空白の日


7時00分、起床。


朝日が眩しい。

いつもより早い起床。ちなみに予定は何も無い。予定のある日に限って寝坊するのだが、これも1種の物欲センサーが働いている気がする。


昨日は帰ってきてからこの前のプリペイドカードを使って妹に約束の物を贈ったのだが、それが高額で驚いた。最近の課金は大人向けが普通なのだろう。それを買わせるとは俺の妹の精神はどうなってんだよ。


「兄ぃー暇ー?」


隣の部屋からきこえる。別に会って話すのもありだが、2人が2人とも親が家にいないことでもう何も無い日は起きることすら面倒臭い。

タッタッタッタッタッ。

軽くて早い足音。いかにも軽快なステップだ。


ガチャッ。 という音で部屋のドアが開く。


「兄ぃ!こんなに暇なのは性にあわないし、だからっ

て勉強も手をつけようとするだけで眠気が襲う」


コイツはいくら寝ても足りないのか。


「入ってくんな。まぁ別に今回はいいけどよ」


「なに?いつもならいかがわしい漫画でもあるのか

な?」


煽ってくる。生意気だなぁ。


「ちげーよ。でもまぁそういうのあることもあるし、

朝っぱらからゲームしてることもあるからちょっと

ぐらい躊躇して欲しいな?(圧)」


こういう時に便利? な兄の権限。使用して意味があったかなんては気にしないけど。


「で、なんの要件だ? 」


「よし! 一緒にジョギング行こ? 」


確かに体力作りはとても大切だと言われたが、無理に走りに行くのも気が進まない。


「わかった。可愛い妹の願いを聞こうじゃないか」


なぜ行くかというと簡単だ。勉強よりマシ。それだけだ。


——


「終わったー。疲れたー。今日は何時間くらい走っ

た? 」


俺は汗が吹き出ている顔で言う。


「まだ1時間だよ。え、まさかだけど、もう疲れたの?


「それ毎度言うんだな。まぁ運動部に体力で勝つ気は

ないけどよ。まぁ全盛期ならともかく」


「あれ? そういや兄ぃは何部に入ってるの? 夏休み

に部活はないの? 」


友達付き合いが苦手で部活に入っていないなんて口が裂けても言えない。


「部活は一応剣道部に入ってる。まぁ入ったはいいけ

ど仲のいい友達みんな来なくなってもう行くのがめ

んどくて行ってねぇんよ」


とっさの嘘は見破られた経験が最近(昨日)だったので、少し恐れと罪悪感を感じた。


「やっぱ好きなんだねー剣道。まぁ小学生の時だっ

け? 全国に行って叩き落とされたの」


こいつ、当時小3なのによく覚えてるな。


「はいはい。言うな。まぁ中学の時はなんもやってな

かったし、高校は絶対部活やれってとこだし、やれ

るものとしたらそれこそ剣道以外なかったんよ」


平然と言ったつもりだが、自分の中ではとても悲しくなる。


「ふーん。まぁ腕は落ちてるって訳だね」


「おいおい。言うて天才やら剣聖やら言われた俺だぞ

2、3ヶ月で落ちる腕などそうそう持ち合わせてねぇ

よ」


実は半年もやってないなんて言えなかった。

よくよく考えてみれば嘘ばっかだな俺。


「ほほう。それは本当か試してみようじゃないか! 」


ニコは全国でベスト8の実力者で、俺の全盛期ではまだしも、今では手も足も出るようなやからではない。


「やめとくわ。勝てる気はしねぇからな」


「えーつまんなーい。道場行こうよー」


服を引っ張ってくる。だから相手にならねぇし俺の兄としての面を叩き割りたいのかコイツは。剣道だけに面をね.........。


「絶対にそれは却下だ! あの鬼に会うのはゴメンだ」


ちなみに俺が剣道の道場を辞めたのは何のせいかと言われたらあの鬼せいと言う。決して小5の夏に熱中症半分でやってた試合で負けたせいではない。もう一度会うなんて死ぬわ。

