。8時半から取り調べだった。


——


「ありがとうございました」


「いえいえこちらこそありがとうございました」


やっと終わった。


情報をまとめてみると、コンビニ店員は死んでしまい、俺と店員を殺した人を映していたはずのカメラは午後10時に既に何者かによって壊されていて、発見には至らなかったこと、俺は11時にコンビニに行ったが、その姿は確認されていなくて、最初に目撃されたのは午前5時頃だったこと、店員さんは0時には発見され、その時俺はいたはずなのだがこの世界にいなかったことになっていたという情報だった。


なんとも信じられない。それにしてもあの子は誰なのだろう。高校生くらいだった。.........気がする。


「じゃあ思い出したり気になることがあったらこの電話

番号に電話して」


警察の人はそう言って去り、入れ替わるようにしておしゃべりな今田のおっさんが入ってきた。


「お疲れ様。君ちょっといいかな?退院のことなんだけ

ど予定だと明後日なんだ。まぁ結局は軽めの貧血だか

らね。なんか警察の人は君に色々聞いていたけど君お

金と携帯以外なんにも持ってなかったから殺人なんて

できる気もしないから証拠不十分で大丈夫だと思う

よ」


まぁ刑事ドラマの知識だけどね。と、付け足す。

いつまでも口が減らない。まぁ悪い人ではないことはわかる。


「え、でもさっき酷い貧血って言ってましたよね?」


「あ、あれ? いやいや本気にしてたの? すぐ意識が戻

るんだ、あんまし酷くないとわかってると思ってた

よ」


コイツめ。お喋りはいいが、本当に笑えない冗談だったのでやめて欲しい。


そう思っていると部屋のドアが勢いよく空いた。黒のツインテールが揺れる。まだ幼い顔つきの女子。


「このぉバカ兄ぃぃぃ!」


くぅ。うるさいのが来ちまった。幸いここの部屋に入院している人は俺一人しかいない。迷惑でしかなくなるとこだった。

? 今田のおっさんは.........。あ、逃げやがったな。


「どうしたんだよバカ兄ぃ。昨日夜出てってからなに

やってたんだょぉぉ」


怒鳴ったり、心配して泣いたり。俺の妹はとても忙しくって感情豊かだ。俺としては嬉しいのだが、なんともうるさいのは欠点だ。


「んーえーとまぁ、ごめんなさい」


「感情がこもってない!」


仁王立ちすんなよ。

本当にこういうのが苦手だ。感情を入れるっていうのがどうやっていいかわからない。


「外に行ったきりで心配させたあげく、事件に巻き込ま

れてしまいすみませんでした」


「よし! まーいーだろう! で、大丈夫? 」


「今は大丈夫だ。色々あって大変だったけど別にすぐ退

院できるし、お前の顔見たら安心したよ」


俺は真顔で言ってしまった。かっこいいやつはこういうところで笑って見せるのだろうな。


「なんか損したなー。こんな元気になってるから。もう

入院とか初めてでしょ?だからどんなくらいかなんて

わかんなくて心配したー」


ニコは可愛く笑って見せた。ニコッと笑った。どうしよう。こういう可愛いのに慣れてないからどうしていいのか分からない。妹は恋愛対象ではないが、可愛いとは思うのだ。


「ありがとう。あと帰らんの? 」


可愛いと思ってしまったら、だんだん一緒に居づらくなってきた。よし、帰らせよう。


「ふっふっふー。私は今日何もすることがなくて暇なの

だ! ということでゲームで遊ぶぞ! 」


あー厄介。どうすれば帰らせられるんだ?


「いいだろう、大○闘で勝負だ」


面倒臭いが付き合ってやることにした。


——


「あっという間だな。もう午後7時だぞー。そろそろ帰

れば?」


「やだ。いま125勝129敗で兄ぃの勝ち越しだろ。逃げ

るなんて卑怯だぞ!」


「卑怯で結構。母さんも心配するだろうし、さっさと帰

れ。また今度戦ってやっから」


「そろそろ面会時間終了なのでよろしくお願いします」


「ほら看護師さんも言ってるだろ」


「約束だよ!」


ムスッと顔を膨らませて帰った。


「やっと帰ってくれた......」


あれほんとに中2か?って思うくらい中身が心配だ......。もう寝よう。なんか今日は疲れた。昨日はどこかで気を失ったけど、今夜はちゃんと寝れそうだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る