なんて、考えながら引っ張る手をは振りほどく。


「先生、久しぶりに会いたいって言ってたよ。行って

あげようよ」


あの、あいつがねぇ。だとして、俺が行く義理はない。


「嫌だから行かねぇ。あいつなんぞもう一生会う気な

んてねぇよ」


「酷いねぇ。ま、そう言うだろうと思ってたから気に

しないけどね」


「ニコはキツくないのか?あいつの練習とか言動と

か。行きすぎたとこあるだろ? 」


「まぁキツイけどね、あの人なんか女子には優しいん

だよ」


ロリコンじじいが。はよ死ねばいいのに。


「まぁ家帰ろうぜ」


話を転換しなければ鬼じじいへの憎しみが、口からあふれそうになった。死ねばいい。


——


帰ると、L〇NEが来ていた。


『今日、暇であったら午後7時頃に廃工場に来て』


アナからだった。


「兄ぃ! 部屋にいる? 」


「うっさいわ! トイレだト! イ! レ! 」


廊下で叫ばれると、トイレに響く。


と、思ったが、トイレで自分が叫ぶのは自分しかいない個室で、1番反響し、うるさかった。馬鹿は俺だった。


「なんだ。あ、そういや兄ぃ私いきなりお泊まりゲー

ム合宿の予定入っちゃったから5時には出るね。し

ったくーしったくー」


へぇ。あいつ今度は本当に友達との約束らしい。めっちゃスキップしてるのだろう。テンポの良い足音がする。


「ゲーム持ってくからー」


「はいはい。行ってらー。一応聞いておくが、男子の

家だったり、男子がいたりしないよな? 」


「んー、私の知る中にはいないかな。まぁ男がいて、

いかがわしいことの1つや2つしようとしてきたら殴

って殺さないように頑張る」


あ、そういやニコは夢遊病(自動反射式)で、何か害敵がいると眠ってる時、無差別に殴ってしまうらしい。それは本当に病気か、本能か。前例としては、一度林間学校の時に担任の先生が寝顔を見に来たときにやったらしく、朝起きたら泡吹いて倒れていたらしい。

どんな妹だ。まぁ俺の妹だ。


「まぁ色々お前すごいの忘れてたわ。まぁ楽しんでこ

いよ」


半分くらいトイレの流す音にかき消されたのだろうが、別に言わなくても良かったので、気にしなかった。


「家に1人か.........」


あれ? じゃあんな廃工場じゃなくて、家に呼べるな。どうしよ。


『今日は妹がいないので、家に来て大丈夫です。廃工

場じゃなくて、家で話しませんか?』


L〇NEを打ち込む。送信。


リビングを歩き回る。いつもL〇NEをしたらスマホからは手を離すのに、今日は自分が変だ。まさか、俺が、返信待ちをしている? マジか。いやいやそんなはずは無い。


1人のリビングで首を振る。誰かに見られたら完全に変人だ。


ピコン。


返信が来た。5分くらいで。


『分かった。そっちの方が良さそうね。てか誰もいな

いなら私すぐにでもそっち向かうわよ? 』


なんか、全てに対して行動が早いな。


『いいけど片付けがあるから早く来ても入れられない

かもしれない。ゆっくり、それこそジ ョギングして

からでも来てくれ』


んー。いきなり文章が変わる。統一性がないのは嫌だが、今はこの書き方が手っ取り早い。そして、書き直すのもめんどくさい。

送信。


「兄ぃー。私行くねー。明日の12時くらいに帰るか

ら」


「分かった。いってらっさい」


「いってきまーす」


すぐ来ちまうな。どうすっかな。片付けはいいとして.........。


「ガチャッ。兄ぃ! お客さんだよー」


「ありがとね。ニコちゃん」


女子同士なんか仲良くなってるな。てか、1周早! 絶対直接来ただろ。


「おー早かったな。まぁリビングに居て」


「じゃ兄ぃ。がんば」


ニコはドアを閉める。


「おい、がんばって何を」


ガチャッと音をたたて、俺の声をさえぎりながらドアは閉まった。


「はいはいニクス。もういいでしょ? 中学生の戯言

よ? 」


戯言って.........。いくつなんだよお前は。


「で、大事な話とは? 」


「この前の言ってた戦いが始まる」


今度は威圧を出してこなかった。


「戦い? そんな話、微塵もされてないぞ。なんだ? 戦

争か? 」


「まぁそんなとこよ」


そんなとこってどんなとこだ。いや、戦争なのは解ってもよく分からない。


①俺を助ける


②魔法について教える


③戦争に行こう


ん? 客観的に見てみるとこうなる。


①俺とか良い(?)人材と運良く出会う


②教えて使役する


③戦争に駆り出す


ってことか? へー。少しずつ読めてきた。


「お前、沢山話してくれたのはそれが背景だからだっ

たんだな。なるほどな。辻褄が合いすぎていて怖す

ぎるくらいに」


「物分りいいのね。まだ始まらないのだけれど」


「アナ。戦争はいい。じゃ1つ質問だ。お前は何者だ?

なぜお前は人を殺すことに躊躇しない」


そう。最初から分かっていた。変だということが。なぜなら人を2人殺めておいて平然としている。殺めるなんては幾らやっても慣れるはずはないはずなのに。殺し屋か、もはや感情のない物のようにも見えた。


「あなたにもう隠す必要もなければ、私の目的を言っ

た方が協力して貰えるかもしれないわね」


息を飲む。その空気はこれまで飲んできた空気よりとても重かった。


「私は人造人間ホムンクルス。人間と物の堺目。人

に作られた人間よ」


「!? ホムンクルス? あの? 不死身だったり、ウロボ

〇スの刺青とかの? 」


つい、かの名作マンガの話に持って行ってしまった。


「それはなんなのか私は知らないけど、不死身でもな

ければ刺青もない。それで、私は完全でもない」


「体が、動いて感情があって五感があるなら完全じゃ

ないのか? 」


「いいえ。私には2つ無いものがある。1つは人間の

体。もうひとつは『悲しみ』の感情。私はとてもこ

の2つが欲しい」


「それを手に入れるために戦争をする、か。まぁ分か

らなくもないな。よくあるパターンと言ってもいい

かもな」


余裕があるように見せた。

この時、俺は腕を後ろに組んで、左手で右手首を掴んでいた。なぜなら震えが全く止まる気配がしなかったからだ。立って話していると、この震えが伝わってしまうかもなので、俺はアナをソファに座らせ、俺も座椅子に座った。


「でも、お前戦争つったってそんなに人数なんては多

くないんだろ? 」


「そうよ。よく知ってるわね」


「いや、似た小説を読んだことがあってな」


「ふーん。事実を知ってるものが書いてるのかもだけ

どまぁ信じてる人などいないでしょう。あなたもこうやって言わなければ信じなかったでしょ?」


「そりゃぁそうに決まってる。現実で、こんなことあ

りえないからな」


「じゃとりあえず2人だけだけどパーティね。今回の選

定戦争は人造人間ことアナが勝つ!」


拳を突き上げてそう言う。

いつもの威勢に戻った。海賊〇に俺はなる!みたいだった。


「それはいいけど、選定戦争て、何をめぐって戦って

んだ? 」


「それはね、『奇跡の奇石ミラクルストーン』の所

持者。ひとつ、願いを叶えることが出来るの」


マジか。俺は絶対願いを叶えさせて貰えないことがわかった。


「あ、もうひとつ.........」


「ん? 何? 」


「お前みたいな人造人間がなんでこんなとこに? 」


「え? 何か悪かった? 」


「そういうことじゃないけどさ、町中にお前みたいな

人造人間いたらわかっちまうんじゃ? 魔法やら戦争

やら」


「そうね。でも、この日本もそうだけど、全世界、全

警察がグルで、魔法には記憶の書き換えというもの

があるとすれば? 」


「成り立つ、か。この世の中何が表で何が裏かなんて

分からないなー。ちなみにその話を広めたら? 」


「即刻殺す。私じゃないけどね。まぁもうついてるん

だと思うけど、言った瞬間に毒が出る虫があなたを

殺すはずだわ」


正確には即刻ではないんだけどね。と、続ける。


「じゃお前は? おいおい今からここで死にますはなし

だぞ」


1歩下がる。


「魔力保有者に話す分には平気よ。あとは聞か れたら

まずい話ならば結界をはるの。結界をはると、カメ

ラなどの機器に見えない次元に 入るの。魔力保有者

はもうひとつの次元にしか行けなくて、普通の人は

普通の場所。声も姿も分からないわ」


結界はほぼ安全だということは理解した。


「ちなみに張った時にその場にいると、そこから家に

行きたいという暗示をかけるの。そうすると、どん

な言い訳でも家に帰ってしまう時々コンビニが無人

に見えるのはそのせいかもしれないわね」


あれはマジで無人なのかよ。夜って怖ぇな。


「でも、本当に人がいなかったらまずいんじゃ? 」


「だから、そこが私たち、よくできた人造人間の出番

よ」


「なるほどな。時にはレジ打ち、時には戦力と、まぁ

無駄のないな」


「そういうことよ」


アナは貧乏ゆすりを始めた。少しずつイラついてきたのだろう。


「分かった。これ以上は聞かない。じゃ、話を変え

て、今日ここに泊まらないか? 」


「じゃあお言葉に甘えて。でも、寝る場所は? 着替え

はあるけど.........」


「着替えがあるなら大丈夫。て、もう7時半かよ。まず

は飯からだな」


「無理」


「へ? またなんで? 」


「いいでしょ! お風呂先貰うわ。のぞかないこと! 」


「のぞかないよ。別にお年頃だとはいえそこまでバカ

でもないし、失礼でもないよ」


相手が人造人間となったらもっとだ。

まぁむしろアリとか言う天邪鬼的思想は俺にはない。


「のぞいたら殺すからね」


本当に殺せるのがとても怖い。


「あ、そういえばお前の廃工場.........」


その発言を俺は止めた。自制した。そんでもって、堪えられずに1人で大爆笑した。


そりゃーご飯より風呂だわな。








廃工場に風呂なんてあるはずない(たぶん)。

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